2012年9月21日金曜日

米国経済が抱える問題(所得税の限界税率と経済成長、そして所得不平等の関係)

何度か米国経済が抱える問題について取り上げたが、今回は今月14日にCongressional Research Service(米国連邦議会図書館が、党派中立的な立場から米国議会に政策的・法的提言を行うもの。)が公表した”Taxes and the Economy: An Economic Analysis of the Top Tax Rates Since 1945”を簡単にまとめておく。なお、レポートにコピーガードがかかっているため、図表は直接参照願います。


まず、数字の確認であるが、アメリカにおける最高所得層に対する限界税率はほぼ一貫して下がり続けている(1940・50年代の90%から現在の35%への低下)。また、キャピタルゲイン課税についても1970年代を除き、低下している(1950・60年代の35%から現在の15%への低下)。一方、実質経済成長率及び一人当たり実質経済成長率は、それぞれ1950年代の4.2%、2.4%から、2000年代の1.7%、1%弱への低下している。


ここから、分析に入るわけであるが、まずは限界税率を引き下げることによって経済成長が促進されるとする論者の根拠として、税引き後所得の増加、貯蓄と投資の増加、労働供給の増加、生産性の向上が挙げられている。しかし、総合的には、そうはならないとの反論を行っている。

・労働供給の増加についてはデータ上そのような行動が見られない。

・私的経済主体についてはデータ上、限界税率の増加に伴う貯蓄率の上昇が見られるが、統計的に有意とは言えない程度のものである一方、公的経済主体は税率低下による税収減に伴い貯蓄を減少させており、全体として限界税率の低下が貯蓄を減少させている。

・租税が一般的に内包する所得効果と代替効果に加えて、キャピタルゲイン課税にはリスクテイク効果がある。つまり、税率が高まるほど、投資の成否の影響(リスク)が抑えられ、投資が活発になるということである。そして、データ上最高税率と投資量の間には負の相関関係が見られるが、統計的に有意と言えるほどではなく、大きな関係はないとしている。

・税率低下が投資、技術革新、労働者の質や起業家意識の向上、競争の激化を通じて生産性を上昇させるという見方がある。実際のところ、最高所得限界税率と生産性の間には弱い正の相関関係、最高キャピタルゲイン税率と生産性の間には弱い負の相関関係があるが、結局どちらも統計的には有意ではないとしている。

・一人当たり実質経済成長率と税率との関係は弱く、また大規模減税と経済成長との間にもそれほどの正の影響は見られず、高所得層に係る税率の変化が経済に与える影響は無視できる程度のものであるとしている。


なお、そもそもの所得格差のデータとして、1945年に比べて全体としての所得は2.16倍になったが、同期間に上位1%所得層が2.65倍、上位0.1%所得層の所得が約5倍、上位0.001%所得層の所得が約8倍になったとし、所得不平等が主に上位1%所得層の影響によるものであると分析している。そもそも所得不平等解消の是非については、社会全体の厚生、社会的紐帯の維持といった観点から賛成の立場、技術革新やアントレプレナーシップ(リスクを取ることへのインセンティブ付与)といった観点から反対の立場とがあるが、多くは前者の立場にある。


つまり、米国経済は、継続して所得に係る限界税率を低下してきたものの、明確なほど経済成長を促進するには至らず、所得不平等は拡大するという状況にあったことが分かる。


最後に、財務省のHPによれば、2012年1月現在の、日本、アメリカ、イギリスの所得税の税率の推移は以下のとおりとなっている。


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