2012年12月29日土曜日

大企業がイノベーションを不得意とする理由(戦略の組織適合)

2013年を迎える前に読むべき33のHBR Blog Postsから、“Why Big Companies Can't Innovate” by Maxwell Wessel (HBR Blog Network) の抄訳。戦略の組織適合の話。


大企業はイノベーションに不向きなように組織されており、実際に苦手である。
例えばベビー食品大手のGerberは、陰りの見えだした自社の潜在的成長力を踏まえ、大人向け食品市場に参入したが、失敗した。野菜、果物の選別、処理といった自社の強み、忙しく調理時間の確保できないアメリカの成人向けに健康な食事を提供するという意義(社会的ニーズ)があったにもかかわらず。彼らは”Gerber Singles”という新しいレーベルを立ち上げたが、独自のブランディング、流通戦略を採用せず、提供されるものは既存のものと大差なかった。

この背景には、顧客ニーズよりも大企業が追求しがちな効率性にフォーカスしてしまったことがある。顧客ニーズの充足よりも自社の既存資産の有効活用、社会的意義(社会的課題に対するソリューションの提供)よりも事業利益である。

ただ、この利益追求自体は企業として当然の行為であり、本当の問題はGerberの幹部が効率性を重視し、イノベーションを起こしにくいという大企業の特性を認識していなかったことにある。そうした習性から自由なグループをつくり、必要な権限委譲を行う必要があったのである。それができないのであれば、既存事業をしっかりと行い、株主に配当で還元するほうがいい。


(参考)
イノベーション・パフォーマンスの高め方」:
 戦略、組織両面でイノベーションに必要な要素を満たす。
カタリストを活用した大企業によるビジネスモデルイノベーション」:
 適切な人材配置により、大企業でもイノベーションを起こす。

2012年12月24日月曜日

イノベーションを阻害する、リーダーの行為

"The Innovator's Straitjacket" by Scott Anthony (HBR Blog Network)の抄訳。


18世紀、フランスで拘束衣が発明された。精神障がい者が自傷行為に及ぶのを防ぐためのものであったが、一方でその人から様々な可能性を奪ってしまうという側面がある。そして、同様のかたちで、リーダーがイノベーションを阻害してしまうことがある。

1.現在の実力をベースに物事を考え、限界を設けてしまう。
マーク・ザッカーバーグがそんなことを考えていたら、フェイスブックは生まれていなかっただろう。

2.カニバリゼーションを恐れて、腰が引けてしまう。
確かにアップルのiPadはノートブックやラップトップの売り上げをいくらか食ってしまったが、それ以上にタブレットという新市場を拡大させ、マイナス面を補って余りある価値を生み出している。

3.粗利益率が低下することを恐れて、立ち止まってしまう。
粗利益率を基準にして新しいアイデアの良し悪しを判断すると、将来的にはより魅力的なキャッシュフローを生み出す可能性を持った、ビジネスチャンスを見逃してしまう。30%の粗利益率を誇っていた新聞各社は、利益率の観点からオンラインモデルを軽視していたが、適切なビジネスモデルの構築により、しっかり利益が生み出されている。

4.ブランド足かせとなってしまう。
ブランドが損なわれるという理由で良さそうに見えるアイデアも捨てられてしまう。

5.現状のチャネルという罠にかかってしまう。
合理的な人間であれば、より確実に、そしてより多くの利益を生み出す(既存)事業を優先してしまう。破壊的成長を成し遂げたければ、新しいチャネルを考えないといけない。

2012年12月22日土曜日

動的価格設定 (Dynamic Pricing)

Why Online Retailers’ New Pricing Strategy Will Backfire” by Rafi Mohammed (HBR Blog Network) の抄訳。


アマゾンやベストバイといったオンライン小売業者の間では、動的価格設定(dynamic pricing:売り手が、同じような顧客に対して同じ商品・サービスを提供する際、価格を迅速に上下させ、異なる価格を提示すること。) が盛んになり、15~25%くらいの価格変動が一般的になっている。

そこには一定の理由があるが、長期的利益の喪失、消費者行動だけでなく、ブランドに与える影響について、理解しておく必要がある。

2007年、アップルは手痛い経験をした。アイフォン発売からたった69日で価格を$599から$399に引き下げたのだが、既に購入していた顧客はの激怒を買ってしまったのだ。アップルは謝罪するとともに、自社製品に使用できる$100のクレジットを提供して、事態を収拾した。一方、ネットフリックスは2011年、大幅な値上げを行い消費者の怒りを買ったが、何も対応しなかったところ、三か月の間に株価が1/3以下になるという経験をした。

動的価格設定にも同様のことが当てはまり、他人よりも多く支払わされている顧客たちが不公平だと訴えてくるのも時間の問題であり、それによってブランドの信用が失われてしまうという大きな問題が発生する。皮肉にも、何もしていなかったライバル企業が利益を得るということにもなってしまう。例えば、コストコは15%以上の値上げはしないと宣言している。

エアライン産業やホテル産業では動的価格設定が受け入れられてきているのに対して、小売業ではどうしてこのような状況にあるのであろうか。2つの重要なポイントとして商品・サービスの時間的消費制約と需要の不確実性が挙げられ、これに対応するためには、エアライン産業やホテル産業では動的価格設定を取り入れざるを得ないという事情がある。

また、オンライン小売業で動的価格設定を行っていると、顧客はオンラインショッピングサイトではなく、Orbitzなどのような各サイトの価格比較サイトをまず訪れるようになってしまう。

ただ、動的価格設定には需要に合わせた柔軟な価格設定というメリットもあり、ポイントはどのようにマネジメントするかという点にある。具体的には、動的価格設定を行っていることを正直に顧客に伝える、購入後に値段が下がっていることを発見した顧客には払い戻しを行う、変動させる価格帯に制限を設けるなどである。

2012年12月19日水曜日

トランス・ブランディング

HBR Blog Network ”Maintaining a Unified Brand in a Fragmented World” by Dae Ryun Chang and Don Ryun Changの抄訳。

ブランドマネージャーは、まずます断片化する市場においてどのようにしてブランドを運営し、ソーシャルメディアによって主導権を奪われた顧客へのアプローチをどのようにして取り戻すかを考えなければならない。

例えば、Gapのロゴ変更での失敗と、スターバックスのリブランディングと新しいセイレーンのロゴでの成功との間には、企業が、理念として、またマネジメントシステムとして、「トランス・ブランディング」を巧みに組み込んだかの違いがある。多様化した市場間を上手く結びつけ、効果的に展開していくためには以下の点が重要となる。

1)移行する
変化する市場環境に過度に適応しようとすると、既存の顧客の信頼を失いかねない(急進的にロゴ変更を行って失敗したGapの事例)。だが、企業の顧客、支援者を巻き込んで、時間をかけて統合していくことによりそのブランド再構築の取り組みは成功しやすくなる。一方、スターバックスはセイレーンを使い続けることにより既存顧客にその親しみを感じさせる店舗での体験が変わらないことを伝えるとともに、「Starbucks Coffee」という文字を削除することによりそのビジネスがコーヒー以外にも広がっていくことを伝えている。

2)異なる市場を超越する
詳細にセグメントされた、それぞれの需要に応えるのではなく、市場の差異を超越できるようなアピールを見つけることで、消費者を総体的に捉える取り組みが必要である。PsyのGangnam styleが事例として取り上げられている。

3)変態する
スマートフォンアプリのようなデジタルの領域が新しい戦場となっているが、ブランドの諸要素は動きのある小さい画面で目に付くものである必要がある。DC comicsの動きのあるロゴが紹介されている。

4)透明である
ドミノピザは顧客からの不満、品質上の問題を公開し、議論し、それをどのようにして乗り越えていくかというキャンペーンを行い、注目を集めた。ブランドの透明性は真摯に顧客からの不満に対応する際に重要となる。なぜなら不満を放置されたとき、それらはソーシャルネットワーク上で急速に拡散していくからである。企業はブランディングに影響を及ぼす他の要因(信頼、神秘性、物語性、驚き)との間で最適なバランスの中で透明性を追求していく必要がある。

2012年12月14日金曜日

中国、インドにおける投資としての教育

BCGの”Mr. Number 19 and the Race to Educate the Next Generation”の抄訳。


何年にも渡って週80~90時間の勉強を続け、高い教育水準を達成したNumber 19(インド工科大学入学試験で40万人中19番になったインド人男性)とHarvard Girl(困難な環境から飛躍を遂げた中国南西部出身の女性)という成功者の象徴を取り上げつつ、両国が進める将来に向けた成長基盤の構築とその影響をまとめている。

・10兆ドルのコンペ ($10 trillion prize)
2011年から2020年までの間に8300万人の中国人、5400万人のインド人が大学を卒業することとなり、そうした高い能力を持つ若い世代が大きく貢献して、2020年には両国合わせて10兆ドルという消費が生み出されるのである。

・BCG E4 index
以下の教育に係る四指標を均等にウエイトし、国際比較したもの。これによれば、アメリカがダントツのトップに君臨し、その後には英国、中国、インドが続いている。*
Enrollment:高等教育への進学者数
Expenditure:公共・民間部門からの教育投資額
Engineers:エンジニア系学位の所有者数
Elite Institutions:世界トップレベルの大学数


 インドでは初等教育の基盤確立による貧困のスパイラスの解消、中国では世界トップランクの高等教育機関の育成による人材の囲い込み(1972年から2009年の間に140万人の中国人が留学し、そのうち40万人しか帰国していない。)が課題となっている。

いずれにせよ両国は教育を公共事業などに代わる、次世代の投資と捉え、中長期計画に基づいて積極的に取り組んでいることだけは確かである。


* 中国、インドはその人口を反映して高等教育への進学者数で大きくポイントを稼いでいるが、この点をどう解釈するかは目的によってことなってくるであろう。なお、7位に位置する日本は教育投資額では大きなポイントを稼ぐ一方、エンジニア系学位の所有者数と世界トップレベルの大学数で大きく見劣りしており、これらの指標で捉えた限りでは投資効率の高くない日本の教育という印象になってしまう。ただ、主に科学技術系の教育に焦点を合わせており、いわゆる文系的な分野、ノーベル賞受賞者数等の成果という視点は含まれていないことに留意が必要。

2012年12月11日火曜日

ビジネスモデルイノベーションの持続的優位性

ビジネスモデルイノベーションについて、「イノベーションの浸透(技術とビジネスモデル)」ではその技術革新補完性が明らかにされたが、今回は技術革新との比較によりその持続的な競争上のアドバンテージを明らかにしている。

HBR Blog Networkの”Business Model Innovation is the Gift that Keeps on Giving” by Karan Girotra and Serguei Netessineの抄訳。

Zaraのビジネスモデル(ファストファッション)は今でこそ大きな注目を浴びているが、30年以上の間ノーマークだったおかげでInditex (Zaraの親会社) はゼロから20億ドルへと売り上げを伸ばすことができた。なぜすぐにマネされなかったのか。どのようにして持続的な成長が可能になっているのか。その答えはZaraのイノベーションがビジネスモデルで起こったことにある。

Zaraのモデルはファッショントレンドへの迅速な対応が可能なようにデザインされており、そのおかげで店舗の商品棚には常に最新の衣服が積み上げられている。このモデルがどう機能するかに関心が向かいがちであるが、そこから生み出される収益の持続可能性にも驚くべきものがある。

Zaraは1975年に設立され、その親会社Inditexは2001年に株式公開した。最初の5年間に、創業者のAmancio Ortegaは、アパレル業界においてはコストがかさんでも(流行、顧客ニーズへの)迅速な対応が競争のキーとなることを理解し、立地、配送システムに大きな投資を行った。近年Uniqlo, Mango, H&Mが同様のビジネスモデルを導入し成長しているが、20年以上もの間、Zaraのビジネスモデルが注目されず、また模倣されずにいたことに驚かざるを得ない。

逆に、大ヒットしたファイザーのヴァイアグラは、1996年に特許登録され、1998年から販売されるようになったが、5年も経つと、Cialis, Levitraという強力な競合が、90%以上もあったファイザーのシェア50%まで奪ってしまった。

他の例として、アップルは2007年のiPhoneの開発、投入により、スマートフォン市場に革命をもたらしたが、数か月のうちにサムスンから驚くほどに似たインターフェイス(タッチスクリーン)のスマートフォンが発売され、5年後の現在、アップルの革新的なインターフェイス、それに続くアプリケーションプラットフォームはスマートフォンの標準となっている。

では、どのようにしてZaraはそのビジネスモデルイノベーションからの利益を享受し続けることができているのであろうか。答えは以下のようなビジネスモデルのユニークな特徴にある。
  • ビジネスモデルイノベーションは、多くの場合、企業内プロセスで発生しており、外部からは直接捉えられない。 
  • ビジネスモデルイノベーションは、企業DNAに埋め込まれており(企業活動のコアとなるオペレーションロジック)、プロダクトデザインよりも模倣が困難である。
製品上、技術上のイノベーションが模倣されたとしても、ビジネスモデルにおいて差別化できている限り、利益を生み出し続けることができるのである。

2012年12月9日日曜日

イノベーションのマネジメント

HBR Blog Networkの”Start Building Your Growth Factory” by Scott Anthonyの抄訳。


David Duncanとの共著 (Building a Growth Factory) における中心テーマは、4つのマネジメントツールにより企業の成長創出能力を強化することである。成長の青写真、アイデアを成長事業に昇華させる生産システム、必要な資源の把握及び配分を可能にするコントロール、そして適切なリーダーシップ、人材、文化である。そして、より詳細な15の要素がある。ただ、そのすべてをすぐに実践しようとする必要はなく、まずその出発点として以下の3点について考えてほしい。

1. 共通言語
これはイノベーションによる成長をシステマティックに成し遂げる上で重要である。例えば、基本的な定義に加えて、自ら(自社、開発チームなど)にとって重要なイノベーションのタイプを特定することである。P&Gは商業、持続可能、変革、破壊、シティはコア、隣接、破壊を掲げ、共有している。あらゆる組織はそれぞれの成長タイプを持っており、大抵の場合少人数のリーダーたちによる午後のディスカッションで生み出される。

2. 詳細な調査
少人数のチームをつくり、イノベーションによる成長の最大の促進要因、阻害要因を特定するというタスクを課す。このチームではレバレッジを利かせられるポイント、取り組みを加速させる最大の潜在性がある分野を特定することが求められる。加えて、全体システムがどのように見えるかという青写真とそれに対応するロードマップ(いつ何が起こるか)の作り上げていく必要もある。経験的には、この作業に6~10週間の時間がかかる。

3. 実証プロジェクト
拡張的、破壊的アイデアに取り組むチームを組織内から探し出さなければならない。そうして立ち上げたチームと強く連携して取り組んでいく方法を見つけなければならない。これによって、現在の能力のうち、何が新たな成長に向けた取り組みを促進し、何が妨げるかが分かるようになる。

2012年12月6日木曜日

アントレプレナー支援政策のリバランス

HBR Blog Networkの”Focus Entrepreneurship Policy on Scale-Up, Not Start-Up” by Daniel Isenbergの抄訳。


Start-up Americaなど、スタートアップ向けに起業に係る様々なプログラムが世界中で生まれているが、起業家支援政策についてはそのポートフォリオを、起業促進から成長促進にシフトしていく必要がある。

アントレプレナーシップとスタートアップは一緒くたにされがちであるが、そのことが二つの誤解を生み出す。
 · 起業することが最も困難で重要なタスクである。
 · 起業の数がプログラムの成否を示す。

アントレプレナーシップが重要であったとしても、それを達成する方途としてはスタートアップ以外にも買収、事業目的の再設定、スピンオフ、未活用・低評価資産の再結合、「リスタート」(by George Foster)などがある。例えば、カスペルスキー(ロシアを本拠地とするPC、ネットワークのセキュリティ会社)は、先進的なアンチウイルスの会社を、経営難にあったロシアの機関からスピンオフで生み出した。他にもサーチファンド(事業アイデアを見つけるための資金を投資家から調達する仕組み)、家業、大企業、研究所、大学等などの仕組みがある。

しかし、起業後の成長がなければ、その大きな価値も発揮されない。そして、その過程には数々の困難が待ち受けている。それは、強力なセールス、マーケティングの確立、多様な人間を雇用し、統率することによる組織構築、資源調達に係るノウハウの取得などである。2000年代、デンマークで行われたスタートアップへの包括的支援はベンチャー企業を大きく増加させたが、数年後、そのほとんどは社員数名で成長が止まってしまい、成長企業と判断できるようなものは1%に満たなかった。

ベンチャー企業の成長にフォーカスするためには、以下の政策が必要である。
 · 政策評価の指標を、生き残っているベンチャー企業数ではなく、その成長とする。
 · 成功していないベンチャー企業の廃業を推進し、ベンチャー企業の入れ替えを活発にする。
 · スキル、マネジメントに長けた高度人材プールを構築する(ベンチャーには新たな経営者だけでなく、新たな従業員が必要なのである。)。

成長企業は(起業家、株主、従業員、そして政府に対して、)正の外部効果があり、その地域の起業文化に大きな影響を与える。スタートアップは、量から質へと、その求められるものが変わらなければならない。

2012年12月3日月曜日

説得6原則: Science of Persuasion

人を説得するための原則についてのアニメーション (Science Of Persuasion based on the research of Dr. Robert Cialdini, Professor Emeritus of Psychology and Marketing, Arizona State University.)の抄訳。



人は入手可能な全ての情報を元に判断を下していると考えられているが、それには大きなコストが伴うことから実際にはいくつかのショートカットを使っている。

1. 相互関係 (Reciprocity: Obligation to give when you receive)
相手が予想していない状況下で、個別に贈り物をすることが効果的。

レストランでのチップに係る実験
 ・食後に領収書とともに1個ミントを渡した場合、チップの額が3%増加した。
 ・食後に領収書とともに2個ミントを渡した場合、チップの額が14%増加した。
 ・食後、帰り際に「あなたはいいお客さんです。」と言って1個ミントを渡した場合、チップの額が23%増加した。  

2. 希少性 (Scarcity: People want more of those things there are less of)
プロモーションに当たっては便益だけではなく、その固有性、その機会を見逃した場合に失うものも提示したほうがいい。

航空会社での事例
2003年、ブリティッシュエアウェイズが採算性の問題から、コンコルド(ニューヨーク・ロンドン間)の一日2便運行を止めると発表したところ、値段、飛行時間等何も変わっていないのに、翌日の売り上げが大きく上昇した。 

3. 権威 (Authority: People will follow credible knowledgeable experts)
影響を与えようとする前に、信頼に値し、知識を有する、専門家というシグナルを発信することが重要。 

不動産会社での事例
それまで不動産販売員が直接電話対応をしていたところ、受付的役割を担う人間を経由させ、長い経験を有する販売員であること、かなりの知識を持った販売員であることを話した後、その販売員に繋ぐようにしたところ、予約件数が20%、成約件数が15%増加した。

4. 一貫性 (Consistency: People like to be consistent with the things they have previously said or done)
本命の依頼に先だって、小さな、受け入れやすいお願いをする。そして、自発的、積極的に行われた、公表済みのコミットメントが有効(ヘルスセンターにおいて患者の予約時に、日時を予約カードに書いてもらうようにしただけで、すっぽかしが18%減少した。)。

安全運転キャンペーンの事例
個人宅の庭に安全運転を呼び掛けるボードの設置をお願いしたところ、ほとんど誰も了承しなかった。別の地域で同様のことをしたところ、4倍も多くの家庭を説得することができた。実は後者においては、その一週間前に小さなステッカーを家の窓に貼ることをお願いして、多くの協力を得ていたのである。  

5. 好意 (Liking: People prefer to say “Yes” to those they like)
人が他人を好ましく思う際の3つの重要な要因
 a. 自分と似ている。  
 b. 感謝や賞賛を与えてくれる。
 c. 共通の目標に向かって協力してくれる。
 
MBAに通う二校の学生間でオンラインでの交渉実験
 ・第一集団には「時は金なり」といってビジネスライクな対応を指示したところ、合意に至ったのは55%であった。
 ・第二集団には交渉の前に、情報交換し、共通点を見つけるように指示したところ、合意に至ったのは90%に上昇した。

6. 多数意見 (Consensus: People will look to the actions of others to determine their own)
個人の責任感に頼るより、これまで他の多くの人達(同様の状況にある人々であるとより効果が高い。)がしてきた行動を示す方が説得には効果がある。

ホテル客室で同じタオルやリネンを繰り返し使うよう求めている事例 
 ・「再利用は環境保護の観点から望ましいことです。」というメッセージを出したところ、35%の宿泊客が順守した。
 ・ 調べたところ、4泊以上する宿泊客の75%がタオルなどを繰り返し利用していることが分かり、「(ある条件で)75%の宿泊客がタオルを繰り返し利用しています。どうぞ同じように行動してください。」というメッセージを出したところ、順守率は26%上昇した。
 ・「この部屋の宿泊客の75%が宿泊中、タオルを繰り返し利用しています。」というメッセージを出したところ、順守率は33%上昇した。

2012年12月1日土曜日

破壊的イノベーションから生き残る方法

HBR The Magazineの”Surviving Disruption” by Maxwell Wessel and Clayton M. Christensenの抄訳。

破壊的イノベーションは、ナップスター、アマゾン、アップルストアがタワーレコードやミュージックランドを潰したように、ターゲットとなった既存ビジネスに破壊的な影響をもたらすが、その新しい成長市場の可能性、自らの既存ビジネスの有効性をしっかり確認の上、必要であればレガシーとなった事業を自ら破壊することにより、ビジネスを拡大することができる。

しかし、レガシー事業が破壊的イノベーション後も利益を生み出すか否かについて、「破壊者のビジネスモデルの強み」、「自社の比較優位点」、「破壊者による自社優位性の剥奪に係る促進、抑制条件」といった観点から検討しておく必要がある。なぜならそれは時間をかけて発生するプロセス(path and pace)であり、戦略的対応が可能であるからである。


破壊者のもたらす影響を判断するための方法

1.どこにアドバンテージがあるか

ここでは、拡張可能なコア(extendable core)という新たな概念(破壊者がより多くの顧客を求めてハイエンド市場に進出していく際、その優位性の維持を可能にするビジネスモデルという側面)を用いる。
  • ハイエンド市場に進出する際、一般的にはその適応過程において、確立していた優位性も失ってしまう。例えばホリデーインがフォーシーズンの顧客を奪おうとする場合、設備、サービスの質を向上させなければならないが、それでは宿泊料も上げざるを得ず、優位性を確保できない。
  • 破壊的イノベーションが機能した事例としてPCがある。PCはそのコスト優位性を維持したままパワー、容量、機能を向上させることで、ミニコンピュータを駆逐した。この背景にはPCメーカーによる部品の標準化、部品メーカーによる絶え間ない品質、価格の改善があるが、顧客に合わせてカスタムメイドを行うミニコンピューターメーカーには取ることのできない手法であった。
  • だが、破壊的イノベーションの長所もその短所によって打ち消されてしまうことがよくある。例えば、高等教育へのイーラーニングの導入は低コストで高質の教育を提供することに成功したが、成績によって自らの能力を示したい人間や、新たな生活環境、コネクションなどの大学のもたらす社会的側面を重視する人間には十分な価値を提供できない。
  • 破壊的イノベーションがアピールできる層とそれ以外の層をしっかり切り分け、特定する必要がある。 

2.そのアドバンテージが重要となる局面

あなたの会社にはどんな仕事を行うことが求められているか、そして拡張可能なコアを利用して破壊者がよりうまくできる仕事は何かという点から、自社の比較優位性を明確化する。
  • 人々はある製品やサービスをある場面では欲するが、そうでない場面では欲しない。人々が何をする必要があると考えているか、それをどのようにしてより簡単に、便利に、利用可能な価格で達成できるかという二点を特定することで、破壊者はその製品、サービスを改善していくための気付きを得る。 
  • 一方、レガシーとなり得る既存事業を抱える側は、破壊的イノベーションの長所と短所を比較検討することにより、その進行速度と規模を予測し、対応することができる。 

3.そのアドバンテージが保たれる条件 

破壊者がその破壊を現実のものとするために乗り越えなければならないハードルは以下のとおりである。
  1. 慣性という障壁(顧客は現状に慣れきっている) 
  2. 技術導入の障壁(既存の技術でも達成することができる) 
  3. エコシステムの障壁(乗り越えなければならない、ビジネス環境の変化) 
  4. 新技術の障壁(競争環境を変化させるのに必要とある技術がまだ存在していない) 
  5. ビジネスモデルの障壁(破壊者は既存ビジネスの費用構造を受け入れなければならない) 

ここまでで言えることは、企業は顧客に提供する価値ではなく、その価値に対する顧客からの信任(売上と利益)にもっとフォーカスする必要があるということである。

また、値下げ、同様の製品の投入などによって、安易に破壊的イノベーションに対応すると、破壊者の本質的なアドバンテージや、自社のレガシー事業でも守ることのできたアドバンテージが見えなくなってしまう。

上記のアプローチの適用可能性を検証するため、ここからは現在進行形のイノベーションによる破壊について見ていく。

小売食料品店の破壊
近年、オンラインストアが伝統的なスタイルの小売りを破壊してきているが、それに対する最後の砦の一つは、食料品産業である。アメリカでは、たった1%の食品しかオンライン食料雑貨店から購入されていない。だが、上記アプローチに基づいて、配送時間の短縮、商品の選別、新たな機能の追加等が、破壊的イノベーションの浸透を促すと予想される。

「食料品産業においては、どの程度の破壊が起こるのか。」、「将来的に、伝統的な食料品店が果たすべき役割とは何か。」といことを既存事業者は考えておかなければならない。

オンライン食料雑貨店の拡張可能なコア
オンラインストアのアドバンテージは一見明らかなようであるが、イノベーションによる破壊の程度と影響を予測するには少し深く考えてみる必要がある。例えば、アマゾンは物理的な店舗を持たないことでコストを抑え、低価格というアドバンテージを実現していると考えられているが、他にも在庫品の代金を支払う前に顧客からの支払いが受けられる(キャッシュフロー)、全ての在庫を倉庫に集めることができるため余分な在庫が必要ない、大量購入で値引きをしてもらえる、販売員に係る人件費を抑えられる、また場合によっては倉庫を上手く配置することで州の売上税を回避できるといったアドバンテージもある。

しかし、オンラインストアの場合、各個人に宅配しないといけない、より複雑なロジスティクスを管理しないといけない、販売員がいないので顧客サービスに限界がある、店舗でモノに直接触れてもらうことができないといったマイナスもある。

伝統的な食料品店に求められること
顧客の行動、求めていることを観察することによって、破壊者の拡張可能なコアの長所、短所が持つ既存ビジネスへの影響を評価できるようになる。

例えば、アメリカの食品雑貨チェーン(クローガー)の一日の顧客パタン(午前中と午後の早い時間帯はセール品、時々急いで一つか二つのどうしても必要なもの、午後の遅い時間帯には夕食のため食材や加工済み食品が売れる。網羅的ではないが、顧客の大きな高度パタンを反映している。)


こうした分析は思われているほどしっかり行われていないが、最近は詳細なデータ入手可能であり、「誰が、何を、どれくらい、誰と一緒に、どんな時に購入するか」という観点から顧客をラベリングし、来店時の意図を理解することで、どんなイノベーションがその顧客にとって重要であるかを特定することができる。