2012年9月26日水曜日

新興国市場におけるブランド構築とシェア拡大の作法

以前、Bain&Companyの“What Chinese shoppers really do but will nevertell you”をもとに中国消費者の購買行動を紹介したが、McKinsey Quarterlyの”Building brands in emerging markets”by Yuval Atsmon, Jean-Frederic Kuentz, and Jeongmin Seongでは中国を中心とする新興国市場の消費者の購買行動を分析している。そして、口コミ効果を活用し、小売店頭で自社のブランドを目立たせ(in-store execution)、買い物客の短い購買検討リストに入り込んだ企業が、新興国市場において顧客のロイヤリティを獲得するのに成功しやすいとしている。


世界中の2万人を対象とした調査で、最近のその意思決定は過去に考えられていたような直線的な収束モデル(traditional metaphor of a “funnel”)ではなく、多くのフィードバックを伴う曲がりくねった過程(Consumer Decision Journey)として捉えられるようになってきている。そんな中、マーケターが対応すべき四つの段階がある。

1.最初の検討(Initial Consideration)
消費者が何らかの製品・サービスを購入することを決め、対象となるブランドをリストアップする段階

2.積極的評価(Active Evaluation)
消費者が購入するブランドをリサーチする段階

3.閉鎖(Closure)
消費者が購入するブランドを決定する段階

4.購入後(Postpurchase)
消費者が購入した商品やサービスを体験する段階


新興国市場の成長とともに、その消費者も先進国のそれと同様に複雑、そして変化のテンポが早くなっており、上記のモデルが概ね適用できるところであるが、新興国の消費者の多くは消費経験が不足し、これから「初めての」車、テレビなどを購入しようとする段階にあることが指摘され、先進国の消費者と比べて以下の三項目がより重要となる。

1.口コミ効果

一般的に、消費経験が不足しているほど、知人の保有・使用状況を参考にすることで自らの消費決定に自信と安心を得ることができる。食品・飲料品の消費者に対する調査で、アメリカとイギリスのおよそ30%から40%の回答者が購入前に友人や家族からの推奨があったとする一方、アジアとアフリカの回答者はより高い割合がそのように回答している(中国(71%)、エジプト(92%))。

また、新興国の人達は距離的、心理的に近いところで生活しており、オンラインよりも実際の口コミが機能している。このことは国全体や大都市を対象にするよりも地域を限定してマーケティングを行うほうがより効果が高いことを意味する。近接する都市群で一定のシェアを取ることで、正のサイクルが回転し始める(市場シェア10~15%が転換点。)。中国のミネラルウォーター市場において、南部地域からを基盤としてシェアを拡大している華潤創業有限公司(China Resources Enterprise, Limited)の「怡宝(C'estbon)」や、インドの生理用ナプキン市場において、思春期の少女に教育やサンプルを提供することでブランドの浸透に成功したP&Gが紹介されている。


2.最初に検討されるブランドリストに入ること
 
新興国の消費者はより少数のブランドリストの中から選択を行うことが多く、またその中からより頻繁に購入する傾向にある。自らのブランドをそのリストに加えさせるため、まずはテレビ等のメディアの活用する必要がある。この際、新興国の消費者はローカルなテレビや新聞を見ていることが多いことに注意が必要である。加えて、ローカル市場の選好、懸念に沿ったメッセージを届け、消費者の信頼を獲得する必要がある。ここでは、耐久性やエンターテイメントといった要素を重視する中国のPC市場において、高コストパフォーマンスを売りにして失敗した台湾Acerが、シンプルさや高生産性から信頼性に強調するメッセージを変更して成功した例が挙げられている。


3.小売店の店頭において製品をアピールすること 

新興国の消費者は、製品の調査、セールスパーソンからの情報収集、価格交渉により多くの時間をかける。典型的な中国人は電化製品の購入までに少なくとも2か月をかける。そして、アメリカ人(245)の倍近い中国人84559がセールススタッフとのやりとりなどを通して、来店前の予定と異なるブランドの製品を購入している。いくつかの卸段階を経て製品は小売店の店頭に辿り着くため、メーカーは自らの製品がどのように消費者に届いているか十分に把握できていない。インセンティヴの付与、卸業者との連携、小売店の管理を通じて、改善を図る必要がある。インド市場で150万店舗をカバーしているユニリーバが営業社員に携帯端末を配備し、迅速かつ効率的な商品補充をしている事例や、コカ・コーラがインドネシア市場において、直接商品を配送していない小規模小売店に対して無料の冷却器を配ったり、トレーニングを提供したりしている事例が挙げられている。


今回の記事において注意すべき点としては、多少強引に新興国を一括りにしている点が挙げられる。”アジア市場の攻略”でも説明したとおり、共通点を有しつつもやはりアジアは多様性に富んでおり、国ごと、そしてさらに小さい地域ごとに分けて考えていく必要がある。口コミ効果の説明箇所で、アジアでは購入前に友人や家族からの推奨があったとする率が高いとの指摘があったが、インドネシアは欧米並みの44%となっていることなどはその証左である。

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