2012年9月29日土曜日

インド経済

前回の投稿で「インドの経済改革」を取り上げたが、ウォールストリートジャーナルの記事によれば、その背景には経済問題(直近10年間で最低レベルの経済成長率(6%以下)、財政・貿易赤字)があった。そこで、今回はインド経済について、”India: Losing its way”(Global Economic Outlook, 3rd quarter 2012, Deloitte) by Pralhad Burliを簡単にまとめておく。


〇インド経済低迷の背景には、世界的なマクロ経済情勢のみならず、市場に非友好的な経済政策、政治の停滞、意思決定を回避しようとする官僚機構の問題がある。


〇経済に勢いがなくなってきるのは以下のデータ、経済構造から明らかである。
・2011年度の実質GDP成長率は6.5%

・2011年度第4四半期の実質GDP成長率は5.3%(2012年度第1四半期は5.5%)



Data from World Bank


・農業が圧倒的に大きな雇用吸収先となっているが、2011年度第4四半期には1.7%しか成長していない。インドでは地方の消費がGDP成長の最大貢献者になっているが、この農業セクターの停滞が消費を抑制し、国家経済に影響を与えている。

"The World Fact Book" CIA

産業別GDP貢献割合(2011):農業(17.2%)、工業(26.4%)、サービス業(56.4%)
産業別雇用割合(2009):農業(52%)、工業(14%)、サービス業(34%)


・加えて、第二次・第三次産業の成長も期待を下回っている。2011年度第4四半期、両者はそれぞれ1.7%、7.9%の成長であったが、前年同期のそれぞれ7.0%、10.6%に比べると減速は否めない。また、輸出セクターも不調である。


〇一方、金利水準は高く、借り入れコストは高止まりしており、投資の足を引っ張っている。しかし、インド準備銀行(RBI)は、高い成長率であった2003年-2008年間に比べて実質的な貸出金利は低い水準にあるとレポートし、6月の金融政策会合でも現在の金融政策を維持するとしている。その根拠には、4月に既に市場予想を上回る大きな金利引き下げ(8.5%→8.0%)を行っていること、現在の経済情勢では金利が投資にもたらす影響は限定的であることが挙げられている(9月17日の金融政策会合でも8.0%に据え置き(ロイター))。つまり、インド準備銀行は、経済成長よりもインフレを気にしていると言える。



Data from World Bank

直近のインフレ率(Bloomberg Businessweek


〇また、インドルピー(INR)は、(対米ドルで)急落してはゆっくり回復するというボラティリティの高い動きとなっており、BRIC諸国の中で最も悪いパフォーマンスを示している。不調な世界マクロ経済を反映して、資金が安全資産にシフトしており、インドから資金が引き揚げられている。また、欧州の銀行がレバレッジを解消する動きも継続している。インドは財政・貿易赤字を抱え、外資を必要としているが、欧州金融危機と中国経済の失速が投資心理を冷え込ませている。


格付け機関もインドの経済見通しを引き下げ、また信用格付けもジャンクに引き下げられようとする状況になっているとしている。インド経済は巨額の補助金による財政赤字、増加する輸入による貿易赤字、高止まりするインフレ率という問題を抱え、金融政策のみでなく、抜本的な経済構造改革が必要な状況となっている。

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