2012年10月31日水曜日

イノベーションを起こす3つのアプローチ

HBR Blog Networkの”The Less-is-Best Approach to Innovation” by Matthew E. Mayは、余分なものをそぎ落とす引き算の発想により、イノベーションに至る3つのアプローチを紹介している。

機能を絞り込む 
今ではフェイスブックに買収されるほどに成長したインスタグラムであるが、その成功はユーザーに提供する価値を明確化し、ユーザーが使いやすいように機能を絞り込んだことにあった。

手綱を緩める 
· 役職のないフラットな、チームワーク重視の企業、Gore-Tex。
· 上司のいないビデオゲーム会社、Valve。
· 自分のスキルを元に、その追求すべきタスクを自ら発掘することを求めるトヨタ。
· 社長や上司のためではなく、顧客のために仕事をしろと言って、全ての管理部門を廃止したフランスの自動車部品会社(従業員数600人)、FAVI。

神経を落ち着かせる
例えば、瞑想することにより、意識を高め、集中力を上げ、そして創造的な閃きが生まれる。瞑想は実際、グーグル大学でも2007年からコースの一つとして取り上げられている。


単に思いついたものを書き連ねているという感じで、正直使いづらいが、備忘録として。

コンテンツマーケティングの効果測定方法

Content Marketing Instituteの”Measuring Marketing Effectiveness: 6 Metrics You Need to Track” by Kevin Cainでは、コンテンツマーケティング顧客が必要とする情報を理解し、それを適切にコンテンツとして提供することで、購買につながる行動を引き起こす手法)を改善していくにはまず効果測定が必要だとして、フォローすべき6つの指標を紹介している。


1. ウェブサイト訪問者数 (Unique visitors):
会社規模、産業、コンテンツ供給量によって大きく異なる。

2. ページ閲覧数 (Page views):
ウェブサイト訪問者に訴求するコンテンツを、どの程度供給できているかを示す。

3. サーチエンジン経由数 (Search engine traffic):
検索エンジン最適化 (Search Engine Optimization) が効果的に行われているかを示す。

4. 直帰率 (Bounce rate):
一つのページを見ただけでそのウェブサイトを去っていく閲覧者の割合。40%以下であれば良いとされる。

5. 顧客転換率 (Conversion rate):
ウェブサイト訪問者のうち、その促そうとした行動を取った訪問者の割合。産業によって大きく異なるが、平均的には2~3%となる。5%くらいを目指すのが良い。

6. インバウンドリンク数 (Inbound links):
ネット閲覧者を(自社)ウェブサイトに誘導してくれる外部リンクの数。


当然、上記指標を活用する前に、コンテンツマーケティングを理解しておく必要があるわけであるが、以下のインフォグラフィックが参考になる。

2012年10月27日土曜日

マネジメントの簡単な秘訣

Inc..comのGeoffrey Jamesによる”World’s Simplest Management Secret”では、世界で最も簡単なマネジメントの秘訣を紹介している。


人間を集合的にマネジメントすることはできない。マネジメントできるのは個々の人間のみである。

みんなの前で称賛されることで成長する者もいれば、そうしたことを不快に感じる人間もいる。
金銭的報酬が全ての人もいれば、課題に挑戦することで駆り立てられる人もいる。
メンターが必要な人もいれば、そうでない人もいる。

ポイントは個々人をその望むようにマネジメントすることであり、そのためには個人個人に尋ねてみるしかない。「どのようにマネジメントされたいか。」、「あなたの成長、成功を支援するために自分に何ができるか。」、「どのようにマネジメントされるのは嫌か。」等、しっかり聞き取り、可能な限り、コーチング、モチベーション、報酬を各個人に合わせて調節する必要がある。 



各個人に適合した個々のマネジメント手法も重要であるが、そうした手法を採用するに至る過程で各個人の意向を汲み取る仕組みがあるということも納得感の醸成に繋がると思われる。

また、このような個々の社員にコミットできる仕組みを、それに見合ったコストの範囲内で構築できるかどうかが組織としての成否の分かれ目になるのだと思われる。

2012年10月22日月曜日

ビッグデータの初歩

HBR Blog NetworkのAlex “Sandy” Pentlandによる”Predicting Customers’ (Unedited) Behavior”と”Big Data’s Biggest Obstacles”から、ビッグデータについてまとめます。


まずビッグデータとは、人々の行動結果について、フェイスブックへの投稿、グーグルサーチの結果、携帯電話からのGPS情報、RFID (Radio Frequency Identification) の商品管理情報等、網羅性、客観性を兼ね備えた大量の一次情報を解釈して提供するものである。


人々の行動は社会的文脈によってかなり決定づけられ、またそれはかなり予測できるものであるということから、ビッグデータを活用して人々の行動と結果との間の関係性を発見するという分析がかなり進んできている。これまでは複雑性の科学やウェブサイエンス・エンジニアリングという領域で研究されてきたが、政府、企業をはじめとするあらゆる社会的文脈を組み込み、人間とアルゴリズムをまとめて扱うものとなっている。


ただ、それらを有効利用するためには、データのサイズやスピードではなく、データの関係性をどのように分析し、新たなシステムを生み出すかという点に取り組む必要があり、以下に掲げるような問題をクリアしていかなければならない。

相関性の問題
データが大量であるほど、統計的に有意な結果が得られやすいが、ビッグデータの場合、本当なのか、因果関係はあるのか、単なるエラーなのではないか等の疑問が発生するような、利用価値のない結果が出ることが多く、実世界で因果関係を検証するような仕組みが必要となってくる。

人間知性の問題
ビッグデータで得られた分析結果をどう解釈するかということである。最近、マシンラーニングの領域で発見された結果のうち70~80%は誤っている可能性が高いという推計が発表された。取得したデータに係る統計結果が、人間の直観や因果関係という観点から分析されておらず、使えないということだ。

情報の出所の問題
分析に必要なビッグデータを使用可能な状態で収集しきれないことがある。そうした場合は企業内の情報共有方法の見直し、顧客や他の企業との連携といった対応が必要である。

プライバシーの問題
経済産業省の委託研究として野村総研が行った「平成23年度我が国情報経済社会における基盤整備」の104ページ以降に記述があるので参照されたい。また、アメリカのホワイトハウスがまとめた”Consumer Data Privacy in a Networked World”も消費者データに係る考え方や取り扱い方についてまとめている。

2012年10月18日木曜日

神経科学の知見を活用した組織改革

HBR Blog Networkの”This is Your Brain on Organizational Change” by Walter McFarlandによれば、激化する競争、グローバリゼーション、技術革新、金融不安、政治的不安定、そして変化する労働力構成などがよりスピーディに、またこれまでとは違う形での組織変化を求めているのに対し、学問的にも、実践的にも十分な発展が見られていない。


いくつもの課題のうち、重要なものの一つとして、従業員をうまく関与させられていないということが指摘されている。組織改革より新規の組織設立のほうが楽だと言われるくらいに。具体的には、「人間の持つ変化への抵抗」が大きな障害となっているわけであるが、どのようにすれば、従業員の支援と創造力(組織改革の際に最も重要な属性)を効果的に引き出すことができるのであろうか。


神経科学、特に脳に係る研究(社会、認知、情動)が、現実に応用可能な知見を提供している。2012NeuroLeadership Summitにおいて、神経科学と組織改革の繋がりについて以下のような点が議論されている。

・現在進行形
変化は常に従業員を恐れさせ、また驚かせる。

・火事場の演出の必要性
従業員を駆り立てるために、明示的、黙示的に恐れが利用されている。

・トップダウンの組織改革
ごく少数の人間によって改革が主導され、コミュニケーション不足やその失敗が見られる。

例えば、「火事場の演出の必要性」について、神経科学の見地からは、従業員をプラスの方向に導くというよりは不快にさせるものであるということが分かっている。また、「トップダウンの組織改革」については、恐怖を引き起こすに過ぎない。


職場における社会的側面をより良くマネジメントしていくには、ステータス、確実性、自律性、関係性、公平性といったニーズが満たされる必要がある(SCARF model)。こういった点を考慮し、以下のように変化をこれまでと違った観点から捉える必要がある。まずは、人間というものをモノではなく、競争力の源泉として捉える。つまり、組織改革を常在する危機としてではなく、組織をより良くマネジメントするために必要な準備をするためのものと捉えるということになる。


SCARF model(スカーフモデル)



人間の脳の統制原理は危機の最小化と報酬の最大化に集約され、リーダーやマネジャーが影響力を発揮するにはこの点を念頭に置かなければならない。具体的には以下の5つの要素を考慮する必要がある。

Status(ステータス) 周囲の人間との関係において自分がどこに位置しているか、どれだけ重要であるか。

Certainty(確実性) どれだけ未来を予測できるか。人間の脳は常に安定性を求め、あいまいな物事を予測しようと働いている。

Autonomy(自律性) 人間は自ら統制できない、選択できない状況に対してストレスを感じる。

Relatedness(関係性) 敵よりも味方といるときのほうが安全と感じること。知らない人間の中に投げ込まれたときに、たとえば会社においてバーチャルなチーム、多様な出自を持つ人間によって構成されるチームで活動する際に、人間はストレスを感じる。

Fairness(公平性) 人々の間で等価交換が行われているという認識。評価の透明性、客観性が重要となる。

2012年10月13日土曜日

マクドナルドから学ぶ現地化のポイント

HBR Blog Networkの”McDonald's' Local Strategy, from El McPollo to Le McWrap Chèvre”by Nataly Kellyでは、各地域に合わせたメニューを提供することでグロバールに成功しているマクドナルドから現地化のポイントを抽出している。


1. ブランドと商品を混同しないこと
マクドナルドというブランドがハンバーガーと強く結びついていることは確かであるが、各地域のメニューに必ずしもハンバーガーがなければいけないというわけではない。実際、マクドナルドはインドでベジタリアンのための店舗を導入している。

2. どの商品が国際的な訴求力を持っているか理解すること
(ここでいう国際的な訴求力とは、地域を選ばず受け入れられ、また魅力的であることを意味している。)
どの企業にもそういった商品はあるものであり、マクドナルドで言えば、フライドポテトとシェイクがこれに当たり、世界中のほとんどの地域で通用する。

3. 新たなブランド属性を築くチャンスという観点から新興市場を捉えること
マクドナルドはアメリカで誰もが食べに行くところとして考えられているが、中間所得層が増大している多くの新興国ではマクドナルドで食事をすることがステータスシンボルとなっている。対象とする市場によってブランドの持つ意味が変わりうるということである。

4. 未来を見据えて、潜在性を持つ多くの小さい市場に目配りすること
多くの企業が現在の主要な市場に目を奪われるという過ちを犯している。マクドナルドの売り上げのうち、70%はオーストラリア、カナダ、中国、フランス、ドイツ、日本、イギリス、そしてアメリカから上がっているが(年間売上200億ドル程度)、残りの30%にも注意を払っている。後者の国々の購買力が上昇するにつれてその全体売り上げに占める割合も上昇していくであろう。

5. 顧客にその思うところを伝えてもらうようにすること
マクドナルドは各地域の顧客の行動を詳細に観察し、彼らにとって慣れ親しみを感じるようなメニューを提供することで、消費者に受け入れられている。

だが、マクドナルドでさえもこれらのことを実行することを忘れてしまうことがある。お茶を愛する、ミネソタ州のミャオ族(中国から移住してきた少数民族)に無理をしてコーヒーを売り込んでいることが悪い例として挙げられている。

2012年10月12日金曜日

都市から攻める新興国市場


McKinsey Quarterlyのレポート”Unlocking the potential of emerging-market cities”によれば、大抵の企業は国・地域単位で資源配分を行っているが、より速く成長するには都市に焦点を変えたほうがいい。


現在、巨大な都市化の波が新興国の成長を強力に後押ししている。2025年には40億人を超える強力な消費者層が世界に生まれるが(1990年時点では10億人程度であった。)、そのうちの半分は新興国の都市が占め、消費、モノへの投資併せて25兆ドルの経済活動が発生することとなる。


2010年現在の世界のGDP(60兆ドル)のうち、先進国の大都市が36%を占め、抜きん出ているが、2025年までの経済成長に対する寄与度としては、新興国の上位443都市で47%、新興国のそれ以外の地域で27%、先進国で26%となっており、新興国の大都市に大きな成長の可能性が広がっていることが分かる。


しかし、成長戦略を構築する際に、都市の持つ重要性を十分に理解しているビジネスリーダーはほとんどいない。また、既存の確度の高い案件から将来を見据えた案件に予算を回すことも容易ではない。だが、そこで先行企業(early-mover)になることで、人口動態や所得のトレンド、消費の特徴等、各都市に応じたレンズ(モノの見方)を持つことができる。分野ごと(65歳以上の高所得層、低所得の若者、洗濯用品への消費支出、商業売り場面積への需要、水の需要)に2025年までに最も増加率の高い都市をランキングしている。

・高齢者向けのヘルスケア製品を取り扱っている企業であれば、購買力平価ベースで2万ドルの所得を持つ高齢者が増加し、最も多くなる上海、北京が重要な市場となることが分かるであろう。先進国で同様の状態となるのは東京、大阪くらいしかない。

・幼児用食料品の市場として、子どもを持つ世帯数についてはアフリカが有望となってくる。アフリカにおけるそうした世帯の所得は購買力平価ベースで7500ドルから2万ドル程度となっている。

・洗濯用製品市場として、サンパウロ、北京、リオデジャネイロ、上海は最も有望であるが、それは世界的な消費動向の一部でしかなく、新興国都市部の消費者はさらに年間14兆ドルを消費すると見込まれている。

・世界中の都市は2025年まで少なくとも10兆ドルを物理的なインフラに投資しなければならない。うち不動産投資の増加のうち、40%は中国の都市が占めることとなる。

・都市部の水関係インフラの整備には、2025年までに4,800億ドルが必要となり、うち80%はムンバイ、デリーなど、新興国の都市が占めることとなる。 

同じ国の中でも、都市毎にその選好が異なることから消費行動(自社製品の選択率)に違いが出てくる(地域ごとの家計の所得水準の差を調整した後でも同様の結果)。


グローバルな経済活動の中心は既に新興国に移っているのはもちろんであるが、さらにその諸都市への着目が求められる段階まで競争のレベルが上がってきているということであろう。

2012年10月9日火曜日

顧客満足度・リピーター・推薦者 (ESQi*NPS)


2012年6月に発表されたBain&Companyのリサーチレポート「日本の消費者市場の潜在可能性を喚起する新たな視点とは」では、日本の国内市場の持つ可能性を肯定的に捉えつつ、既存企業が消費者に十分な価値を提供できていないとし、4つの対応策を提言している。
  1. 国内市場構造の変化に対応したビジネスモデルの再設計 
  2. ソフトイノベーションを通じた豊かな顧客体験の創造 
  3. ロイヤルティリーダーとなるための事業設計 
  4. 真実の瞬間(Moment Of Truth)をブランドに織り込む 

このうち、ロイヤルティリーダーとなるための事業設計の中で、彼らの開発したツールNet Promoter Score (NPS)が紹介されているが、以前このブログで紹介したEnterprise Service Quality index (ESQi)を精緻化したものであると言える。簡単にまとめると、以下のとおりとなる。


ESQi NPS

比較検討
回答方法 5段階評価 11段階評価
精緻な分析が可能となっているが、詳細に過ぎ、回答の正確性に疑問がある。
算出方法 最上位評価が全体の回答に占める割合 最上位評価(9-10)-平均以下評価(0-6)
企業の評判を貶めるおそれのある消費者にも目配りされている。


個人的な結論としては、ESQiとNPSの中間が最も実用的な指標ではないかと思われる。過度に精緻化された指標では、消費者の回答の正確性、従業員のサービス改善における実感を伴った参照可能性に問題があると考えられるからである。

・5段階評価
「大変満足した」、「満足した」、「ふつう」、「満足していない」、「不満である」
・指標
最上位評価(「大変満足した」)-平均以下評価(「ふつう」、「満足していない」、「不満である」)

2012年10月7日日曜日

ビジネスプランの意味とポイント

HBR Blog Network の“Heart, Smarts, Guts, and Luck”で紹介されている、成功したアントレプレナーへのアンケート結果によれば、その70%が、起業時にビジネスプランを作成していなかったという。彼らのビジネスは文書ではなく、感覚的なものから始まっている。


このことは、文書が全てダメだと言っている訳ではなく、完璧なビジネスプランを書こうとすることによって、「概ね正しい」というよりは「微妙に間違っている」ようになってしまうという背景がある。これは、一般的にビジネスプランで詳細に語られる内容(潜在的な巨大市場など)が、事業を行う上で現実的に対応すべきことと乖離しているからである。


創業当初は資源も限られており、ビジネスプランにとって最も重要なのは事業コンセプトが正しいか否かを継続的に観察できる現実のデータとなる。そして、これはスタートアップだけではなく、どんなビジネスにも戦略的な観点から必要なことである。これはヘンリー・ミンツバーグの創発的戦略(emergent strategy:まず戦略があってそれが実行されるという一般的な考え方と異なり、ミッション、目標、客観的指標などを意図せずに実行され、それから結果として実現される戦略という捉え方)に共通するものである。


ビジネスプランに過度に捉われる必要はないが、自らの思考を方向付け、有望な投資家を引き寄せ、チームを上手く連携させていくには、以下のポイントを設計時に考えておく必要がある。

(1)自分の思いと目的を特定し、明確に述べる。

(2)どんなビジネスアイデアやプランよりもチームが重要である。

(3)大きく考え、小さく始め、速く成功若しくは失敗する。

(4)市場をそのまま捉えるのではなく、しっかりと定義づけしたセグメントやニッチに集中する。

(5)自らのビジネスモデルを理解する。

2012年10月5日金曜日

都市化と所得水準

経済発展による社会の変化については通常、産業の高度化とともに、工業、サービス業といった産業が発展し、都市部に雇用が生み出され、その所得水準も向上していくという流れが考えられるが、アフリカ諸国はそうなっていないようだ。

世界銀行が公表した"World Bank. 2012. World Development Report 2013 Overview: Jobs.Washington, DC: World Bank. License: Creative Commons Attribution CC BY 3.0"(日本語のレポートもあります。)の中に、1985年と2010年時点における都市化率と一人当たりGDPの変化をプロットした表があるが、両者に正の相関関係が見られるアジア諸国に比べて、アフリカ諸国ではエチオピアなどを除きそうした関係は見られず、概ね都市化率のみが上昇している。

























おそらくアジア諸国では経済成長というプル要因で都市化が進んだのに対して、アフリカ諸国では農業の効率化というプッシュ要因で都市化が進んだことが原因かと思われる。この世界開発報告では、雇用が経済と社会の発展にもたらす意味について詳細に分析している。

2012年10月1日月曜日

M&A成功のための4つのポイント

Bain & Companyの”Asia discovers its M&A potential”by Satish Shankarによれば、力強い経済成長、好調な企業収益、そして政府の規制緩和を受けて、アジア太平洋におけるM&A市場が回復しており、全世界の24%の案件を占めるまでになっている。クロスボーダー案件の急激な増加が顕著であるが、リターンの大きさに付随するリスクを大きさもあるとし、これまでの事例からM&A成功のための4つの特性を抽出し、紹介している。


1.企業の成長戦略に適合したM&A戦略
シンガポールを本拠地とするOlam Internationalは、世界的な農産物、食料品のサプライヤーとしての地位を確立するため、企業買収を進めてきた。その特徴として、既存ビジネスにおける主導的地位の確保、隣接するビジネスへの進出、新規市場における参入障壁の突破、新たな能力の獲得、価格支配力の強化等が挙げられる。また、M&Aの頻度、規模、タイミング、支配権について、ガイドラインも定めている。例えば、新聞の一面を飾るような大規模のM&Aではなく、一つの案件を自らの時価総額の10%以内に限定する、一年間に達成する案件も自らの時価総額の15%に抑えている(「一連の真珠」アプローチ)。

同様の事例として、インドの家庭用品、介護用品メーカーGodrej Consumer Productsは、M&Aに乗り出すまでに2年間の準備期間をおき、M&Aチームを設け、詳細な統合マニュアル、M&A候補抽出のためのスクリーニングプロセスなどの戦略を策定している。具体的には、自社の3つのコアカテゴリ、新興国市場、当該市場の有力企業といった案件に限定するなどしている。


2.統制され、また自社の能力を踏まえた、反復可能なM&Aモデル
例えばOlam Internationalでは、6名のコアメンバーからなるM&Aチームが、各ビジネスユニットによる企業買収の全工程を、ガイドラインや企業戦略に沿って支援している。


3.価値創出、プロセス統制、人的課題の迅速な解決に集中した、企業統合 
東南アジアのある小売企業は、それまで赤字企業を買収し、統合により即座に価値を生み出そうとしていたが、新経営陣がほとんどの儲けの出ない業務を切り捨て、シンガポールとマレーシアの2つの中核市場に集中するようになった。地域を絞り込んだ統合により、サプライヤーに対する購買力が増し、大幅なコスト削減に成功した。また、具体的取組の紹介はないが、人事関係の課題を特定し、解決することで、統合から三年後も成長を続けているとしている。


4.粘り強さ(経験の蓄積) 
ベインによる調査の結果、M&Aは頻繁に行っている会社ほど、M&Aから大きなリターンを挙げている(経験曲線)。具体的には、頻繁にM&Aを行っている会社は、たまにM&Aを行う会社に比べて1.4倍、M&Aに積極的でない会社の2倍以上のリターンを挙げている。