2012年11月29日木曜日

ソーシャルメディアのROI_VOAL


HBR Blog Networkの”How to Calculate the Value of a Like” by Can Zarrellaの抄訳。


Email、検索、ディスプレイといったツールを用いたオンラインマーケティングでは数字、ROIなどに基づいた検討、検証が行われているが、フェイスブック、ツイッターなどのソーシャルメディアを使ったマーケティングについては、その点が忘れ去られている。

HubSpotインバウンドマーケティングソフト会社)では、各ソーシャルメディアでのつながりが企業の最終的な損益にもたらす影響の定量化を行っており、そのために”Value of a like” (VOAL) という算式を生み出した。


VOAL = (L/UpM) * (LpD*30) * (C/L) * CR * ACV

L (Total Likes): あなたのソーシャルメディアアカウントに繋がっている人達の数。フェイスブックでは「いいね!」の数であり、ツイッターではフォロワー数となる。

UpM (Unlikes-per-Month): 一ヶ月間にあなたのソーシャルメディアアカウントを好きではなくなった人達の平均数。フェイスブックでは「いいね!」の取り消し数、ツイッターではフォロー解除数となる。

LpD (Links-per-Day): 一日当たりあなたがリンクを投稿する平均数。フェイスブックではあなたのサイトに導くリンクの一日当たり投稿数であり、ツイッターではそうしたリンクを一日につぶやく回数である。

C (Average Clicks): あなたのソーシャルメディアアカウントのリンクからあなたのサイトに訪問した人達の数。

CR (Conversion Rate): あなたのサイトの訪問者が購買したり、見込み客(lead)となったりする平均的比率(転換率)。これはあなたのサイトを訪問した全ての人達の平均値であるが、あなたのソーシャルメディアアカウントからのトラフィックに絞ることで、より正確に測定することができる。

ACV (Average Conversion Value): あなたのサイトの訪問者が転換したこと(購買すること、見込み客となること)の平均的な金銭価値。CR同様に、あなたのソーシャルメディアアカウントからのトラフィックに絞ることで、より正確に測定することができる。


L/UpMは、個人ユーザーがあなたのソーシャルネットワークを購読してくれると推定される平均的期間を表している。そして、算式の残りの部分はその期間中にあなたのサイトリンクを見る回数と転換のもたらす価値ということになる。そしてこれらの計算を簡単に行うため、ValueofALike.comというサイトが作られている。

2012年11月28日水曜日

アウトカムとアウトプット


HBR Blog Networkの"It's Not Just Semantics: Managing Outcomes Vs. Outputs" by Deborah Mills-Scofieldをポイントのみ抄訳。


Outcomes are the difference made by the outputs.
アウトカム(成果)はアウトプット(結果)により生み出される。


高速道路建設の例で言えば、建設または補修された道路の距離はアウトプットにあたり、スムーズな交通の流れ、移動時間の短縮、交通事故の減少などがアウトカムとなる。


Outputs are important products, services, profits, and revenues: the What. Outcomes create meanings, relationships, and differences: the Why.
アウトプットは製品、サービス、利益、収入といったもの(the What)である一方、アウトカムは意味、関係、変化をもたらす(the Why)。


Business in the 21st century needs more focus on outcomes than outputs.
21世紀のビジネスはアウトプットよりもアウトカムが重要になる。

(アウトカムの事例)
  • 自動車の購買意欲はあるが、ディーラーまで行けないほど忙しい人に対して、ディーラーは自動車の販売から受け渡しまで行い、その顧客のスケジュールを全く邪魔しない。
  • 食品会社から品物を受け取り、パッケージする会社が、売れるパッケージの提供だけでなく、売り場でのポジショニングまで対応することで、消費者への見せ方を総合的に引き受ける。

ちなみに、これらの概念については、平成17年度科学技術振興調整費報告書 「研究開発のアウトカム・インパクト評価体系」がうまくまとめている。

2012年11月27日火曜日

戦略的ディスカウント

HBR Blog Networkの”Holiday Discounts Are a Dangerous Drug” by Marco Bertiniの抄訳。


アメリカの小売業において、11月下旬から1月上旬の年末商戦は年間売上高の30%を占めるほどに大きな影響がある。そして、小売業者は早さ、程度、期間という点で全面的な価格競争に入ることを選択してしまう。

しかし、プロモーションキャンペーンに失敗すると、売り上げの増加と同じくらい容易にそのブランド、ビジネスの基盤が損なわれてしまう。消費者がディスカウントに慣れてしまい、売り上げのテコ入れには更なる値下げが必要になってしまうのである。こうした事態を避けるため、どのようにそのプロモーションを行えばよいか、7つのポイントをまとめている。

· 顧客との会話のきっかけとする
ディスカウントを、顧客にとっての単なるインセンティブとせずに、集めた注目を新製品の特徴、企業の評判や価値観についての対話を始める契機として活用する。

· 対象顧客を選択するようにする
ディスカウントを差別的に提示することにより、望ましい顧客とそうではない顧客に線引きをし、それによって競争環境下でのポジショニングを確立する。

· 条件付きにする
ディスカウントを顧客に提案する際、コストを低減させるような行動(オンライン購入)、売り上げを増加させるような行動(2個セットでの購入)を行ってもらうよう依頼する。

· ブランド価値を高める
一般的にディスカウントはブランド価値を損なうものと考えられているが、そうなるのは顧客がその値下げをご褒美ではなく、販売のための説得手段として用いられていると認識した場合だけである。そのブランドの本質を表すような行動をとる顧客に対してディスカウントを行うのである。

· 差別化する
簡単には模倣できないように、プロモーションそれ自体のブランディングに取り組む。

· 様々な状況に対応できるようにする
ベースとなる売り上げの基準を設定し、パフォーマンス測定のために参照する。

· 計画的にj実施する
ディスカウントを行う前に、出口戦略を策定し(何をプロモーションの目標とするか。)、それにコミットしておく(その目標が達成できた時点で、そのプロモーションを終了する。)。

2012年11月26日月曜日

クリエイティビティの契機とその障壁への対応

HBR Blog Networkの”Fighting the Fears that Block Creativity” by Tom Kelley and David Kelleyの抄訳。


GEヘルスケアにおいてMRI装置を担当していたDoug Dietzは、病院を訪れた際、MRI装置に入るのに脅え、泣いている子を見て、「目立つ箇所、新機能、自分たちがどれだけ賢いかに捉われ過ぎて、全体像を見失っていた。」と気づき、それから小児患者のMRI経験の改善に取り組むようになった。

上司に相談したり、スタンフォード大学のd.schoolを受講したりした後、Dietzは子ども博物館の小児学習の専門家や地元小児病院のチャイルド・ライフ・スペシャリストを含むボランティアで、小さなチームを作り、子どもたちがどのようにMRIを体験しているか、総体的な検討が始まった。

そして、複雑な機械の内部には変更を加えずに、MRI室までをも含む外部全体を、宇宙への旅、海賊船の航海を連想させるようなカラフルなステッカーで飾るようにした。また、MRI室のオペレーターが子どもたちを誘えるように想像的な原稿も用意したりした。

これらの単純な変更が大きな変化をもたらし、小児患者への鎮静剤使用量の減少、家族の満足度の大幅な改善といった成果が上がった。また、この手法はCT、PAT、X線を使う際にも用いられ、同様の成果が上がった。そして、Dietzにとっての本当の成功の証は、また来たいという子どもの声を聴いた時であった。

Dietzの行動から見えてきた、クリエイティブになる上で恐れてはいけない四事項は以下のとおりである。
  • デスクを離れ、現場で直に気づきを得ていくことで、まだ整理されていない未知のものに挑戦する。 
  • 成功させるため再考したいと思った時も、上司の査定など周囲の評価を気にせずに取り組む。 
  • 社外人材巻き込むとき、コントロールが及ばなくなることを受け入れる。
  • 即座に第一歩を踏み出す。

2012年11月24日土曜日

イノベーション・パフォーマンスの高め方

HBR Blog Networkの”Solving Your Biggest Innovation Challenge” by Martia Capozzi and Ari Kellenによれば、競争環境を変えてしまうようなイノベーションは、顧客、従業員、株主の誰にとっても好ましいものであるが、大企業にとっては困難な課題である。そこで、代わりに"innovation at scale"(コアビジネスに立脚した上で、新たな製品、サービス、ビジネスモデルによる、反復可能で持続可能な有機的成長を成し遂げること)が推奨されている。

このアプローチも決して簡単なものではないが(調査では6%の企業しか継続的にこうした取組を行っていない。)、全く新しい市場を開拓するよりは手掛けやすいものである。"innovation at scale"を成し遂げるのに必要な要素は以下のとおりである。

1.戦略面
まずは、自己の保有する資産、能力、そして成功をもたらす要素を深く理解する必要がある。戦略が重要であるのは、それがイノベーションを促進するのに必要な構想や焦点を形成するからである。それによって、単にイノベーションに取り掛かるよりも(従業員が)積極的にリスクを取れるようになる。

2.組織面
· イノベーションは小事ではない。
イノベーションを戦略的な計画策定、予算付け、資源配分に統合している企業は、目標を達成しやすい。リーダーシップ(特に経営幹部のリーダーシップ)はイノベーションの成果と密接に関連している。

· オープンで居続ける。
顧客、従業員、その他の利害関係者のアイデアを活用するため、多くの企業がオープンイノベーションの考えを取り入れているが、取り組むべき諸アイデアが定まると、その取り組みは直線的なものとなってしまいがちである。市場動向に留意しつつ、迅速なイノベーションに臨むことで、アイデアをさらに洗練させていくことができる。

· 実行に適した体制を構築する。
組織設計(イノベーションセンター、インキュベーター、研究所)とイノベーションとの間にはっきりとした相関関係を見つけることが難しいが、少なくとも人材を結びつけ、資源を配分し、進捗を把握するという意味では有益である。

· 人材を厳選する。
ボランティアによるプロジェクトの成果は、役割に応じて選出された人材によるプロジェクトのそれを下回る傾向がある。意欲は重要であるが、それでは必要な専門知識と能力を代替できない。

"innovation at scale"
http://ecorner.stanford.edu/authorMaterialInfo.html?mid=2798

2012年11月22日木曜日

アメリカの子どもたちもアップルがお好き(ニールセンのアンケート結果)

米調査会社ニールセン (Nielsen)では、毎年クリスマス商戦が本格化する11月下旬に、子どもたち(6-12歳(小学生)と13歳以上(中高生))がこれから6か月の間に欲しいと思うエレクトロニクス製品(ゲーミング)のアンケート結果を発表している。今年も昨日発表され、相変わらずアップル製品が圧倒的に高い人気を誇っていることが明らかになった。







このアンケート結果を眺めていて気付いたことを残しておく。

1.調査結果からクリスマス商戦での各製品の成否を正確に予想することはできない。
各回答者の欲しいモノリスト内での順位づけは、少なくとも公表されているデータからは分からない。いくら欲しいと思っていても購入できる、または購入してもらえるのは1、2個であろうから(サンクスギビングとクリスマス)、実際の売り上げという観点からは予測が立てづらい。

2.低年齢層ほど欲しいと思う製品を絞り込めていない。
このアンケート調査は複数回答が可能となっているようであるが、6-12歳の方が13歳以上よりも興味を持つ製品を多く回答している。

3.直近3年間(2012年2011年2010年)の順位を見ると、以下のような傾向がある。
・6-12歳ではコンピュータの人気が大きく下がっている。
・13歳以上ではテレビの人気が大きく下がっている。
・言わずもがなであるが、ゲーム機市場はアップル製品(タブレット、スマートフォン)に飲み込まれてしまっている。

2012年11月21日水曜日

イノベーションの浸透(技術とビジネスモデル)

HBR Blog Networkの”When Business Models Trump Technology” by Karan Girota and Serguei Netessineでは、新技術を普及させるためには新しいビジネスモデルについても考える必要があることを点滴灌漑 (drip irrigation) の事例を用いて説明している。


過去50年の間に人口が倍増し、世界中の多くの地域において灌漑用水は農業生産にとって致命的な制約要因となってきている。こうした問題を解決する手段として点眼灌漑が注目されているが、それ自体は新しい技術ではなく、120年以上前からあったものである。最近注目されるようになったのは、イスラエルのNetafirmが、ビジネスイノベーションにより商業化に成功し、商業用小規模灌漑設備市場において1/3以上のシェアを誇るようになったからである。

だが、当初から上手くいったわけではない。Netafirmは点滴灌漑に近代的な電子制御技術を導入し、収穫量を3~5倍増加させることに成功したが、そのシステムが注目を浴びるようになるのは容易ではなかった。売り手と買い手の間での新技術に係る情報の非対称性、インセンティブの非対称性(Netafirmは売上の最大化、農家はROIの最大化。)が導入の障壁となったのである。

こうした課題を解決するため、Netafirmは”IrriWise Crop Management System”という新しい提案を始めた。それは、システムデザイン、必要な全てのハードウェア、備え付け、システムの定期運転を全て統合したものであり、最も重要なのはNetafirmが自らコストを負担して導入し、その分収量増加の配当をより多く受け取るようにしたことである。これにより、Netafirmの目標は収量を最大化することとなり、情報とインセンティブに係る問題が解決された(Netafirmの綱領も「顧客にとって最高の点滴灌漑設備を造る」から「より効率的に世界が成長することを手助けする」に変更された。)。実際、このビジネスモデルは成功し、大きな成果が双方にもたらされた。

この供給側が設備導入のリスクを引き受け、成果の配当を後回しにするモデルには以下のような利点があった。
  • 専門知識と最新の予測技術を持つNetafirmと農家の間にあったリスク認識の格差が解消された。 
  • 実際、規模と多様な市場基盤を有するNetafirmのほうがより上手くリスクをコントロールできた。

2012年11月20日火曜日

チームの規模とパフォーマンスとの関係

HBR Blog Networkの”Why Less Is More in Teams” by Mark de Rondでは、チームの人数とパフォーマンスとの関係についてまとめている。


100年前、フランス人エンジニア、マクシミリアン・リンゲルマン(Maximilien Ringelmann)による簡単な綱引きの実験において、人間の努力はチームが大きくなるほど急激に小さくなることが分かった(リンゲルマン効果)。実験では、8人で引っ張る力は4人で引っ張る力に及ばなかった。当時は、(目的を達成するために必要な)労力を調整することの難しさに起因するものであるとの理屈付けが行われた。

1970年代、これに素晴らしいひねりを加えたのが、アラン・イングハム(Alan Ingham)達である。以下の二つの実験結果の比較である(①上記と同様の単純な綱引き、②参加する他のメンバーには知らせずに、何人かの参加者にロープを引く振りだけするように指示した上での綱引き)。実験の結果、何も知らなかった参加者が示した労力は、どちらの場合でも変わることがなかった(社会的手抜き(social loafing):人数が多くなるほど、結果に対する責任感が小さくなり、労力を投入しなくなる)。

その後、様々な課題に係る同様の実験が行われたが、人々は4人、せいぜい5人のチームを好むことが分かった。それ以下の人数では効果的に取り組むには少なすぎると感じられ、それより多いと手が抜かれるのである。ただ、課題の困難性・複雑性については説明しきれない面もあり、仕事への適用可能性については留保が必要である。

チームの規模を変更することができない場合の対応策については以下の4つの選択肢がある(何もしないで手をこまねいていると、ハイパフォーマーは手を抜いているメンバーをそのままにしている組織に対して不信感を抱き、去っていくだろう。)。
  1. 複雑な課題を管理可能なように分割する(各メンバーが責任を負うべき領域を明確にする。 )
  2. 緊急的状況にあるという感覚を醸成する (自分自身のことよりも優先されるべき事項を与えるということになるが、継続的に行うのは難しい。) 
  3. パフォーマンスの低いメンバーがより多くの責任感を感じるようにする 
  4. フィードバックをオープンに行うことで透明性を高める(怠け者が隠れられないようにする。)

2012年11月15日木曜日

リベートから学ぶ差別的価格政策の重要性

HBR Blog Networkの”Why Rebates Encourage Tax Evasion” by Rafi Mohammedでは、リベートを例に、差別的価格政策の重要性について説明している。


典型的には、差別的価格政策(顧客ごとに異なる価格を課す戦略)の一形態として用いられる。目を引くような割引価格を、「リベート後」という小さな注意書き付きで大きく宣伝したりするのである。リベートを受け取るためには、応募し、手続きを待ち、リベートチェックを現金化するという作業(時間と労力の手間)が必要であり、価格に敏感な顧客を特定するのに役立つ。また、実際に換金するのは、平均的に対象者の50%に過ぎないというデータもあり、実施的に差別的価格政策としての役割を果たすこととなる。

これに加えて、節税・脱税といった観点から、リベートは購入者に好まれたりもする(小売業者としてそういった行為を推奨しないとしても)。たとえ最終的に負担する額が1ドルだとしても、リベートを受け取る前に5ドル支払っていれば、その額でレシートが発行されるため、法人税の申告に際して、容易に控除することができてしまう。特に、消耗品を継続的に大量購入するような企業に対して大きな意味を持ち得る。

全てのビジネスに共通する教訓は、異なるセグメントの顧客には異なる価格付けを行う必要があるということである。利益と成長を実現するためには、可能な限り詳細にセグメンテーションを行い、それに対応した価格付けを行うことが重要である。


差別価格については、経済学で独占的企業が国毎に異なる需要曲線を踏まえ、異なる価格設定を行い、利益を最大化するという話がすぐに思い浮かぶが、現在では、ネット経由の購買であれば、各人の選好を反映した価格付けや時間に応じて価格を変化させることも容易にできる。

ただ、リベートの利点は、必ずしも換金されないという点にある。換金に係る手間を考慮すると、確かにリベートが購買意思決定に及ぼす効果は値引きに比べて小さくなるが、50%という換金率は通常の値引きに比べて費用を半減させた上で、その効果を享受できるということを示しており、魅力的であることは間違いない。

2012年11月12日月曜日

カタリストを活用した大企業によるビジネスモデルイノベーション

HBR の2012年9月号の” The New Corporate Garage” by Scott D. Anthony によれば、アップルに代表されるように大企業でもパラダイムシフトをもたらすようなイノベーションを生み出せるようになってきている。具体的には、大企業の中にいるアントレプレナー(起業家精神を持った人材)やカタリスト(触媒的機能を果たす人材)が、会社の資源、規模、他にはできないようなやり方で地球的課題に対するソリューションを生み出す機敏さ、を活用してイノベーションを生み出すようになってきている。


イノベーションの歴史
  • イノベーターが個人として活躍した第一期(~1915年頃) 
  • イノベーションの複雑化、高コスト化により企業(研究所)主導の取組が主となる第二期(~1950年代) 
  • 企業が過度に大きくまた官僚的になったことに伴い、VCの支援を受けたスタートアップが隆盛する第三期(20世紀後半) 
  • これまでの技術的革新に加えてビジネスモデルのイノベーション(アマゾン、スターバックス、オートネーション(米国の自動車小売最大手で、ネットでの新車・中古車販売を行っている。))も含むようになった第四期(2000年くらい~) 
に分類され、現在、オンラインツールによりイノベーションに係るコストが著しく低下したことにより、起業が容易になる一方、その後の競争が激化、長期化している。


企業におけるカタリストの役割
企業は、戦略とイノベーションに係る活動を分権化、分散化するに連れて、その敏捷性が増し、カタリストにとって快適な環境となってきている。カタリストは、地球的規模の課題解決のような大きな野望によって動機づけられいる。そして、イノベーションを生み出すため、会社内部と外部との間にネットワーク若しくは連携を形成するといった役割を果たしており、以下のような事例がある。

メドトロニックの健康な心臓プラグラム
ビジネスモデルイノベーションの事例として、医療機器を製造販売するメドトロニックが、インドにペースメーカーを浸透させていく際に、地方における無線通信を活用した遠距離診断、地場のパートナーと連携による低所得者のためのファイナンスの開発、地元のドクターとの強い関係構築、ペースメーカーの認可等に総合的に取り組んだことが挙げられている(個々の項目としては模倣可能であるが、全体的に行うのは(少なくともスタートアップには)容易ではない。)。さらに、健康な心臓プログラムは、インドでのプレゼンスを増大させるビジネスモデルの構築を指示されたKeyne Monsonという同社のカタリスト(触媒として機能する人材)が、インド支社内の賛同者を見つけ、また外部の協力者(アショーカ財団)を初期の段階からプロセスに参画させ、協働することで成し遂げられた。

・ユニリーバの持続可能な生活計画
同計画の一つの取組として、発展途上国の人々に安全な水を届けるため、ユニリーバはYuri Jain副社長に世界の浄水ビジネスを任せることとした。彼は、全世界のユニリーバの研究者100人を動員し、品質を保ちながら低価格な家庭用浄水器ピュアイットを開発し、また学校や消費者にこの新技術を受け入れてもらうため、外部の協力をリストアップし、NGOをパートナーとするなどしている。

シンジェンタの生産的な農業
アグリビジネスを世界的に展開するシンジェンタは、それまで大規模農場に集中していたが、革新的な手法で飢餓に取り組むため、Nick Musyokaを全く分野の異なる消費財メーカーから招いた。彼はカタリストとして、1980年代に登場した小袋モデル、そして小売業者を通じた小規模農家の教育を通して世界中の小規模農場の生産性改善に取り組んだ。

・IBMのスマートシティ
IBMにおける発明の大家であり、カタリストでもあるColin Harrisonは、パルミサーノCEOに直接報告できる本社戦略チームにベンチャー的環境を形成するため、抜擢された。IBMは、研究開発からマーケティングまで、VCに支援されたスタートアップには望むべくもない、その多岐にわたる資源を有しながら、イノベーション第三期の間はその統合に苦労し、うまく活用できていなかった。具体的には、サービスに係る識見、ウェブの結合性、そして物理的センサー、作動装置、RFIDチップを用いた効率性の改善をどのように結び付ければよいかということであったが、Harrisonはアブダビの二酸化炭素中立、ゼロエミッションを目指す都市計画プロジェクトに出会い、そして個別のインテリジェンスを統合するスマートシティという発想に到達した。

こうしたカタリストが企業内で活躍できるよう、企業はオープンイノベーション、システマティックなイノベーション、意思決定メカニズムの簡素化・分権化、学習への集中、失敗に対する寛容を成し遂げる必要がある。そして、カタリストのような高度人材を惹きつけるには、経済的インセンティヴではなく、自己決定権、専門的追及への機会付与、目的意識の刷り込みが必要となる(Daniel H. Pink “DRiVE”)。


この論文では、各時代状況に応じたイノベーションの作法が検討され、現在はビジネスモデルイノベーションの時代であり、その担い手は大企業であるとしている。具体的には、大企業がその豊富な資産という強みを活かしつつ、柔軟性の欠如、視野の狭さといった弱みをカタリストを活用して克服していくというかたちが提唱されている。この点については全くそのとおりであるが、そもそもイノベーションとは多くの失敗の上に積み重ねられるものであり、必ずしも成功するものではないことを考えると、挑戦の数を増やしていくことも重要である。そうした観点からはカタリストとなるべき人材の育成、各従業員のカタリスト的要素の涵養により、組織全体でイノベーションを行うような仕組みづくりが必要であり、それはカタリストと協働した従業員が、その思考、経験を伝播していくことにより、可能となると思われる。

2012年11月9日金曜日

消費者の行動を変化させる(ユニリーバの取組)

HBR Blog Networkの”Change Consumer Behavior with These Five Levers” by Keith Weedによれば、 環境負荷を低減させようとしている消費財メーカーは、自らがコントロール可能なプロセス(生産、流通等)よりも多くのインパクトが、直接的にはコントロールできない、消費者の利用過程からもたらされているという課題に直面している。

そこで、ユニリーバによる持続可能な生活計画の成功をもとに、ブランドを活用して消費者の行動を変化させることにより、製品のライフサイクルを通じての環境貢献を果たす5つの手段についてまとめている。


1. 理解してもらう 
人々に自らの行動とその影響について気づき、受け入れてもらう。
ユニリーバは、手に付いている目に見えない細菌が自分たちの石けんを使用した後に無くなっている様子をCMで流している。

2. 容易にする
人々に促す行動について知ってもらい、それに自信を持ってもらい、そして自分の生活様式に適合していると理解してもらう。
ユニリーバは、手で洗濯を行う、水へのアクセスに限界がある人々に柔軟剤を普及させるため、すすぎがバケツ一杯の水で済むということを、実演やサンプルの配布で理解させていった。

3. 望ましいものにする
新しい行動が、人々の現実のまたは望むセルフイメージに適合するようにする。
幼児の死亡率を低下という観点で言えば、母親たちの良い母親になりたい、またはそのように見られたいという願望が、ユニリーバの石けんを利用することで満たされるようにした。

4. 報いられるようにする
正しい行動をとることが報いられることを知ってもらう。
ユニリーバは、シャンプーを泡立て、髪につけている間、シャワーを止めることで、光熱水費が節約できることを啓蒙している。

5. 習慣づける 
一度新しい行動を取ってもらったら、それを無意識に続けてもらうよう、再強化、再認識させていく。
ユニリーバは、その手洗いキャンペーンを少なくとも21日間以上実施している。 



ユニリーバの取組は、幼児の死亡率、人々の衛生管理等の社会的問題を事業を通じて、持続可能なかたちで解決できることを示している。ソーシャルアントレプレナーと同様のことは既存企業にも実施可能であり、それによってまたビジネスチャンスも広がり得るということである。そして、そのためにはブランドを活用して消費者の意識に働きかけることが万能ではないにせよ、効果的であるということである。

2012年11月6日火曜日

巨大かつ俊敏な組織のつくり方

HBR Blog Networkの”Can Bigger Be Faster?” by Mark Boncheck and Chris Fussellは、自然界においてはトレードオフの関係にある規模とスピードを、組織が同時に達成する方法についてまとめている。


Geoffery West: The surprising math of cities and corporations“に依拠しつつ、生物界と都市を対比させ、ネットワークにより規模とスピードを同時に達成することが可能となるとしている。都市、コミュニティ、フェイスブックやツイッターのようなバーチャルなコミュニティは脳と同様に、規模が大きくなるほど変化に富み、創造的になるという特徴を有している。


そして、残念ながら現代の企業はそのトレードオフから抜け出せていないが、組織をネットワークとして再認識することにより変化できるとして(お手本として、9.11を契機にネットワークに取り組んだアメリカ軍が挙げられている。)、そのための4つの戦略を提示している。

(1)関係の構築
通常、企業内の各個人はその上司、同僚、直属の部下といった関係しか形成していないが、まずはより多くの関係(特にこれまで組織間の繋がりがなかった部分において)を構築することから取り掛かる必要がある。

(2)目的の共有 
合意、そして目的を共有しているという意識を形成することにより、協働が可能となる。

(3)意識の共有 
現在地と目的地を認識し、また共有することで、迅速かつ効果的な行動をとることができる人間に情報が提供されるようになる。

(4)反対(多様性)の促進 
服従ではなく多様性に適合するにより、集団思考、イノベーション、組織的頑健性を生み出す。


この投稿では、フォーマルな組織の中でのネットワークがテーマとなっているが、定型的業務、組織的階層に基づく関係に比べて、より広範囲かつ関連性の薄いノード間でコネクションを構築、維持するにはかなりのコストがかかる。そのため、現実のところ、その多くはインフォーマルな関係として成り立っているのではないだろうか。

2012年11月4日日曜日

マーケットリサーチを最大限に活かす

HBR Blog Networkの”Using Market Research Just for Marketing Is a Missed Opportunity” by Werner Reinartz によれば、ほとんどの企業がカスタマーインテリジェンス(顧客データの収集と分析)を顧客との関係構築、改善に利用している。顧客の購買サイクルを知ることでより効果的にプロモーションできるようになるということである。しかしながら、そうした情報をイノベーションに利用できている企業は少ない。


まず、既存顧客から集めたデータを新製品や新サービスの開発に結び付けることができる。フォークリフトを製造しているFenwickでは、センサーとRFIDを使って各フォークリフトの利用状況に係る情報を集め、遠隔監視、イントラネットの開発、運転手への講習といったサービスを開発し、そうしたサービスからの収入が売り上げの半分を占めるまでに成長しているという。

また、インターネットに係るカスタマーインテリジェンスについて、購買プロセスの簡易化、購買履歴、輸送状況の追跡、製品への感想といった既存顧客に係る情報だけでなく、潜在的顧客がネットに発信している情報を分析することで、その可能性をより広く捉えることができる。

例えば、ドイツ最大のヘアケア製品会社であるSchwarzkopfでは、自社サイトのパフォーマンス(トラフィックやセールス)を向上させるため、数百万人がブログにポストしたヘアケアに係る情報の分析を行った。その結果、顧客がブランドや製品の特性よりもそれぞれのヘアケアの問題を気にかけていることに気付いた。そして、ブランドや製品のリストに代えて、髪の特徴にフォーカスして自社サイトを再構築することによって、そのトラフィックを3倍にすることに成功した。

こうした情報を入手するための課題は、自らにとって最良のデータが存在するオンラインの場所や集団を特定することにある。



なお、Schwarzkopfの事例については、パフォーマンスの向上が主にトラフィックの増加によるものであるという点に注意が必要であるように思われる。サイトを確認してもらえれば分かることであるが、髪に係る情報は豊富に提供されているが、個別製品に係る情報はあまりなく、また目立つようにも配置されていない。おそらくウェブではヘアケア市場におけるブランドの強化、新規の見込み客の呼び込みにのみ注力し、直接的な売上アップは店頭やCM等、別のポイントで行おうと考えているのであろう。