2012年8月30日木曜日

多国籍企業にしかできない世界市場での戦い方

Vijay Govindarajan and Gunjan Baglaの”How Big Companies Beat Local Competition in Emerging Markets”によれば、新興国の地元企業の方がより地元のニーズに精通し、有利に競争を進めることができると考えられているが、多国籍企業にはある新興国のマーケットニーズに合わせて開発された製品なりサービスを他の新興国、場合によっては先進国にも応用できるというアドバンテージがある。


具体例として、インドで開発した家庭用浄水器のメキシコでの販売に成功したユニリーバ、インド市場向けにインドで開発したSmart building Routerを世界展開するシスコシステムズ、インドで開発したエアコンを他の熱帯気候の国々にも販売しようとするパナソニック、インドで高い需要がある通勤用の低価格バイクを開発し、他の新興国にも販売しようとしているヤマハ、医療用スキャナーをヨーロッパとインドのエンジニアでデザインしているシーメンスが取り上げられている。


そして、先進国の多国籍企業が、世界中に散らばった製品開発やエンジニアリング能力を活用するための(実践的な)4つのポイントを挙げている。

・DFSS*などの技術を利用して、より質の高い製品開発やエンジニアリングを行う。

・低価格の三次元プリンターを使って、プロトタイプを同時的に世界でつくる。

・スカイプなどを使って低価格でビデオ会議を開き、世界同時的にコラボレートしていく。

・蓄積してきた知的財産を新興国からの革新的なアイデアを結びつける。


なお、多国籍企業が新興国市場に相対する中で革新的なアイデアが生まれ、そしてそれを全世界に展開できるようにするには、上記に加えてDiversity Managementの視点が欠かせない旨、指摘しておきたい。簡潔に言えば、新興国をはじめ多様な人材をしっかり経営の中核に組み込むということだ。


* DFSS (Design for Six Sigma) とは、製造プロセスの改善に焦点を置くDMAIC (define, measure, analyze, improve, control) の次なるステップとして、製造時・使用時の不確定要素に対する頑健性を設計時に高めておくアプローチ。

2012年8月27日月曜日

ノキアの今後 アップル対サムスン特許権侵害訴訟の陰で

以前、”Nokia’s downfall”において、スマートフォン市場におけるノキアの現状と今後について簡単に考えをまとめたが、今回のアップル対サムスン事件の判決により、少しだが、状況が変わってくるかもしれない。


Ewan Spenceが”In The Apple vs Samsung Decision, The Real Winner is Microsoft’s Windows Phone”で述べているように、今回の訴訟はアップル(iOS)とグーグル(アンドロイドOS)の代理戦争であったわけであるが、サムスン敗訴の結果、アンドロイド陣営の各社にはアップルとの特許紛争という不安要素が拡大した一方、iPhoneとは大きく異なるUser InterfaceとなるWindows Phoneを推し進めるマイクロソフトとの提携に踏み切ったノキアにとっては無縁の話であり、ライバルがその対応に追われる中、ちょっとしたチャンスとなる。


というわけで、今回の判決はウィンドウズ・ノキア連合にとって朗報であったわけだが、ノキアの足元の状況はかなり厳しい。IDCの調査によれば、2012年第二四半期のスマートフォン市場におけるノキアのシェアは6.6%と前年同期比半分以下だ。Windows Phone向けの端末であるLuminaの出荷を前期比倍増させているが、シンビアンOS端末が失っている売り上げを補うには程遠い。


話は変わるが、The Economistの”These 10 Companies Are Absolutely Enormous Compared To Their Headquarter Countries”のとおり、1998年から2007年までのフィンランド政府の税収の23%はノキアが納めていた、既に落ち目にある2011年でさえフィンランドGDPの20%を生み出している等、フィンランドはノキア頼みの一本足経済となっており、一企業の浮沈が一国経済を大きく左右するといった状況となっている。

2012年8月25日土曜日

フリーミアム戦略の正しい使い方

Sarah E. NeedlemanとAngus Lotenの“When Freemium Fails”では、ファイル共有サービスのDropbox、ソーシャルネットワーキングのLinkedIn、インターネット電話のSkypeなどの成功を受け、多くの企業がフリーミアム戦略を採用しているが、多くが失敗しており、どこに注意すべきか簡単にまとめている。


・ハーバードビジネススクールのVineet Kumar教授によれば、「無料のサービスで集客し、後に追加料金を取るという一見すると簡単と思われるところに誤りがある。どんな機能を無料にし、何にお金を払ってもらうかを決めるのはかなり難しい。」

・フリーミアムでは、利用者の1%-2%しか有料会員にならないので、百万人単位の顧客基盤が必要になる。その見込みがなければ、フリーミアムは選択すべきでない。

・そもそも対象顧客が限定される場合にもフリーミアムは適さない。例えば大企業を対象とするサービスには適さない。なぜなら、彼らは十分な資本を有し、価格よりも品質にこだわるからだ。

・エバーノートのCEOであるPhil Libinによれば、「フリーミアムが機能するには時間がかかる。」なぜなら、まずは無料会員としてサービスを利用してもらい、納得した上でないと有料会員にはならないからだ。一足飛びに有料会員となるようアプローチするのは難しい。


なお、記事の中で、フリーミアムをやめ、サービスを有料化したことで、成功したChargifyという支払請求システムのソフトウェア会社の事例が出ているが、なぜ彼らが成功したか。フリーミアムをやめたおかげということになっているが、当初フリーミアムを導入し、顧客基盤を拡大したことも要因であることを忘れてはいけない。フリーミアムに要する経費はマーケティング経費(デジタルなサービスの場合、限界費用はゼロに近いが、その場合は得べかりし利益と考えておけばよいだろう。)として、認識しておく必要がある。

2012年8月24日金曜日

ブランドは重視するが、ロイヤリティは示さない中国の消費者

Bain&Companyの“What Chinese shoppers really do but will nevertell you”では、中国4万人(20省373都市)の消費者購買履歴の分析結果などを紹介している。


中国の消費者は購買対象となる複数のブランドをあらかじめリストアップし、その時々に応じていずれかのブランドを選択する(レパートリー行動)。以前の調査で、60%以上の消費者が購買行動時、ブランドを最も重要視しているということも分かっており、今回の分析結果は、中国消費者にとってブランドは重要であるが、ロイヤリティは別の問題であるということを示している。


ここから導き出される示唆は、まずは消費者の購買対象ブランドリストに加えられるよう、マスメディア広告(above-the-line)を通して市場浸透率を高め、その上で、現実の商品選択時の訴求力を高めるため、店内のキャンペーンなど(below-the-line)を展開するということになる。


ただ、レパートリー行動には例外もあり、乳児用粉ミルク、幼児用おむつ、ビール、ミルクなどのカテゴリでは高いロイヤリティを示している。


この場合、セグメンテーション、ターゲティングにより、新たな顧客の開拓が重要である。また、自社ブランドへの選好を高めるため、コマーシャル、ソーシャルメディアなどのマーケティングキャンペーンを行うということになる。

2012年8月23日木曜日

成功したベンチャー企業から学ぶブランディング

Catherine Kaputaの“How These Small-Time Brands Make It Big.”では、成功するベンチャー企業から学ぶべきこととして、ブランド構築過程の大胆かつ強力なシンプル化を挙げ、具体例を示している。

1)小さいアイデアに集中せよ。
Instagramは当初、豊富な機能を持つBurbnに注力していたが、その中から最も消費者を惹きつけた画像共有アプリに的を絞り、成功を収めた。

2)視覚に強く訴えよ。
形状、色、ロゴ、デザインなどブランドを強く提示する何かを見つけろ。ということで、Twitterの青緑色の鳥が挙げられている。

3)創造的な意思決定として、名前を戦略的に捉えよ。
ブランドアイデンティティとして、顧客に訴えかけ、広範に伝達されるよう、名前は短く、書きやすく、言いやすいものにするべきだ。運動靴会社のBlue Ribbon Sportsがギリシャ神話の勝利の女神に因んでNikeと改名した話。小売業者の受けは良くなかったが、顧客の支持を得た”Spanx”という名の女性用矯正下着(メーカー)の話。

4)(大量の選択肢で)顧客を当惑させてはいけない。
流行のメガネをオンラインで販売するWarby Parkerが、50種類のメガネしか提示していないこと、写真をアップロードしてもらい、メガネ着用後のイメージを占め示していることなどを紹介している。


色々と手を広げるより、資源を集中させる部分を絞り込むことで、強固なブランドイメージを作り上げていくことの重要性を語っている。なお、そもそもブランド構築とは、河合拓氏の「ブランドで競争する技術」によれば、機能価値、サービス価値、イメージ価値のいずれかでライバル企業と差別化し、絶対的な地位を獲得することである。

2012年8月21日火曜日

大統領(リーダー)に必要な資質

John Ryanの“Is Obama or Romney a better leader? How to judge.”に大統領に必要な5つの資質が掲げられている。組織のリーダーにも通じる部分があると思われる。


1)自己認識
自分の長所短所を把握しているか。初代アメリカ大統領ジョージ・ワシントンはもともとはすぐカッとなり、愚かな言動をする人だったが、そのことを認識し、何年も改善に努め、大統領就任時にはほとんど矯正していたという。

2)ビジョン
組織また人々の行動を引き起こすような、説得的な将来展望を示しているか。フランクリン・ルーズベルト大統領は大恐慌の中、経済成長の促進と生活不安の除去の双方に上手く配慮したニューディール政策を打ち出し、実行した。また、孤立主義からの転換に成功し、世界におけるアメリカの確固たる地位の確立を果たした。

3)チームづくり
(自己認識とも関連するが、)自らの欠点を知り、それを補う人材を周囲に配置しているか。エイブラハム・リンカーン大統領は大統領就任時、優秀な人材も影響力のある人材も周囲におらず、数々の失敗を犯したが、政敵をもチームに加え、幅広い情報、意見の中からより良い判断を下すようになっていったという。

4)失敗から学ぶ。
リーダーシップの核心は判断力にあるが、それは失敗を経て獲得されるものである。重要なのはそこからどれだけのことをいかに早く学ぶことができるかである。ジョージ・ワシントン大統領も独立戦争開戦初期は判断ができなかったり、誤った判断を下していたが、そこから素早く学び、同じ失敗は二度と繰り返さなかったという。

5)(政治という)システムを機能させる。
公共善の促進が政府の仕事だと言われるが、単純に市民の望むものを提供すれば済むものでもなく、議会、マスコミ、利害関係者等様々な主体に目を配る必要があり、それら全体を政治というシステムの中に組み込んで機能させていかなければならない。第二次世界大戦で米軍及び連合国軍を見事指揮したアイゼンハウアー大統領が例として挙げられている。


ということで、リーダーシップのポイントはおおむね押さえられていると思われるが、上記で紹介されているのはマスメディアが登場する前の大統領達であり、これにスピーチ力を加えておく必要があるだろう。ちなみに、ソーシャル・メディア時代への移行は大統領の資質というよりは、どう付き合っていくかという戦略の枠組みで考えるべき問題だろう。

2012年8月19日日曜日

単純化することで複雑な状況に対応する。

HBR The Magazine, September 2012に掲載された“Simple Rules for a Complex World”によれば、複雑化する状況に対して、戦略を複雑にして対応するのではなく、単純かつ具体的なルール(Simple and specific rules)を作り上げ、共有し、実行することが重要である。


その根拠としては以下のものが挙げられている。

・各種意思決定や活動を会社の目標に連携させやすい。
陳列するジャムの種類に応じた購買率の変化に係る実験によれば、過剰な選択肢を前にして、人は思考停止してしまいやすい。

・それぞれの現場の状況に対応しやすい。
創造性が求められる局面では、効率性よりも環境適応性が重要であり、単純なルールのほうが適している。

・調整が促進される。
組織横断的な議論を通じて目標や意識が統一され、組織的な合意を経た意思決定の判断枠組みとして機能する。

・より良い意思決定ができる。
複雑な意思決定モデルがもたらす、より重要度の低い情報や不確実でよく分からない想定から解放され、重要な事項に集中できるようになる。


では、どのようにして単純なルールをつくるのか。

・戦略的観点からのボトルネック(障害)を具体的に特定し、かつ取り組むべき優先順位を付ける。

・経験に基づく意見よりも歴史に基づくデータを重視する。

・実際にルールに基づいて行動することとなるメンバーにルールを作らせる。

・ルールは具体的でなければならない。

・状況の変化とともに、ルールは見直されなければならない。


つまり、先に紹介したESQi(顧客満足度指数=「大変満足した」回答者数/調査回答者数)とも関連するが、ルールが単純であるほど理解しやすく、また具体的であるほど行動に結びつけやすく、組織内での共有及び実行が容易であるということである。正直、この論文に目新しい点はなく、どこでも耳にするような話だが、常に意識しておく必要がある。

2012年8月18日土曜日

当事者意識の付与によるモチベーションの向上

今年4月26日にHBR Blog Networkに掲載された”Increase Your Team’s Motivation Five-Fold”によれば、時間と手間はかかるものの、リーダーが単に命令するよりは意思決定過程にチームメンバーをさせたり、自ら決定させたほうが、当事者意識(ownership)が高くなり、実行(Implementation)段階におけるモチベーションが向上する。


いくつかの企業における実例とともに、ある宝くじを使った実験結果を紹介している。まず実験参加者を二つに分け、片方のグループには既に番号が書かれた札を渡し、もう一方のグループには自ら好きな番号を札に書かせた。各々の実験参加者が自分の札にどの程度の価値を見出すか測定したところ、自ら番号を書いたグループは、単に番号札を渡されたグループに比べて5倍の対価を自らの札に対して払うという。


ここで思い浮かぶのは、Richard M. RyanとEdward L. Deciによる自己決定理論(Self Determination Theory)である(”Intrinsic and Extrinsic Motivations: Classic Definitions and New Directions”)。モチベーションを内的動機づけ(自己目的的な活動)と外的動機づけ(経済的報酬など)に分類し、前者のパフォーマンスが後者のそれを上回るとしている。そして、内的動機づけは、自分はできるという有能感(Competence)、自分で決めているという自律性(Autonomy)、理解されている、関心をもたれているという関連性(Relatedness)に基づくものである。先のチームメンバーの包摂(Inclusion)、権限委譲(Delegation)が、理論的にもモチベーションの向上に有効であることが分かる。


ただ、注意しなければいけないことは、内的動機づけは対象となっている活動が新規性、挑戦し甲斐、美意識といった観点から対象者を惹きつけるものでないとあまり機能しなくなるということである。簡単に言えば、いくらチームメンバーの主体性を尊重する方法を採ったところで、そもそもやろうとしていることがつまらないと意味がないということになる。

2012年8月17日金曜日

AIDA、AISAS、そしてSIPSへ

先般、ソーシャルメディア時代のマーケティングとして、Zuberanceによるソーシャルメディアプラットフォームに 軽く触れたが、類似した考えを消費者行動モデルとして電通モダン・コミュニケーション・ラボがまとめている(SIPS)ので、整理しておく。


ご存じのとおりこれまで消費者行動については、AIDAやAIDMAの枠組みによって認知(Cognition)段階、感情(Affect)段階、そして行動(Behavior)段階への移行として捉えられてきた。


インターネット時代への移行とともに、電通は2004年にAISASというモデルを提唱した。「Attention(気づく)⇒Interest(興味をもつ)⇒Search(情報収集する)⇒Action(購入する)⇒Share(情報共有する)」


そして、2011年、ソーシャルメディア時代に対応した消費者行動モデルとして、SIPSが電通から提唱された。「Sympathize(共感する)⇒ Identify(確認する)⇒Participate(参加する)⇒Share & Spread(共有・拡散する)」


(実際に機能する)情報の波及ルートが、マスメディアに代わって影響力を有するようになったアルファブロガーなどのInfluencerによる一方的な情報伝播から、「受信者=発信者」が共感を媒体につながる、双方向の情報伝播に移り変わってきているということである。個人的には、電通はSIPSの循環という観点によりフォーカスしているのに対して、Zuberanceは情報が共感され、共有されていくはじめの一歩、Brand Advocatesの発掘と活用にフォーカスしているように感じる。ちなみに、Brand Advocatesはブランドへの信奉心が強く、寛容であり、ビジネスへの貢献度が高く、数が多く、金銭的なインセンティブが不要という諸点において、Influencerとは異なるものである。


なお、Zuberanceの創設者兼代表であるRob Fugetta氏の著書”Brand Advocates”の第一章が無料で公開されており、こちらも参考になるであろう。その中にアメリカにおいてレクサスのある店舗がレクサスブランドの信奉者となった顧客からの販売協力を無視してしまうという失敗例が紹介されているが、レクサスのような高所得層をターゲットとしている商品に関して、そうした階層内での口コミ(WOM)の影響力をレクサス販売店が知らないわけはなく、何か誤解があるような気がする。

2012年8月16日木曜日

リショアリングのために政府が為すべき7つの政策

昨日取り上げた"Made in America, Again”の書き手の一人(Hal Sirkin)が、リショアリングを促進するために政府が為すべき7つの対応を提言している(“Manufacturing in America”)。正直、目新しい提案はないが、見落としてはいけないポイントとしての意味もあろうことから、残しておく。

1. 租税政策をアウトソーシング指向からインソーシング指向へ(国内の雇用創出と国内への資金還流に対する税額控除)

2. 中国との競争環境の同等化(貿易協定違反、知的財産権の侵害、統制的な通貨政策への対応)

3. 人材の確保と育成(6か月限定のグリーンカード発行による外国人留学生の囲い込み、新規または拡張した工場におけるジョブトレーニングへの補助金支給、職業訓練学校の創設)

4. 十分な成果ももたらさずに、競争力を低下させている規制の見直し

5. 産業クラスターの形成支援(競合する企業、サプライヤー、学校、人材を集積させることにより、競争に勝つためのエコシステムを構築)

6. 海外製造業の国内誘致(最大の国内市場、先進国としては安価な労働力を呼び水に)

7. 立地選択における思い込みや印象の排除(厳格なコスト計算に基づいた、工場等の立地選択)


個人的には、国内生産を維持したまま、同じ産業で生産コストの低い国々と競争するのは困難であると考えている。グローバリゼーションが進み、国家間の垣根が低くなっていく中、他国よりも良い生活水準を維持しようと思えば、それに見合った付加価値を産業の高度化、新産業の創出等により生み出していく以外に道はない。築き上げてきたストックをどのようにして有効活用するかという視点もあるが。

2012年8月15日水曜日

Reshoring(リショアリング) 製造業の国内回帰

以前からアメリカへの製造業の回帰(Reshoring(リショアリング))はよく話題になっていたが、一年前にBCGが発表したペーパー"Made in America, Again”を契機に、さらに議論が活発化し、現在の大統領選でも声高に叫ばれている。


話としては、中国の人件費が生産性の伸びを大きく上回って高騰しており、また他の生産に係る費用(土地代、電気代など)も大きく上昇しており、米中の生産コストはかなり接近し、中国の抱える知財、労働争議等の各種リスクを考慮すると、国内向けの資本集約的なものを中心に製造業がアメリカに戻ってくるというもの。


だが、大前研一が“米国製造業の「国内回帰」は虚構にすぎない”で指摘しているように、国内回帰の事例として挙げられているものは小規模のものが多く、また新たな低コストの生産拠点をバングラデシュ、インド、インドネシア、タイ、カンボジア、ベトナム、中南米、アフリカなどに求めることで対応されるだろうとしている。


では、どちらが正しいのだろうか。個人的には、一定程度リショアリングが起こったとしても、「製造業の国内回帰」と言うほど大規模には進まないのではないかと考えている。少なくとも雇用に結びつくような国内回帰は限定的だ。


"Made in America, Again”では、確かに人件費の低い他の代替生産拠点国(タイ、インドネシア、ベトナム、カンボジア、メキシコ)にも言及されているが、インフラ整備、労働の質、供給ネットワークの面で中国に及ばないとして一蹴している。



だが、東南アジア諸国で活発な自動車生産を見れば、そんなことがあてはまらないことは自明の理だ。現に中国自身がそう認識しているようでもあるし(“時代は「メード・イン・東南アジア」へ?海外企業が中国から相次いで撤退-中国紙”)。

2012年8月14日火曜日

アイデア実現のため協力者をつくる

今年4月25日にHBR Blog Networkに掲載された "How to Create Raving Fans” は、アイデアを実現させるためには協力者(fans)をつくることが重要だとしている。なぜなら、アイデアに係る自己の理解の深化・確認、目標達成に資する異なる発想の獲得、人的・物的・時間的資源の獲得、アイデアの周知につながるからである。


そして、アイデアの実現は協力(候補)者への売り込みや説得(selling)ではなく、それらの人が自ら納得した上での自発的な協力を得ること(enrollment)によって達せられる。


では、具体的には何をすればいいのか。

・他者をコミットさせようとする前に、まず自らがそのアイデアに対して真にコミットする。

・アイデアの意義、プラス・マイナス全ての情報を提供することにより、協力者との間に強い信頼関係を構築する。ここで理解を得られなければ、真摯にアイデアの失敗を受け入れる。

・協力者に抽象的な協力(open-ended commitment)ではなく、具体的な助力を依頼する。


上記ブログでは上司への売り込みや提案のタイミングは資源が必要になったときとしているが、この点は組織風土や上司の性格にかなり依存するものであり、それぞれの環境下における細心の注意が必要であろう。

2012年8月12日日曜日

今更ですが、新しいマーケティング。 Peer Influence-Based, Community-Oriented Marketing

HBR Blog Networkに掲載された "Marketing is Dead” は、従前のマーケティング手法は顧客の関心を喚起しない、もたらされる成果が明確でない、ソーシャルメディアが主要なコミュニケーションツールとなる環境下においてはそもそも機能しないとして、新たなマーケティング手法の導入を提案している。

具体的な取り組みは以下のとおり。

・コミュニティマーケティング(信頼度が最も高い(と顧客が感じる)情報を生み出す口コミを促すためのマーケティング)の再生

・インフルエンサー(他の顧客の消費行動に影響を与え、単に消費する以上の価値をもたらす顧客)の発見
マイクロソフトのMVP (Most Valuable Professional)

・社会的資本(評判、ネットワーク、新しい情報へのアクセスなど)の形成支援による、インフルエンサーへのインセンティブの付与
National Instrumentsによる中間管理職支援

・顧客との共同によるソリューションの企画
フロリダ州における若者による若者のための喫煙防止活動 (Students Working Against Tobacco (SWAT))

エンタープライズのESQiが念頭に置いていたような、顧客をリピーターにしてしまうほどの高い満足度の達成に加えて、それを他の顧客にも影響力のある形で伝播してもらうことを促進するのが今後のマーケティングの果たすべき役割であり、実際にそのツールを提供するものとして、Zuberanceによるソーシャルメディアプラットフォームのようなものがあるというお話。

2012年8月11日土曜日

Enterprise Service Quality index (ESQi)

HBR Blog Networkに掲載された"Three Things Your Company Can Learn from a Bottle of Water"では、他社との差別化に成功したシンプルなアイデアを三つ例示し、単純で些細なアイデアを生み出すことの困難さの背景に、「複雑化の罠」があることを示している(複雑化しているものとして、会社自体やそのルーティーンワークが想定されている。)。


サービス業が念頭に、解決策として、(状況を最もよく把握している)現場への権限移譲が挙げられ、以下の具体的な取り組みが提示されている。

1)シンプルな目標の設定と責任者の明確化

2)現場における物事のシンプル化のための支援ツールの開発

3)ベストプラクティスを共有するためのプラットフォームの構築


個人的に特に参考になったのが、シンプルな目標の例として挙げられている、アメリカのレンタカー会社(Enterprise)が考案したEnterprise Service Quality index (ESQi)である。これは、顧客満足度調査において「大変満足」と回答があった数を全回答数で割っただけのシンプルな指標だ。だが、そのシンプルさ故に、顧客からの回答率が高く、またサービスのリピート率の向上に貢献している。なぜならリピート率という観点からは「大変満足」と「満足」の間に相当の差が見られるからである。


日本におけるESQiとリピート率との相関関係について、検証の余地はあるが、リターンに結びつくシンプルな定量的指標として有用であるように思われる。