2012年12月29日土曜日

大企業がイノベーションを不得意とする理由(戦略の組織適合)

2013年を迎える前に読むべき33のHBR Blog Postsから、“Why Big Companies Can't Innovate” by Maxwell Wessel (HBR Blog Network) の抄訳。戦略の組織適合の話。


大企業はイノベーションに不向きなように組織されており、実際に苦手である。
例えばベビー食品大手のGerberは、陰りの見えだした自社の潜在的成長力を踏まえ、大人向け食品市場に参入したが、失敗した。野菜、果物の選別、処理といった自社の強み、忙しく調理時間の確保できないアメリカの成人向けに健康な食事を提供するという意義(社会的ニーズ)があったにもかかわらず。彼らは”Gerber Singles”という新しいレーベルを立ち上げたが、独自のブランディング、流通戦略を採用せず、提供されるものは既存のものと大差なかった。

この背景には、顧客ニーズよりも大企業が追求しがちな効率性にフォーカスしてしまったことがある。顧客ニーズの充足よりも自社の既存資産の有効活用、社会的意義(社会的課題に対するソリューションの提供)よりも事業利益である。

ただ、この利益追求自体は企業として当然の行為であり、本当の問題はGerberの幹部が効率性を重視し、イノベーションを起こしにくいという大企業の特性を認識していなかったことにある。そうした習性から自由なグループをつくり、必要な権限委譲を行う必要があったのである。それができないのであれば、既存事業をしっかりと行い、株主に配当で還元するほうがいい。


(参考)
イノベーション・パフォーマンスの高め方」:
 戦略、組織両面でイノベーションに必要な要素を満たす。
カタリストを活用した大企業によるビジネスモデルイノベーション」:
 適切な人材配置により、大企業でもイノベーションを起こす。

2012年12月24日月曜日

イノベーションを阻害する、リーダーの行為

"The Innovator's Straitjacket" by Scott Anthony (HBR Blog Network)の抄訳。


18世紀、フランスで拘束衣が発明された。精神障がい者が自傷行為に及ぶのを防ぐためのものであったが、一方でその人から様々な可能性を奪ってしまうという側面がある。そして、同様のかたちで、リーダーがイノベーションを阻害してしまうことがある。

1.現在の実力をベースに物事を考え、限界を設けてしまう。
マーク・ザッカーバーグがそんなことを考えていたら、フェイスブックは生まれていなかっただろう。

2.カニバリゼーションを恐れて、腰が引けてしまう。
確かにアップルのiPadはノートブックやラップトップの売り上げをいくらか食ってしまったが、それ以上にタブレットという新市場を拡大させ、マイナス面を補って余りある価値を生み出している。

3.粗利益率が低下することを恐れて、立ち止まってしまう。
粗利益率を基準にして新しいアイデアの良し悪しを判断すると、将来的にはより魅力的なキャッシュフローを生み出す可能性を持った、ビジネスチャンスを見逃してしまう。30%の粗利益率を誇っていた新聞各社は、利益率の観点からオンラインモデルを軽視していたが、適切なビジネスモデルの構築により、しっかり利益が生み出されている。

4.ブランド足かせとなってしまう。
ブランドが損なわれるという理由で良さそうに見えるアイデアも捨てられてしまう。

5.現状のチャネルという罠にかかってしまう。
合理的な人間であれば、より確実に、そしてより多くの利益を生み出す(既存)事業を優先してしまう。破壊的成長を成し遂げたければ、新しいチャネルを考えないといけない。

2012年12月22日土曜日

動的価格設定 (Dynamic Pricing)

Why Online Retailers’ New Pricing Strategy Will Backfire” by Rafi Mohammed (HBR Blog Network) の抄訳。


アマゾンやベストバイといったオンライン小売業者の間では、動的価格設定(dynamic pricing:売り手が、同じような顧客に対して同じ商品・サービスを提供する際、価格を迅速に上下させ、異なる価格を提示すること。) が盛んになり、15~25%くらいの価格変動が一般的になっている。

そこには一定の理由があるが、長期的利益の喪失、消費者行動だけでなく、ブランドに与える影響について、理解しておく必要がある。

2007年、アップルは手痛い経験をした。アイフォン発売からたった69日で価格を$599から$399に引き下げたのだが、既に購入していた顧客はの激怒を買ってしまったのだ。アップルは謝罪するとともに、自社製品に使用できる$100のクレジットを提供して、事態を収拾した。一方、ネットフリックスは2011年、大幅な値上げを行い消費者の怒りを買ったが、何も対応しなかったところ、三か月の間に株価が1/3以下になるという経験をした。

動的価格設定にも同様のことが当てはまり、他人よりも多く支払わされている顧客たちが不公平だと訴えてくるのも時間の問題であり、それによってブランドの信用が失われてしまうという大きな問題が発生する。皮肉にも、何もしていなかったライバル企業が利益を得るということにもなってしまう。例えば、コストコは15%以上の値上げはしないと宣言している。

エアライン産業やホテル産業では動的価格設定が受け入れられてきているのに対して、小売業ではどうしてこのような状況にあるのであろうか。2つの重要なポイントとして商品・サービスの時間的消費制約と需要の不確実性が挙げられ、これに対応するためには、エアライン産業やホテル産業では動的価格設定を取り入れざるを得ないという事情がある。

また、オンライン小売業で動的価格設定を行っていると、顧客はオンラインショッピングサイトではなく、Orbitzなどのような各サイトの価格比較サイトをまず訪れるようになってしまう。

ただ、動的価格設定には需要に合わせた柔軟な価格設定というメリットもあり、ポイントはどのようにマネジメントするかという点にある。具体的には、動的価格設定を行っていることを正直に顧客に伝える、購入後に値段が下がっていることを発見した顧客には払い戻しを行う、変動させる価格帯に制限を設けるなどである。