2012年12月1日土曜日

破壊的イノベーションから生き残る方法

HBR The Magazineの”Surviving Disruption” by Maxwell Wessel and Clayton M. Christensenの抄訳。

破壊的イノベーションは、ナップスター、アマゾン、アップルストアがタワーレコードやミュージックランドを潰したように、ターゲットとなった既存ビジネスに破壊的な影響をもたらすが、その新しい成長市場の可能性、自らの既存ビジネスの有効性をしっかり確認の上、必要であればレガシーとなった事業を自ら破壊することにより、ビジネスを拡大することができる。

しかし、レガシー事業が破壊的イノベーション後も利益を生み出すか否かについて、「破壊者のビジネスモデルの強み」、「自社の比較優位点」、「破壊者による自社優位性の剥奪に係る促進、抑制条件」といった観点から検討しておく必要がある。なぜならそれは時間をかけて発生するプロセス(path and pace)であり、戦略的対応が可能であるからである。


破壊者のもたらす影響を判断するための方法

1.どこにアドバンテージがあるか

ここでは、拡張可能なコア(extendable core)という新たな概念(破壊者がより多くの顧客を求めてハイエンド市場に進出していく際、その優位性の維持を可能にするビジネスモデルという側面)を用いる。
  • ハイエンド市場に進出する際、一般的にはその適応過程において、確立していた優位性も失ってしまう。例えばホリデーインがフォーシーズンの顧客を奪おうとする場合、設備、サービスの質を向上させなければならないが、それでは宿泊料も上げざるを得ず、優位性を確保できない。
  • 破壊的イノベーションが機能した事例としてPCがある。PCはそのコスト優位性を維持したままパワー、容量、機能を向上させることで、ミニコンピュータを駆逐した。この背景にはPCメーカーによる部品の標準化、部品メーカーによる絶え間ない品質、価格の改善があるが、顧客に合わせてカスタムメイドを行うミニコンピューターメーカーには取ることのできない手法であった。
  • だが、破壊的イノベーションの長所もその短所によって打ち消されてしまうことがよくある。例えば、高等教育へのイーラーニングの導入は低コストで高質の教育を提供することに成功したが、成績によって自らの能力を示したい人間や、新たな生活環境、コネクションなどの大学のもたらす社会的側面を重視する人間には十分な価値を提供できない。
  • 破壊的イノベーションがアピールできる層とそれ以外の層をしっかり切り分け、特定する必要がある。 

2.そのアドバンテージが重要となる局面

あなたの会社にはどんな仕事を行うことが求められているか、そして拡張可能なコアを利用して破壊者がよりうまくできる仕事は何かという点から、自社の比較優位性を明確化する。
  • 人々はある製品やサービスをある場面では欲するが、そうでない場面では欲しない。人々が何をする必要があると考えているか、それをどのようにしてより簡単に、便利に、利用可能な価格で達成できるかという二点を特定することで、破壊者はその製品、サービスを改善していくための気付きを得る。 
  • 一方、レガシーとなり得る既存事業を抱える側は、破壊的イノベーションの長所と短所を比較検討することにより、その進行速度と規模を予測し、対応することができる。 

3.そのアドバンテージが保たれる条件 

破壊者がその破壊を現実のものとするために乗り越えなければならないハードルは以下のとおりである。
  1. 慣性という障壁(顧客は現状に慣れきっている) 
  2. 技術導入の障壁(既存の技術でも達成することができる) 
  3. エコシステムの障壁(乗り越えなければならない、ビジネス環境の変化) 
  4. 新技術の障壁(競争環境を変化させるのに必要とある技術がまだ存在していない) 
  5. ビジネスモデルの障壁(破壊者は既存ビジネスの費用構造を受け入れなければならない) 

ここまでで言えることは、企業は顧客に提供する価値ではなく、その価値に対する顧客からの信任(売上と利益)にもっとフォーカスする必要があるということである。

また、値下げ、同様の製品の投入などによって、安易に破壊的イノベーションに対応すると、破壊者の本質的なアドバンテージや、自社のレガシー事業でも守ることのできたアドバンテージが見えなくなってしまう。

上記のアプローチの適用可能性を検証するため、ここからは現在進行形のイノベーションによる破壊について見ていく。

小売食料品店の破壊
近年、オンラインストアが伝統的なスタイルの小売りを破壊してきているが、それに対する最後の砦の一つは、食料品産業である。アメリカでは、たった1%の食品しかオンライン食料雑貨店から購入されていない。だが、上記アプローチに基づいて、配送時間の短縮、商品の選別、新たな機能の追加等が、破壊的イノベーションの浸透を促すと予想される。

「食料品産業においては、どの程度の破壊が起こるのか。」、「将来的に、伝統的な食料品店が果たすべき役割とは何か。」といことを既存事業者は考えておかなければならない。

オンライン食料雑貨店の拡張可能なコア
オンラインストアのアドバンテージは一見明らかなようであるが、イノベーションによる破壊の程度と影響を予測するには少し深く考えてみる必要がある。例えば、アマゾンは物理的な店舗を持たないことでコストを抑え、低価格というアドバンテージを実現していると考えられているが、他にも在庫品の代金を支払う前に顧客からの支払いが受けられる(キャッシュフロー)、全ての在庫を倉庫に集めることができるため余分な在庫が必要ない、大量購入で値引きをしてもらえる、販売員に係る人件費を抑えられる、また場合によっては倉庫を上手く配置することで州の売上税を回避できるといったアドバンテージもある。

しかし、オンラインストアの場合、各個人に宅配しないといけない、より複雑なロジスティクスを管理しないといけない、販売員がいないので顧客サービスに限界がある、店舗でモノに直接触れてもらうことができないといったマイナスもある。

伝統的な食料品店に求められること
顧客の行動、求めていることを観察することによって、破壊者の拡張可能なコアの長所、短所が持つ既存ビジネスへの影響を評価できるようになる。

例えば、アメリカの食品雑貨チェーン(クローガー)の一日の顧客パタン(午前中と午後の早い時間帯はセール品、時々急いで一つか二つのどうしても必要なもの、午後の遅い時間帯には夕食のため食材や加工済み食品が売れる。網羅的ではないが、顧客の大きな高度パタンを反映している。)


こうした分析は思われているほどしっかり行われていないが、最近は詳細なデータ入手可能であり、「誰が、何を、どれくらい、誰と一緒に、どんな時に購入するか」という観点から顧客をラベリングし、来店時の意図を理解することで、どんなイノベーションがその顧客にとって重要であるかを特定することができる。

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