2013年2月17日日曜日

プラットフォーム戦略

HBR Blog Networkの”Three Elements of a Successful Platform Strategy” by Mark Bonchek and Sangeet Paul Choudaryの抄訳。


ネットワーク化された現代において、企業は製品ではなく、そのプラットフォームを巡って競争を繰り広げている。デジタルプラットフォームを形成することで、他社のビジネスを容易に惹きつけ、結びつかせ、製品やサービスを提供させ、そして価値を共創するのである(プラットフォーム思考:物的アプローチ(課題解決のため、どのようにしてより多くの物を創り上げるか。)、最適化アプローチ(既に創り上げた物をどのようにして最も無駄の少ない形で配分するか。)、プラットフォームアプローチ(物の再定義を行い、新しい課題方法を模索する。))。

例えば、かつてフィーチャーフォンで成功していたノキアとブラックベリーは、スマートフォン市場においてアップルとアンドロイドがそれぞれ形成したエコシステムに敗北した。それは、特徴や機能ではなく、アプリストア(外部のディベロッパーが価値をもたらしてくれる。)に起因するものである。マイクロソフトも技術的に優れた携帯を開発したが、成功のカギはプラットフォームの形成にある。

このプラットフォーム思考は技術系セクターだけでなく、小売りセクターにも適用でき、オンラインリテールのeBay、Etsy、そしてAmazonがその先頭を走っている。JC Penney(プラットフォーム)も他社が経営するブティック(アプリ)の出店に注力している。また、Nikeもデジタルスポーツグッズで成功し、Nike+ Accelerator を使って、Nike+というプラットフォームの確立を図っている。

こうしたプラットフォームの隆盛はクラウド、ソーシャル、モバイルといった技術を原動力としている。誰もがいつでもどこでも簡単にコンテンツを創り、共有できるようになっているのである。また、最近のプラットフォームはプッシュ型ではなく、プル型であり、もちろん一定の規模を獲得した時点からネットワーク効果の恩恵を強く享受するようになる。

プラットフォーム戦略の成否は、以下の3つのファクターとそれに対応する3つの道具によって決定づけられる。

· コネクション:プラットフォームへの参加の容易さ(←ツールボックス(参加を容易にする支援ツールの提供))

· グラビティ(重力):需給双方の参加者にとってのプラットフォームの魅力(←マグネット(インセンティブ、レピュテーション、プライシングに関わるシステムの緻密な設定))

· フロー:プラットフォームによる交換や価値の共創の促進度合(←マッチメイカー(参加者の豊富なデータを活用した協働支援))

これら3つの道具に係るポートフォリオはそれぞれの企業によって異なる。アマゾンはツールボックス、イーベイはマグネットとマッチメイカー、そしてフェイスブックはツールボックスとマグネットにフォーカスしている。

2013年2月5日火曜日

顧客は観察すべきもの

HBR Blog Networkの”Stop Listening to Your Customers” by Steve Martinの抄訳。

あらゆるビジネスにおいて、何が顧客、消費者に影響を与え、また彼らを説得するのかが追求されるが、そのために最もよく行われる戦略の一つは直接聞くことである。ただ、どういう具体的な方法(ヒアリング、オンライン調査、調査会社への依頼など)を選択するかにかかわらず、そこには回答者である顧客、消費者自身がその答えをしらないという根本的な問題がある。

情報、気を散らしてしまうものが過多な環境下で行われる意思決定のほとんどは、認識よりも文脈に駆り立てられる。そして、行動科学者のWes SchultzとRobert Cialdiniはなぜ将来の意思決定や行動に影響を与えるであろうものを考えてもらってもうまくいかないと、証拠をもって示している。その一つでは、カリフォルニアの数百人の住宅所有者に、以下の4つのメッセージから、エネルギー消費の抑制を促すのに最も効果的なものを選んでもらった。
  1. エネルギーの節約は環境を救う。 
  2. エネルギーの節約は未来社会を救う。 
  3. エネルギーの節約はお金の節約になる。 
  4. 多くの近所の人達もエネルギーの節約に既に取り組んでいる。 
結果、4.のメッセージが質問における評価が最低であったにもかかわらず、実際には人々の行動を最も変化させるメッセージであった。いくら否定したくとも周囲の人たちと同じようでいたいという欲望は普遍的、自動的なものであったのである。例えば、期限内での納税を怠った者に罰金を課すという普通の手法に比べて、近所のほとんどの人達は納税済みであると知らせる方がずっと効果的である。

そして、人間は自分の将来の行動に影響を与える要素を認識することがかなり下手であるだけでなく、実際に自分の行動を促したものを認識することも上手くできない。例えば、ニューヨークの地下鉄でどれほどの通行人がストリートミュージシャンに寄付を行うかについての研究では、自分の前を行く通行人が寄付をしたか否かで8倍の違いが出た。ただ、観察後のインタビューでそうした行動の違いをもたらした要因を尋ねたところ、他の関係ない理屈付けがされた。結果、消費者や顧客に尋ねるのではなく、その行動を観察するということが必要になってくるのである。他にも説得の6原則:Science of Persuasionで取り上げた、ホテル客室で同じタオルやリネンを繰り返し使うよう求めている事例もある。

要は、尋ねるよりも観察しろということである。

2013年2月1日金曜日

新世代ブランドの登場

HBR Blog Networkの”The Rise of the Unbrand” by Mitch Joelの抄訳。

芸術と言えばセザンヌ、ピカソ、ウォーホル、ルノワールなどが思い浮かぶが、最近は自分の趣向に合った物を、インターネットを介して結びついた芸術家に直接発注することがある。ブランドはなくともカスタマイズ、パーソナライズされた作品である。

こうしたラベルやブランドにあまり関心を抱かないという消費者の反応は、1990年代の反企業の動きなど、深いルーツを持っている。イギリスの百貨店、セルフブリッジが仕掛ける”No Noise”イニシアティブの一環で始まった”The Quiet Shop”では有名ブランドのロゴを外した商品を取り揃え、大きな関心を呼んでいる(もちろんブランドとはロゴ以上のものであるが、ロゴがブランドの重要な構成要素であることも確かである。)。ロゴを持たない電子ペーパー時計のPebble、ブランドはないが、優れたデザイナーやアーティストが制作した作品を購買できるFabなどもある。

現代の消費者行動(オンライン、P2P、世界中からの取り寄せ)と現代テクノロジー(クラウドファンディングというプラットフォーム、3Dプリンター、少量生産でも利益を確保できる能力)が交差する中で、ロゴのない新世代ブランドが既存のブランドを凌ごうとしている。