2013年5月15日水曜日

サプライズはいまだ最も強力なマーケティングツールである。

HBR Blogに掲載された“Surprise Is Still the Most Powerful Marketing Tool” By Scott Redickの抄訳。


現在、物事の予測可能性が過去になく高くなっている。Yelpは、私たちが悪いレストランで食事することを回避させてくれる。Facebookは、最初のデート前にロマンチックをもたらし得る関心事を調べさせてくれる。 Googleマップは、その進行指示で我々が道に迷うのを防いでくれる。

同じことが、マーケティング組織で起こっている。 「ビッグデータ」に代表される豊富なデータを活用したプラクティスがブランドマネージャに精度と予測可能性という魅力的な約束をしてくれる。もちろんマーケティングの効率化には資するものであるが、一方で、ブランドからエキサイティングやサプライズを奪ってしまっている。好ましいサプライズは予想外の状況で消費者の関心を引くことによって生まれるが、そのセレンディピティの機会がブランドから失われるという危険にさらされている。

「ビッグデータ」でイノベーションを追求することが不可欠だが、最も強力なマーケティングツールであるサプライズという要素を無視していいということにはならない。

サプライズの中毒性 
サプライズは脳のための亀裂のようなものである。フルーツジュースと水を使用した、人間の野内活動の変化を測定する実験によれば、「人間は予期しないを欲するように設計されている。」。謎の美容製品に係るサブスクリプションモデル(Birchbox)、二度同じショーを行わないロックバンド(Phish)など、あらゆるビジネスモデルはこうしたインサイトを元に構築可能であることが証明されている。

サプライズによる行動変化 
認知的不協和の考え方によれば、サプライズは、我々の信念と行動の移行との調和を要する新しい刺激をもたらしてくれる。学びをもたらすのは予想外の出来事からであると古くから知られている。消費者行動の観点から考えることは革新的戦略への道筋を広げてくれる。広告キャンペーンを考える際、メッセージにだけ捉われるのではなく、顧客、見込み客が何を期待し、そしてその期待をどのように上回るかである。

サプライズは低コスト 
10セント硬貨をコピー機の近くに置いておき、それを見つけた被験者と見つけられなかった被験者の人生全体に対する満足度を調査したところ、前者が後者を大幅に上回った。大規模な生産予算やメディアプランを通じて競争相手を打ち負かそうとするよりも、サプライズなブランドストーリーをどう組み込むかについて考える必要がある。どのようにしてヴァージンアメリカが魅力的かつ創造的となっているか、その稼働停止時におけるウェブサイトの通知や安全ビデオから見て取ることができる。

サプライズによる感情の増幅 
心理学者ロバート・プルチックがその著書”Psycho Evolutionary Theory of Basic Emotions”で提示した「感情の輪」理論によれば、人間の感情は8つの一次感情(怒り、恐れなど)とそのうちの二つの組み合わせによる二次感情(ほろ苦さ(幸福+悲しみ)や罪悪感(幸福+恐怖)など)に分類される。サプライズはあなたが感じている気持ちを増幅させるという点に面白味がある。Netflixが急にサブスクリプション価格を引き上げたときの怒り、Zapposが購入確定前にもかかわらず大変な労力を使って靴を届けてくれたときの喜び。そこではサプライズが基本的感情の発露に先行しているのである。

Source) http://visual.ly/robert-plutchiks-psycho-evolutionary-theory-basic-emotions

サプライズで情熱的関係を構築
取り立てて理由もなくランダムに新しい恋人の花を送ったり、思い出に残るプロポーズで婚約したり、ロマンスにはサプライズが付き物である。中年夫婦の結婚満足度に係る実験によれば、映画鑑賞や料理のような日常的な活動よりもスキーやダンスのような非日常的で "エキサイティング"な活動をしている夫婦のほうがより高い満足度を示していることが分かった。ビジネス関係においても、マーケティング担当者は、見込み顧客へのアピールに熱心になりがちであるが、既存顧客からセクシー、魅力的と思われるように努めることも忘れてはいけない。

マーケティングにおいては速さ、安さ、責任を追及するとともに、組織がよりサプライジングになるようブランディングする必要がある(実現に向けて、学術研究やエンタープライズレベルのソフトウェアは十分にあるとは言えないが。)。

2013年4月20日土曜日

失敗しないチェンジマネジメントのポイント

HBR Blogに掲載された"Change Management Needs to Change" by Ron Ashkenasの抄訳。


チェンジマネジメント(組織変革)に関してはその認識が確立され、ツール、トレーニング、書籍など巨額の投資が行われてきたにもかかわらず、組織変革プロジェクトの60〜70%は失敗している。

原因として、チェンジマネジメントについての我々の理解が誤っており、ジョン・コッターの「変革の8段階」(eight successor factors)、スペンサー・ジョンソンの「チーズはどこへ消えた?」(moving cheese)、テレサ・アマビールの「進捗の法則」(The Power of Small Wins)などの基本に立ち返らなければならないという可能性もある一方、チェンジマネジメントの内容は合理的に正しいが、それに実行力が伴ってこなかったという説明も可能である。事実、マネジャーたちの変革先導力を強化するのではなく、人事の専門家やコンサルタントにチェンジマネジメントを外部委託し、その責任を回避することを許してきてしまった。そして、こうしたアプローチのほとんどは失敗する。こうしたアプローチに数年間取り組んできた大手ヘルスケアカンパニーでは、チェンジマネジメントの概念に精通したマネジャーが増えたのみで、新しい取組を考えるための手法としては機能せず、プロジェクトにおける一連の業務の一部となってしまった。

組織が効果的に変革を進められていない場合、次の3点について検討したほうがいい。
  1. 変革を進めるための共通のフレームワーク、言語、ツールを持っているか。多くの選択肢があっても、中身は同じで、見栄えしか変わらないことが多い。重要なのは、誰もが理解する共通の定義、アプローチ、そしてシンプルなチェックリストを持つことである。 
  2. 変革プランがどの程度全体プロジェクトに統合されているか。チェンジマネジメントを付加的な一つの取組ではなく、ビジネスプランに統合し、セットとして扱われるようにしなければならない。 
  3. 効果的なチェンジマネジメントについて、誰が責任を負っているのか。マネジャーなのかスタッフや外部の専門家なのか。変革が系統だって強力に起こるようマネジャーが責任を負わない限り(一定の行動に対する報酬と罰則による動機づけ)、必要なスキルは得られない。 
チェンジマネジメントの重要性については論を待たないが、その効果的な発現はマネジャーのコアコンピタンスによるものであり、代替可能なものではない。

2013年4月13日土曜日

成長の源泉(ポートフォリオ、M&A、市場シェア)

"The granularity of growth" by Mehrdad Baghai, Sven Smit, and S. Patrick Viguerie (McKinsey Quarterly)の抄訳。


企業の成長の源泉は何か
産業セグメント別の成長率を平均すると、ハイテクをはじめとする成長産業よりも急速に成長している成熟産業のセグメントもあることが分かる(欧州の通信産業など)。「成長産業」とか 「成熟産業」と言った定義づけは逆に誤解を招く。

大企業の収益成長率に係るマッキンゼーの研究によれば、市場の平均的な見方から距離を置き、動向、将来の成長率、市場構造に対する詳細な視点を涵養していくことが重要である。サブインダストリー、セグメント、カテゴリ、小さな市場に係る洞察は、ポートフォリオ選択に欠かせない。こうしたアプローチが、企業が競争のポイントに係る適切な意思決定を行う際に必要不可欠となる。
これらの決定は企業の死活問題かもしれない。17セクターにおける100の大企業を調査したところ、以下のような予想外の発見があった。
  1. 売上の増加は生き残りには不可欠である。GDP成長率よりも売上増加率が低い企業は、成長企業による買収などを通して、次のビジネスサイクルでは生き残っていない可能性が5倍高くなる。 
  2. 適時適所で競争することが重要である。高い収益成長率と高い株主還元を持つ多くの企業は自らにとって望ましい成長環境で競争している。また、これらの企業の多くは積極的に買収を仕掛けている。 
世界200社以上の大企業を調査した結果、収益成長を駆動する主要なコンポーネントは、主に当該企業が競争に参加している産業分野における市場の成長、合併や買収を通じて獲得する収入であることが分かった。これら二つの要素により、企業間の成長の違いの約80%が説明されるのである。そして、マーケットシェアの増減は20%程度の意味しか持たないことが分かった。
直感に反する結果であるが、日々の業務執行を上手く行うことは、競争の激しい市場でシェアを維持し、また市場の潜在的成長可能性を捉えるためには重要であるが、企業間の成長速度の違いを決定するものではない。企業幹部はどこで競争しており、またすべきであるかについてより注意を払うべきである。 より高い成長をもたらすポートフォリオへのシフト、同業他社をベンチマークとした自社のパフォーマンスの分析、自社をより詳細なセグメントレベルに分解した上での分析が重要である。


成長を詳細に分析する
欧州におけるテレコム産業は成熟産業として認識されることが多いが、ヨーロッパにおいてトップ10に入る通信会社の年間売上高成長率は、1999年~2005年の平均9.5%であるところ、個別企業を見ると1~25%と大きく異なっている。その最も重要な理由は、各社が異なるポートフォリオを選択しているため、各セグメントからの影響に差があるということである。例えば、ワイヤレスは固定よりも速く成長し、またそれぞれの成長率は国によって大きく異なる。 全体的に高い成長率を誇る産業でも同じである。代表的なハイテク企業の年間成長率は、1999年から2005年まで-6~34%であった。

確かに1999年から2005年まで同業他社を上回るパフォーマンスを上げた200社(建設、消費財、エネルギー、金融サービス、ハイテク、小売、公益事業)を見ると、全体的な成長率は異なる。しかし、業界に関係なく、それらの企業のポートフォリオの成長率は、同業他社をアウトパフォームしている。サブインダストリーや製品カテゴリを大陸、地域、国という観点から分解して分析することで、高い成長率の原因が掴めてくる。高成長産業に移行することではなく、現在属する産業内でより成長可能なセグメントを特定し、そこにリソースを集中させることで成長するべきである。 

経営陣は、適切な市場を選択し、またポートフォリオを変更する際、ベンチマークを活用することで、成功のチャンスについて非現実的な仮定を置くのを避けることができる。


成長を分解する
  • ポートフォリオのモメンタムは、同社のポートフォリオに組み込まれているセグメントの市場成長を通じて達成している有機的な売上高の伸びである。そこに働きかける方法としては、事業の買収や売却によって市場の成長からの影響を変化させる、新しい製品カテゴリの導入によって市場の成長を自ら創り出す、という二つがある。ポートフォリオのモメンタム(為替の影響を含む。)は、戦略的パフォーマンスの尺度と言える。 
  • M&Aは買収または売却を通じて収益を売買する無機的な成長である。 
  • 市場シェアは市場競争を通じた有機的成長を反映するものである。市場シェアは当該企業が参入している各セグメントのシェアの加重平均として定義される。 
成長の源泉として、ポートフォリオのモメンタムは、M&Aに続いて、圧倒的に大きな役割を果たしている。一方で市場シェアはネガティブにしか作用していない。しかし、成長の三要素のパフォーマンスには個別企業間で大きな差異があった(ポートフォリオのモメンタム(2~18%)、M&A(-2~13%)、市場シェア(-6~5%)。


市場シェアの位置づけ 
データベースに存在する企業の1999年から2005年までのパフォーマンスを上記の成長三要素に分解したところ、年間売上増加率8.6%のうち、5.5%ポイントはM&A、3.0%ポイントはそのポートフォリオのセグメントの市場成長、残りの0.1%ポイントが市場シェアによるものであることが分かった。ただ、これらの数字は大企業の影響を大きく受けており、より迅速に成長し、既存企業のシェアを奪っているような中小企業はどうであろうか。おそらく、新規参入者や中小企業は、単に既存企業のシェアを奪うというようなやり方ではなく、カテゴリ、市場、事業を再定義し、異なるアプローチで競争に臨んでいる。しかし、大企業がシェアを落とす米国、拡大するヨーロッパという具合に国ごとに違いは見られる。

大企業の成長パフォーマンスの違いを分析したところ、ポートフォリオモメンタムが43%、M&Aが35%、市場シェアが22%を占めることが分かった。ただ、これを日常の経営を疎かにしてよいと解釈してはいけない。逆に、ポートフォリオモメンタムによる成長を成し遂げるためには、新興企業が参入してくる中でそのセグメントでの地位を維持する必要があるということを意味しているのである。製品のライフサイクルが短いハイテク産業では、市場シェアの変動が起こりやすく、市場シェアの変動が成長に占める割合は37%と最も高くなった。


成長と株主価値のリンク
ベンチマークのため、パフォーマンスに基づいて企業を四分類した。
  • Good(先の成長要素において、アウトパフォーム1、アンダーパフォーム1以下):株主へのリターン率(8%)、売上成長率(11%)。サンプルとなった企業の半分くらいが該当。 
  • Great(先の成長要素において、アウトパフォーム2またはトップレベルのパフォーマンス1、アンダーパフォーム1以下):サンプルとなった企業の15%が該当。 
  • Exceptional(先の成長要素の全てにおいてアウトパフォーム):サンプルとなった企業の0.5%。 
  • Poor(先の成長要素において、アウトパフォーム0、またはアンダーパフォーム2以上):株主へのリターン率(0.3%) 
企業幹部はポートフォリオを組み、資源配分を行う際、より大きな成長余地のあるビジネス、国、顧客、製品は何であるかをポートフォリオ、M&A,市場シェアという成長要素の観点から検討しなければならない。