2013年4月20日土曜日

失敗しないチェンジマネジメントのポイント

HBR Blogに掲載された"Change Management Needs to Change" by Ron Ashkenasの抄訳。


チェンジマネジメント(組織変革)に関してはその認識が確立され、ツール、トレーニング、書籍など巨額の投資が行われてきたにもかかわらず、組織変革プロジェクトの60〜70%は失敗している。

原因として、チェンジマネジメントについての我々の理解が誤っており、ジョン・コッターの「変革の8段階」(eight successor factors)、スペンサー・ジョンソンの「チーズはどこへ消えた?」(moving cheese)、テレサ・アマビールの「進捗の法則」(The Power of Small Wins)などの基本に立ち返らなければならないという可能性もある一方、チェンジマネジメントの内容は合理的に正しいが、それに実行力が伴ってこなかったという説明も可能である。事実、マネジャーたちの変革先導力を強化するのではなく、人事の専門家やコンサルタントにチェンジマネジメントを外部委託し、その責任を回避することを許してきてしまった。そして、こうしたアプローチのほとんどは失敗する。こうしたアプローチに数年間取り組んできた大手ヘルスケアカンパニーでは、チェンジマネジメントの概念に精通したマネジャーが増えたのみで、新しい取組を考えるための手法としては機能せず、プロジェクトにおける一連の業務の一部となってしまった。

組織が効果的に変革を進められていない場合、次の3点について検討したほうがいい。
  1. 変革を進めるための共通のフレームワーク、言語、ツールを持っているか。多くの選択肢があっても、中身は同じで、見栄えしか変わらないことが多い。重要なのは、誰もが理解する共通の定義、アプローチ、そしてシンプルなチェックリストを持つことである。 
  2. 変革プランがどの程度全体プロジェクトに統合されているか。チェンジマネジメントを付加的な一つの取組ではなく、ビジネスプランに統合し、セットとして扱われるようにしなければならない。 
  3. 効果的なチェンジマネジメントについて、誰が責任を負っているのか。マネジャーなのかスタッフや外部の専門家なのか。変革が系統だって強力に起こるようマネジャーが責任を負わない限り(一定の行動に対する報酬と罰則による動機づけ)、必要なスキルは得られない。 
チェンジマネジメントの重要性については論を待たないが、その効果的な発現はマネジャーのコアコンピタンスによるものであり、代替可能なものではない。

2013年4月13日土曜日

成長の源泉(ポートフォリオ、M&A、市場シェア)

"The granularity of growth" by Mehrdad Baghai, Sven Smit, and S. Patrick Viguerie (McKinsey Quarterly)の抄訳。


企業の成長の源泉は何か
産業セグメント別の成長率を平均すると、ハイテクをはじめとする成長産業よりも急速に成長している成熟産業のセグメントもあることが分かる(欧州の通信産業など)。「成長産業」とか 「成熟産業」と言った定義づけは逆に誤解を招く。

大企業の収益成長率に係るマッキンゼーの研究によれば、市場の平均的な見方から距離を置き、動向、将来の成長率、市場構造に対する詳細な視点を涵養していくことが重要である。サブインダストリー、セグメント、カテゴリ、小さな市場に係る洞察は、ポートフォリオ選択に欠かせない。こうしたアプローチが、企業が競争のポイントに係る適切な意思決定を行う際に必要不可欠となる。
これらの決定は企業の死活問題かもしれない。17セクターにおける100の大企業を調査したところ、以下のような予想外の発見があった。
  1. 売上の増加は生き残りには不可欠である。GDP成長率よりも売上増加率が低い企業は、成長企業による買収などを通して、次のビジネスサイクルでは生き残っていない可能性が5倍高くなる。 
  2. 適時適所で競争することが重要である。高い収益成長率と高い株主還元を持つ多くの企業は自らにとって望ましい成長環境で競争している。また、これらの企業の多くは積極的に買収を仕掛けている。 
世界200社以上の大企業を調査した結果、収益成長を駆動する主要なコンポーネントは、主に当該企業が競争に参加している産業分野における市場の成長、合併や買収を通じて獲得する収入であることが分かった。これら二つの要素により、企業間の成長の違いの約80%が説明されるのである。そして、マーケットシェアの増減は20%程度の意味しか持たないことが分かった。
直感に反する結果であるが、日々の業務執行を上手く行うことは、競争の激しい市場でシェアを維持し、また市場の潜在的成長可能性を捉えるためには重要であるが、企業間の成長速度の違いを決定するものではない。企業幹部はどこで競争しており、またすべきであるかについてより注意を払うべきである。 より高い成長をもたらすポートフォリオへのシフト、同業他社をベンチマークとした自社のパフォーマンスの分析、自社をより詳細なセグメントレベルに分解した上での分析が重要である。


成長を詳細に分析する
欧州におけるテレコム産業は成熟産業として認識されることが多いが、ヨーロッパにおいてトップ10に入る通信会社の年間売上高成長率は、1999年~2005年の平均9.5%であるところ、個別企業を見ると1~25%と大きく異なっている。その最も重要な理由は、各社が異なるポートフォリオを選択しているため、各セグメントからの影響に差があるということである。例えば、ワイヤレスは固定よりも速く成長し、またそれぞれの成長率は国によって大きく異なる。 全体的に高い成長率を誇る産業でも同じである。代表的なハイテク企業の年間成長率は、1999年から2005年まで-6~34%であった。

確かに1999年から2005年まで同業他社を上回るパフォーマンスを上げた200社(建設、消費財、エネルギー、金融サービス、ハイテク、小売、公益事業)を見ると、全体的な成長率は異なる。しかし、業界に関係なく、それらの企業のポートフォリオの成長率は、同業他社をアウトパフォームしている。サブインダストリーや製品カテゴリを大陸、地域、国という観点から分解して分析することで、高い成長率の原因が掴めてくる。高成長産業に移行することではなく、現在属する産業内でより成長可能なセグメントを特定し、そこにリソースを集中させることで成長するべきである。 

経営陣は、適切な市場を選択し、またポートフォリオを変更する際、ベンチマークを活用することで、成功のチャンスについて非現実的な仮定を置くのを避けることができる。


成長を分解する
  • ポートフォリオのモメンタムは、同社のポートフォリオに組み込まれているセグメントの市場成長を通じて達成している有機的な売上高の伸びである。そこに働きかける方法としては、事業の買収や売却によって市場の成長からの影響を変化させる、新しい製品カテゴリの導入によって市場の成長を自ら創り出す、という二つがある。ポートフォリオのモメンタム(為替の影響を含む。)は、戦略的パフォーマンスの尺度と言える。 
  • M&Aは買収または売却を通じて収益を売買する無機的な成長である。 
  • 市場シェアは市場競争を通じた有機的成長を反映するものである。市場シェアは当該企業が参入している各セグメントのシェアの加重平均として定義される。 
成長の源泉として、ポートフォリオのモメンタムは、M&Aに続いて、圧倒的に大きな役割を果たしている。一方で市場シェアはネガティブにしか作用していない。しかし、成長の三要素のパフォーマンスには個別企業間で大きな差異があった(ポートフォリオのモメンタム(2~18%)、M&A(-2~13%)、市場シェア(-6~5%)。


市場シェアの位置づけ 
データベースに存在する企業の1999年から2005年までのパフォーマンスを上記の成長三要素に分解したところ、年間売上増加率8.6%のうち、5.5%ポイントはM&A、3.0%ポイントはそのポートフォリオのセグメントの市場成長、残りの0.1%ポイントが市場シェアによるものであることが分かった。ただ、これらの数字は大企業の影響を大きく受けており、より迅速に成長し、既存企業のシェアを奪っているような中小企業はどうであろうか。おそらく、新規参入者や中小企業は、単に既存企業のシェアを奪うというようなやり方ではなく、カテゴリ、市場、事業を再定義し、異なるアプローチで競争に臨んでいる。しかし、大企業がシェアを落とす米国、拡大するヨーロッパという具合に国ごとに違いは見られる。

大企業の成長パフォーマンスの違いを分析したところ、ポートフォリオモメンタムが43%、M&Aが35%、市場シェアが22%を占めることが分かった。ただ、これを日常の経営を疎かにしてよいと解釈してはいけない。逆に、ポートフォリオモメンタムによる成長を成し遂げるためには、新興企業が参入してくる中でそのセグメントでの地位を維持する必要があるということを意味しているのである。製品のライフサイクルが短いハイテク産業では、市場シェアの変動が起こりやすく、市場シェアの変動が成長に占める割合は37%と最も高くなった。


成長と株主価値のリンク
ベンチマークのため、パフォーマンスに基づいて企業を四分類した。
  • Good(先の成長要素において、アウトパフォーム1、アンダーパフォーム1以下):株主へのリターン率(8%)、売上成長率(11%)。サンプルとなった企業の半分くらいが該当。 
  • Great(先の成長要素において、アウトパフォーム2またはトップレベルのパフォーマンス1、アンダーパフォーム1以下):サンプルとなった企業の15%が該当。 
  • Exceptional(先の成長要素の全てにおいてアウトパフォーム):サンプルとなった企業の0.5%。 
  • Poor(先の成長要素において、アウトパフォーム0、またはアンダーパフォーム2以上):株主へのリターン率(0.3%) 
企業幹部はポートフォリオを組み、資源配分を行う際、より大きな成長余地のあるビジネス、国、顧客、製品は何であるかをポートフォリオ、M&A,市場シェアという成長要素の観点から検討しなければならない。

2013年4月3日水曜日

大企業におけるイノベーションの実現方法(P&Gとサムスンを例に)

HBR Blog Networkの”Getting Crazy Ideas Off the Ground” by Alessandro Di Fioreの抄訳。


インサイトが生まれてから、開発へのゴーサインが出るようなコンセプトにまで仕上がるまでの期間をどのように管理するかは、不連続なイノベーションを生み出すのに重要である。こうした既存の体制(能力、ビジネスモデル)に適合しないアイデアはビジネスにするのが難しく、リスクを抱えている。 

ほとんどの場合、組織から何か指示などがない中で、個人が飛び抜けたアイデアを生み出し、率先して進めていくのである。ただ、残念なことに、強力な個性を放つ個人とアイデアは政治的に脆弱であることが多い。つまり、周囲にいるほとんどの人々は利害関係を持っておらず、資金調達、具体化を達成する方法については明確なプロセスが存在していない。そうした環境が整っていない企業では、価値を創造し得るインサイトが放置されてしまっている。 

不連続なイノベーションは脆弱なだけでなく、組織的な保護や方向づけを得ることもない。こうした課題に上手く取り組んでいる企業として、P&Gとサムスンが挙げられる。 

P&Gは一般的な組織内には拠り所のないアイデアにシードマネーを提供する"Corporate Innovation Fund"(CIF)を設立している。CIFは組織内には拠り所のないアイデアから優れたものを選抜し、実現に適切なチームを、組織内のユニットを跨いで集め、割り当てるという極めて重要な役割を果たしている。CIFによる投資は一般的な予算サイクルとは別に設定されており、リスクの高いアイデアでも簡単に正当化可能なメインストリームのプロジェクトと競争せずに資金を得ることができる。 

サムスンも同様のアプローチを採用しており、ソウルから南に33km離れたスウォン(サムスンの主要な製造拠点)に、不連続なイノベーションのアイデアを受け付ける”Value innovation Program (VIP) Center”を設立している。VIPセンターは24時間オープン、20のプロジェクトルーム、38室のベッドルーム、ジム、お風呂、卓球台を備えている。 誰でもアイデアを提案することができ、VIPは毎年90件くらいのプロジェクトが現在進行形で取り組まれている。選抜されたアイデアはVIPの組織的な保護と初期段階における開発環境を与えられる。 P&GのCITと同様に、VIPでは、戦略的イノベーションと顧客調査のツールと​​プロセスの専門家によるサポートを提供するとともに、エンジニア、デザイナー、マーケティング担当者で構成されるイノベーションチームの立ち上げに重要な役割を果たしている。 このようにして、VIPプロジェクトは詳細なコンセプト(価値提案、設計の青写真、技術とコストのスペックを含む。)へと昇華していくのである。その後、プロジェクトは更なる発展のため、既存の製品開発プロセスに引き継がれていく。サムスンを一躍テレビ製造産業のリーダーに押し上げたボルドーTVなどもVIPセンターから生まれたものである。