2012年9月29日土曜日

インド経済

前回の投稿で「インドの経済改革」を取り上げたが、ウォールストリートジャーナルの記事によれば、その背景には経済問題(直近10年間で最低レベルの経済成長率(6%以下)、財政・貿易赤字)があった。そこで、今回はインド経済について、”India: Losing its way”(Global Economic Outlook, 3rd quarter 2012, Deloitte) by Pralhad Burliを簡単にまとめておく。


〇インド経済低迷の背景には、世界的なマクロ経済情勢のみならず、市場に非友好的な経済政策、政治の停滞、意思決定を回避しようとする官僚機構の問題がある。


〇経済に勢いがなくなってきるのは以下のデータ、経済構造から明らかである。
・2011年度の実質GDP成長率は6.5%

・2011年度第4四半期の実質GDP成長率は5.3%(2012年度第1四半期は5.5%)



Data from World Bank


・農業が圧倒的に大きな雇用吸収先となっているが、2011年度第4四半期には1.7%しか成長していない。インドでは地方の消費がGDP成長の最大貢献者になっているが、この農業セクターの停滞が消費を抑制し、国家経済に影響を与えている。

"The World Fact Book" CIA

産業別GDP貢献割合(2011):農業(17.2%)、工業(26.4%)、サービス業(56.4%)
産業別雇用割合(2009):農業(52%)、工業(14%)、サービス業(34%)


・加えて、第二次・第三次産業の成長も期待を下回っている。2011年度第4四半期、両者はそれぞれ1.7%、7.9%の成長であったが、前年同期のそれぞれ7.0%、10.6%に比べると減速は否めない。また、輸出セクターも不調である。


〇一方、金利水準は高く、借り入れコストは高止まりしており、投資の足を引っ張っている。しかし、インド準備銀行(RBI)は、高い成長率であった2003年-2008年間に比べて実質的な貸出金利は低い水準にあるとレポートし、6月の金融政策会合でも現在の金融政策を維持するとしている。その根拠には、4月に既に市場予想を上回る大きな金利引き下げ(8.5%→8.0%)を行っていること、現在の経済情勢では金利が投資にもたらす影響は限定的であることが挙げられている(9月17日の金融政策会合でも8.0%に据え置き(ロイター))。つまり、インド準備銀行は、経済成長よりもインフレを気にしていると言える。



Data from World Bank

直近のインフレ率(Bloomberg Businessweek


〇また、インドルピー(INR)は、(対米ドルで)急落してはゆっくり回復するというボラティリティの高い動きとなっており、BRIC諸国の中で最も悪いパフォーマンスを示している。不調な世界マクロ経済を反映して、資金が安全資産にシフトしており、インドから資金が引き揚げられている。また、欧州の銀行がレバレッジを解消する動きも継続している。インドは財政・貿易赤字を抱え、外資を必要としているが、欧州金融危機と中国経済の失速が投資心理を冷え込ませている。


格付け機関もインドの経済見通しを引き下げ、また信用格付けもジャンクに引き下げられようとする状況になっているとしている。インド経済は巨額の補助金による財政赤字、増加する輸入による貿易赤字、高止まりするインフレ率という問題を抱え、金融政策のみでなく、抜本的な経済構造改革が必要な状況となっている。

2012年9月27日木曜日

小売市場を中心としたインドの経済改革

HBR Blog Networkの”Open India: considerations for Retailers” by Vijay Govindarajan, Javed Matin, and Christian Sarkarによれば、インドのマンモハン・シン首相による「強い経済こそが善政である(Good economics is good politics)」との考えの下、1991年7月の市場開放以来、最も重要な経済改革を進め出した。対象としては、小売、航空機、放送そして発電産業が含まれている。


小売産業における外資規制緩和
ウォールマート、イケア、テスコなど、複数のブランドを取り扱う小売業者(Multi Brand Retail: MBR)には出資比率51%までの直接投資が認められることとなる。しかし、人口100万以上の都市でしか営業できない、最低投資額が1億USドル以上、直接投資額の少なくとも50%以上は三年以内にバックエンド・インフラに行うことといった制約も付いている。


この更なる経済自由化への動きを踏まえ、ビジネスとしてどのように対応すべきか
上記開放政策の発表後、弱者切り捨てではないか等の反対が出てきている。インド進出戦略の立案に当たっては以下の点を検討しておく必要がある。

市場の選択
・どの州で小売りを展開していくか。(インドではビジネスに係る権限は州政府が有している。)
・どのようなインフラ需要があり、何を自ら建設する必要があるか。
・競争相手はどのように計画しているか。(ウォールマートは2年以内に進出することを計画中との記事がある。)
・どの地元パートナーと提携すべきか。
・どのようにして信頼を勝ち得るか。

包摂
・人種、宗教、性別などの違いを包摂していけるか。
・家族経営の雑貨商(kirana)にどのような影響が生じるか。
・kiranaを自らの流通ルートに組み込んでいく方策はあるか。
・地域コミュニティはどうか。
・進出にあたって他の新興国市場から学んでおくべきことはないか。

現状破壊
・進出により、最も影響を受けるのは誰か。
・チェンジマネジメントに何を利用するか。
・地元の政治情勢をどのようにフォローし、理解し、そして関係を形成していくか。
・サプライヤーや地元パートナーのビジネス、消費者の生活をどのようにして改善していけるか。

ビジネスモデルの革新
・利便性を保ちつつ購買における規模の経済と効率的なサプライチェーンを活かして低価格商品を消費者に届けるため、どのようにして小規模店舗を使ったビジネスモデルを発展させていくか。
・地元の顧客は何に価値を見出すのか。
・必要とされる製品やサービスへのアクセスをどのように顧客に提供するか。
・搾取せずに責任をもって販売するにはどうすればいいか。
・自分たちのビジネスモデルに対してどのように信頼を構築していくか。

ブランドの構築・維持
・どのようにして消費者教育をしていくか。
・サプライチェーンを管理するために何ができるか。
・(米国企業を念頭において)どのようにしてパートナー企業やサプライヤーと共に海外腐敗行為防止法、児童労働法を順守するか。

文化的認識
・どのようにして植民地的発想を回避するか。
・地元指導者との協働に際して、どのような影響を行使できるか。
・自らの価値観を守りつつ、どのようにして地域の伝統を尊重していけるか。


なお、ウォールストリートジャーナルとヘリテージ財団が公表している経済自由度指標(Index of Economic Freedom)において、インドは179か国中123番目(ほとんど自由でない(Mostly Unfree))に位置付けられている(2012年時点)。

2012年9月26日水曜日

新興国市場におけるブランド構築とシェア拡大の作法

以前、Bain&Companyの“What Chinese shoppers really do but will nevertell you”をもとに中国消費者の購買行動を紹介したが、McKinsey Quarterlyの”Building brands in emerging markets”by Yuval Atsmon, Jean-Frederic Kuentz, and Jeongmin Seongでは中国を中心とする新興国市場の消費者の購買行動を分析している。そして、口コミ効果を活用し、小売店頭で自社のブランドを目立たせ(in-store execution)、買い物客の短い購買検討リストに入り込んだ企業が、新興国市場において顧客のロイヤリティを獲得するのに成功しやすいとしている。


世界中の2万人を対象とした調査で、最近のその意思決定は過去に考えられていたような直線的な収束モデル(traditional metaphor of a “funnel”)ではなく、多くのフィードバックを伴う曲がりくねった過程(Consumer Decision Journey)として捉えられるようになってきている。そんな中、マーケターが対応すべき四つの段階がある。

1.最初の検討(Initial Consideration)
消費者が何らかの製品・サービスを購入することを決め、対象となるブランドをリストアップする段階

2.積極的評価(Active Evaluation)
消費者が購入するブランドをリサーチする段階

3.閉鎖(Closure)
消費者が購入するブランドを決定する段階

4.購入後(Postpurchase)
消費者が購入した商品やサービスを体験する段階


新興国市場の成長とともに、その消費者も先進国のそれと同様に複雑、そして変化のテンポが早くなっており、上記のモデルが概ね適用できるところであるが、新興国の消費者の多くは消費経験が不足し、これから「初めての」車、テレビなどを購入しようとする段階にあることが指摘され、先進国の消費者と比べて以下の三項目がより重要となる。

1.口コミ効果

一般的に、消費経験が不足しているほど、知人の保有・使用状況を参考にすることで自らの消費決定に自信と安心を得ることができる。食品・飲料品の消費者に対する調査で、アメリカとイギリスのおよそ30%から40%の回答者が購入前に友人や家族からの推奨があったとする一方、アジアとアフリカの回答者はより高い割合がそのように回答している(中国(71%)、エジプト(92%))。

また、新興国の人達は距離的、心理的に近いところで生活しており、オンラインよりも実際の口コミが機能している。このことは国全体や大都市を対象にするよりも地域を限定してマーケティングを行うほうがより効果が高いことを意味する。近接する都市群で一定のシェアを取ることで、正のサイクルが回転し始める(市場シェア10~15%が転換点。)。中国のミネラルウォーター市場において、南部地域からを基盤としてシェアを拡大している華潤創業有限公司(China Resources Enterprise, Limited)の「怡宝(C'estbon)」や、インドの生理用ナプキン市場において、思春期の少女に教育やサンプルを提供することでブランドの浸透に成功したP&Gが紹介されている。


2.最初に検討されるブランドリストに入ること
 
新興国の消費者はより少数のブランドリストの中から選択を行うことが多く、またその中からより頻繁に購入する傾向にある。自らのブランドをそのリストに加えさせるため、まずはテレビ等のメディアの活用する必要がある。この際、新興国の消費者はローカルなテレビや新聞を見ていることが多いことに注意が必要である。加えて、ローカル市場の選好、懸念に沿ったメッセージを届け、消費者の信頼を獲得する必要がある。ここでは、耐久性やエンターテイメントといった要素を重視する中国のPC市場において、高コストパフォーマンスを売りにして失敗した台湾Acerが、シンプルさや高生産性から信頼性に強調するメッセージを変更して成功した例が挙げられている。


3.小売店の店頭において製品をアピールすること 

新興国の消費者は、製品の調査、セールスパーソンからの情報収集、価格交渉により多くの時間をかける。典型的な中国人は電化製品の購入までに少なくとも2か月をかける。そして、アメリカ人(245)の倍近い中国人84559がセールススタッフとのやりとりなどを通して、来店前の予定と異なるブランドの製品を購入している。いくつかの卸段階を経て製品は小売店の店頭に辿り着くため、メーカーは自らの製品がどのように消費者に届いているか十分に把握できていない。インセンティヴの付与、卸業者との連携、小売店の管理を通じて、改善を図る必要がある。インド市場で150万店舗をカバーしているユニリーバが営業社員に携帯端末を配備し、迅速かつ効率的な商品補充をしている事例や、コカ・コーラがインドネシア市場において、直接商品を配送していない小規模小売店に対して無料の冷却器を配ったり、トレーニングを提供したりしている事例が挙げられている。


今回の記事において注意すべき点としては、多少強引に新興国を一括りにしている点が挙げられる。”アジア市場の攻略”でも説明したとおり、共通点を有しつつもやはりアジアは多様性に富んでおり、国ごと、そしてさらに小さい地域ごとに分けて考えていく必要がある。口コミ効果の説明箇所で、アジアでは購入前に友人や家族からの推奨があったとする率が高いとの指摘があったが、インドネシアは欧米並みの44%となっていることなどはその証左である。

2012年9月24日月曜日

ツイッターのプロフィール画面を活用したブランディング

ツイッターはそのプロフィール画面を、フェイスブックのタイムラインのように活用できるように改良を加えた。これを受けて、 T.J. Crawfordの”How brands can utilize the Twitter header photo”では、企業が取り組むべきポイントを以下のとおりまとめている。


1.ヘッダーの画像を意味あるものに
自社のプロフィール画面に意味のあるヘッダーの画像を用いることにより、訪問者に自らそしてその体現しようとしているイメージを伝えることができる。上手い活用事例として、Oxfam AmericaというボストンのNPOが最新の活動状況を画像で確認できるようにしている。なお、代表的な消費財メーカー(GAP、Uniqlo、P&G、Shiseido、Kao)のツイッターアカウントを確認してみたが、十分に対応していると言える日本企業はなかった。

2.イメージを覆す
多くの団体にとって、このレイアウトの変更は自らに対する凝り固まった先入観を払しょくするのに活用できる。New York Cityが背景画像にニューヨークの雰囲気を表す画像を用いることで、公的機関としての威厳を保ちつつ、退屈なイメージを覆すのに成功していることが成功事例として取り上げられている。ちなみに、日本でソーシャルメディア先進自治体の代表例として取り上げられる武雄市でもそこまでは取り組みが進んでいない。また、東京にはツイッターのアカウント自体ないようだ。

3.自らのビジネスを明確に伝える
背景イメージはコミュニケーション手段として、ヘッダーは自らのビジネスをクリアに伝えるものとして使い分けることが重要である。

4.クリエイティブになる良い機会として(項目のみ)

5.個人にとっても自らをブランディングする機会となる(項目のみ)


と、ここまでブランディングという観点から、ツイッターのプロフィール画面の活用について紹介してきた訳であるが、企業間の比較をしていて思ったことは、中途半端にやっていると逆にブランド価値を損なうということ。そもそもコミュニケーションが取れていない相手と、繋がってはいるが不十分なコミュニケーションしか取れない相手、どちらがいいかということです。ただ、ブランディング、ソーシャルの持つ意味が大きくなっている昨今、ツイッターも避けては通れない一つのツールであり、プロフェッショナルにしっかりとやることが重要。

2012年9月23日日曜日

アジア市場の攻略

BCGのLarry Kamener, Ross Love, Jim MinifieとTom von Oertzenの“Asia’s Century: Where and How to Win in Asia”では、アジアにおけるチャンスをどのようにしたら域外の企業が手にすることができるかについて、アジアで成功しているオーストラリア企業(資源セクターを除く。以下同じ。)からの知見をまとめている。


まず、今後のアジア経済について、2030年までにその実質GDPは67兆ドルと現在の倍以上となり、ヨーロッパとアメリカのGDP合計額を抜くと予測されている。そうした経済成長の要因として、(1)インフラ、住宅、産業そして人的資源への大きな投資(2030年には22兆ドルと予想。)、(2)アジア経済の成熟・統合(域内貿易額は2000年から3倍にも増加している。)、(3)世帯所得の上昇に伴う消費財への高い需要(2030年には45兆ドルと予想。)、が挙げられている。


文化、経済、人口動態、商慣習の異なるアジア全体に共通した市場攻略方法は存在しない。また、同じ国の中でも地方によって異なる。だが、成功したオーストラリア企業の共通点として、高度な技術・サービスセクター、地政学的な長所、天然資源に価値を付加する能力といった自らの長所をアジアの成長と上手くマッチングすることで、その成長を取り込んでいることが分かる(下図参照)。



実際にそれらの企業がどのようにして成功したかについて、各ポイント(顧客に提供できる価値の定義づけ、成長戦略、オペレーションモデル)に対応する、アジアの現実(地域間の相違と長所、関係や信頼の重要性、変化に富んだ市場)と、企業の対応策(現地化、関係構築、適応的モデルの構築)が以下のとおりまとめられている。


顧客に提供できる価値の定義づけ
アジアの消費者の趣向は、所得階層や人口動態とともに国や文化で異なる。BtoBにおいても、その経済発展段階、成長のスピード、商慣習や規制で異なる。だが、一般的に評判や(アジア地域における当該企業の)規模が重要視される。つまり、ネットワークや規模の経済が複数のアジア市場において有効であるということであり、カスタマイズと企業規模のバランスが重要となる。 

成長戦略
アジアにも競争力のある地元企業があり、どの市場にどういった強みを生かして切り込んでいくか検討、優先順位づけが必要である。また、クライアントや顧客と関係を構築し、信頼を得るには、ちょっとした困難に直面したくらいでは退出しないことなどを示す必要がある。

オペレーションモデル
アジアの多様性、変化の激しさに対応していくには、現地化(地域の文化、社会、商慣習に係る従業員教育、現地従業員の職責の明確化)、適応性(目的の共有、チャレンジの促進と失敗への寛容、学習する組織)が重要となる。


と、当然のことが書いてあるわけであり、アジア進出済みの多国籍企業を除いた、欧米企業のアジア進出の進展具合の程が読み取れるわけであるが、実務的なレベルでこれらを実行するにはかなりの労力が必要であり、これからアジアに進出しようとする日本企業も考えておくべき点が含まれているであろう。

2012年9月21日金曜日

米国経済が抱える問題(所得税の限界税率と経済成長、そして所得不平等の関係)

何度か米国経済が抱える問題について取り上げたが、今回は今月14日にCongressional Research Service(米国連邦議会図書館が、党派中立的な立場から米国議会に政策的・法的提言を行うもの。)が公表した”Taxes and the Economy: An Economic Analysis of the Top Tax Rates Since 1945”を簡単にまとめておく。なお、レポートにコピーガードがかかっているため、図表は直接参照願います。


まず、数字の確認であるが、アメリカにおける最高所得層に対する限界税率はほぼ一貫して下がり続けている(1940・50年代の90%から現在の35%への低下)。また、キャピタルゲイン課税についても1970年代を除き、低下している(1950・60年代の35%から現在の15%への低下)。一方、実質経済成長率及び一人当たり実質経済成長率は、それぞれ1950年代の4.2%、2.4%から、2000年代の1.7%、1%弱への低下している。


ここから、分析に入るわけであるが、まずは限界税率を引き下げることによって経済成長が促進されるとする論者の根拠として、税引き後所得の増加、貯蓄と投資の増加、労働供給の増加、生産性の向上が挙げられている。しかし、総合的には、そうはならないとの反論を行っている。

・労働供給の増加についてはデータ上そのような行動が見られない。

・私的経済主体についてはデータ上、限界税率の増加に伴う貯蓄率の上昇が見られるが、統計的に有意とは言えない程度のものである一方、公的経済主体は税率低下による税収減に伴い貯蓄を減少させており、全体として限界税率の低下が貯蓄を減少させている。

・租税が一般的に内包する所得効果と代替効果に加えて、キャピタルゲイン課税にはリスクテイク効果がある。つまり、税率が高まるほど、投資の成否の影響(リスク)が抑えられ、投資が活発になるということである。そして、データ上最高税率と投資量の間には負の相関関係が見られるが、統計的に有意と言えるほどではなく、大きな関係はないとしている。

・税率低下が投資、技術革新、労働者の質や起業家意識の向上、競争の激化を通じて生産性を上昇させるという見方がある。実際のところ、最高所得限界税率と生産性の間には弱い正の相関関係、最高キャピタルゲイン税率と生産性の間には弱い負の相関関係があるが、結局どちらも統計的には有意ではないとしている。

・一人当たり実質経済成長率と税率との関係は弱く、また大規模減税と経済成長との間にもそれほどの正の影響は見られず、高所得層に係る税率の変化が経済に与える影響は無視できる程度のものであるとしている。


なお、そもそもの所得格差のデータとして、1945年に比べて全体としての所得は2.16倍になったが、同期間に上位1%所得層が2.65倍、上位0.1%所得層の所得が約5倍、上位0.001%所得層の所得が約8倍になったとし、所得不平等が主に上位1%所得層の影響によるものであると分析している。そもそも所得不平等解消の是非については、社会全体の厚生、社会的紐帯の維持といった観点から賛成の立場、技術革新やアントレプレナーシップ(リスクを取ることへのインセンティブ付与)といった観点から反対の立場とがあるが、多くは前者の立場にある。


つまり、米国経済は、継続して所得に係る限界税率を低下してきたものの、明確なほど経済成長を促進するには至らず、所得不平等は拡大するという状況にあったことが分かる。


最後に、財務省のHPによれば、2012年1月現在の、日本、アメリカ、イギリスの所得税の税率の推移は以下のとおりとなっている。


2012年9月20日木曜日

続・消費者にシンプルに伝える

前回紹介した”What Do Customers Really Want?”の続編、Karen Freeman, Patrick Spenner と Anna Bird の“If Customers Ask for More Choice, Don’t Listen”では、Barry Schwartzの”The Paradox of Choice”を引用しつつ、消費者は多くの選択肢を持つことにより、何かを選択することで他の選択肢を失う代償を恐れ、そしてそれが不安、分析麻痺、後悔を引き起こすとしている。


だが、全世界7,000人の消費者調査では解釈が必要な結果が出ている。ほとんどの回答者は「丁度良い量の情報」、「丁度良い数の選択肢」を持っていると回答している一方、多くの消費者が実際には迷いながら意思決定し、その後もその行動を振り返ったり、後悔したりしている。つまり、この記事の表題のとおり、消費者には言行不一致が見られ、言うとおりに情報を提供し続けると、購買に係る消費者の意思決定を妨げ、販売のチャンスを逃すこととなる。


ということで、記事では消費者に提供する選択肢を上手に絞り込むという解決策が一例として示されている訳であるが、もう一つ解決策はあると思われる。全体としての選択肢の数はそのままに、ポートフォリオを上手く調整し、異なるタイプの消費者にそのうちの一部がクローズアップして届くように上手く誘導すればいい。ただ、実際のところ、多くの企業がこのように行動し、失敗しているからこそシンプルに提示することが求められているのであろう。

また、ここまでの話はあくまでその企業がコントロールできる自社のポートフォリオの話であり、他社も含めた選択肢を考えると、どうなるか。。。玄人しか理解できないような中度半端な差別化では意味はなく、消費者が認識できる程度・形での差別化、そしてそれをシンプルに訴えることが重要であることがわかる。○×○ピクセルのモニターとかではなく、「あー、他よりきれいな画面。」というレベルである。

2012年9月19日水曜日

消費者にシンプルに伝える

Karen Freeman, Patrick Spenner そして Anna Bird の“What Do Consumers Really Want? Simplicity”によれば、昨今の消費者はいわゆるAIDAの流れで選択肢を徐々に絞り込んでいくような購買行動(purchase funnel model)は取っていない。


調査によれば、そうしたアプローチを取る消費者は全体の三分の一に過ぎず、その主な理由として認知荷重(congnitive overload)が挙げられている。情報過多で処理が追いついていないということだ。

他の約30%の消費者は開放的な購買行動を取っている。継続的に情報収集し、購入するブランドの入れ替えを行う。

そして、残りの30%はトンネルという購買行動を取っている。これは、深く考えることをやめ、単純に一つのブランドを選択することを意味する。当然、これはブランドロイヤリティに基づく行動ではない。ということで、これらのグループにアプローチするには、シンプルに製品・サービスを消費者に届けるということが重要になる。


結局、企業がどのように消費者とコミュニケーションを取っていくかという問題となる訳だが、失敗している企業はあらゆる潜在的顧客に丁寧に詳細な情報を伝えようとして、逆に上手くコミュニケーションできないでいる。取りうる手段は二つで、以前紹介したように、信用足りうる第三者としてBrand Advocatesがその咀嚼した情報をソーシャルメディアや口コミ(WOM)を介して伝播してくれるようにする仕組みを作り上げること、そして今回のようにそもそもシンプルな情報を流していくこととなる。平凡な結論ではあるが、(相互排他的ではない)両者をどう上手く組み合わせていくかということになるのだろう。

2012年9月17日月曜日

戦略的に戦略を決める

Martin Reeves、Claire Love、Philipp Tillmannsの”Your Strategy Needs a Strategy”によれば、予測可能性と影響力行使可能性といった観点から、環境を四分類し、分析した上でなければ、適切な戦略を選択することはできない。
〇環境の分類軸

・環境の予測可能性(Predictability):需要、企業業績、競争の変動、市場の期待をどれだけ先まで、どれだけ正確に、自信を持って予測できるか。

・環境への影響力行使可能性(Malleability):自社、競合他社がどの程度、上記の要素に対して影響を行使できるか。


〇分類された、各環境に対応する戦略

(1)典型的対応 (Classical)
石油産業など、環境は予測できるが、企業がそれを変化させられない産業。長期的観点からの戦略策定が重要であり、また可能であるため、時間をかけて分析的、量的なアプローチをすることとなる。

(2)適応的対応 (Adaptive)
ファッション産業など、グローバルな競争、技術革新、社会との相互影響などにより、環境変化の予測が困難であり、かつ企業がそれを変化させられない産業。ラフな仮説に基づいた小規模の試みをオペレーションと密接に結び付いた形で短いサイクルで繰り返し、最小の情報的・時間的ロスで変化のシグナルを捉えることとなる。

(3)形成的対応 (Shaping)
情報ソフトウェア産業など、市場が若くて成長率が高い、参入障壁が低い、イノベーションが盛んに起こる、環境変化の予測が困難だが、企業がその状況に影響を及ぼすことも可能な産業。マーケティングやパートナーシップなどにより、自らにとって有利な環境を形成することとなる。Facebookがそのプラットフォームを公開し、サードバーティーによるアプリを増強することでMySpaceを駆逐した例が挙げられている。

(4)先見的対応 (Visionary)
環境変化の予測が可能であり、影響を与えることも可能な産業。新産業創出、新たなビジョンでの自社の再活性化などの対象となるものである。インドのタタによる超低価格の自動車、「グローバルなイーコマースを可能にする者」という新たな自己認識を確立し、オンラインリテールの隆盛で出現した配送需要を取り込んだUPS(アメリカの物流会社)の例が挙げられている。


上記の分類に際して犯しがちな誤りとして、予測可能性と影響力行使可能性の過剰評価、企業文化と戦略の不適合、地域間や企業の成長フェーズでの相違の見誤りが指摘されている。

2012年9月13日木曜日

どこでもエアバッグ Hövdingは化ける(気がする)

既に和訳されている情報もあるが、気になった製品があったので、思ったことを簡単に書いておく。
The Invisible Bike Helmet: An Airbag On The Go (TechCrunch)
上記記事の日本語版
The invisible airbag helmet Hövding (David Report)


TechCrunchの説明を読めば分かるように、これはスウェーデンの工業デザインを専攻していた女性2人が生み出した、Hövdingという首に巻きつけるエアバッグである。



よくヘルメットを被らずに自転車に乗っている人を見かけるが、そんな人たちにも使ってもらえるように、ヘルメットの代替物として研究開発された。加速度計とジャイロ・センサーを活用して事故を感知し、作動するとのことである。市販も始まったが、600ドルという価格と一度きりしか使用できない欠点もある。


ただ、ちょっと考えてみると、Hövdingの持つ機能は、自転車に乗っている人を保護するに留まらないと思うようになった。別に歩行者が着けていてもいいのではないか、と。外出する子どもに着けさせてもいいかもしれない。注意力不足な子どものほうが外で事故に遭う可能性は高く、着けさせたいと思う親は相当数いると考えられる。


であれば、普通のヘルメットを被らせておけばいいと思うかもしれないが、大きな違いとして、Hövdingは首から上を完全にガードすることができるということだ。さすがにフルフェイスヘルメットを被るわけにはいかないだろう。


また、感知する設定を調整すれば、単に自分で転倒した場合にも使えるようになり、ご年配の方々にも使ってもらえるかもしれない。そういう方々にはお尻から腰にかけての部分を保護するエアバッグを売り出してもいいかもしれない。


発表されてから2年間くらい経過しているようであるが、そんな使い方は考えていないようだ。

2012年9月10日月曜日

問題解決の前に正しい問題設定を

アインシュタイン曰く、地球を救うために1時間与えられたら、私は59分を問題設定に充て、残りの1分でそれを解く。
“If I were given one hour to save the planet, I would spend 59 minutes defining the problem and one minute resolving it.”


Dwayne Spradlinは、”Are You Solving the Right Problem?”において、問題の解き方や回答よりも、どう問題設定するかが重要であることを述べ、彼が用いている問題設定のプロセス(challenge-driven innovation)を披露している。なお、記事の中では、発展途上国においてきれいな水へのアクセスを確保することにより、経済発展を支援するNPO、 ”EnterpriseWorks/VITA”(VITA: Volunteers In Technical Assistance)の例を用いて具体的な方法を示している。


問題設定のプロセス

ステップ1:ソリューションに対するニーズを確立する

・「簡潔に、根本的なニーズは何か。」
問題の核心を突く。

・「質的・量的に求められている結果は何か。」
顧客、受益者の視点を理解する。

・「誰がなぜ利益を得るか。」
全ての潜在的な顧客、受益者を特定する。


ステップ2:ニーズの正当性を明らかにする

・「その行為は組織の戦略に沿っているか。 」
そのニーズを満たすことがその組織の戦略的目標の達成に合致しているか。

・「会社にとっての利益とは何であり、またそれをどのようにして測定するか。 」

・「どのようにしてソリューションが実行可能であることを確かなものとするのか。」
どんな資源がどれだけ必要であるかを組織内の高いレベルで議論を始める。特に認識が大きく異なる場合は概算見積りを共有しておく必要がある。


ステップ3:問題を文脈の中に落とし込む

・「どんな方法を試してきたか。」
経験から学ぶことにより、改善を加えたり、失敗を回避したりする。

・「競合相手等、他の人たちはどのような方法を試してきたか。」

・「ソリューションを実行に移す上での内的・外的制約条件はどうなっているか。 」
組織内での合意形成と資源調達、法律や規制などのクリアは大丈夫か。


ステップ4:問題と満たすべき条件を詳細に書き表す
内外の合意や協力を得るという観点からも、解決すべき課題をしっかりまとめておくことは重要である。 

・「書き起こされた問題(problem statement)の中には複数の問題が含まれていないか。 」
複雑な問題は各要素に分割したほうが対処しやすい。

・「ソリューションが満たさなければならない要求は何か。 」
絶対的に満たすべき要求と満たしたほうがいい要求を分別する。

・「どのような専門家や組織(「解決策提案者」)を問題解決に引き込んでいくべきか。 」

・「問題にはどんな情報を含め、どんな言葉を使うか。」
より多くの協力を得るには、具体的、しかし不必要にテクニカルではない程度に問題を記述する。業界特有の専門用語や前提知識を避ける。過去のソリューションを簡単に説明する。

・「解決策提案者は何をアウトプットする必要があるか。 」
仮説的なアプローチを提示してもらうだけで足りるか。本格的な試作品も提供してもらう必要があるか。

・「解決策提案者はどんなインセンティブを必要としているか。 」

・「ソリューションはどのように評価され、また成功はどのようにして測定されるのか。」

2012年9月8日土曜日

ベンチャーの資金調達のためのアドバイス

Michael Fertikは、”Practical Advice for Raising Early Stage Venture Capital”において、アーリーステージでVCから資金調達するためのアドバイスを披露している。


まず、そもそも以下の理由から可能な限り自己資金で事業を進めていったほうがいい。ただし、対象としているビジネスの動きの速かったり、利益が大きかったり、巨大市場で会ったりする場合を除く。
1)会社の支配権を維持する
2)それによって生のビジネス(の厳しさ)を経験し、学習することができる。
3)小さい代償で事業から撤退することができる。
4)外部資本なしで会社をつくり上げることができれば、それはより自立した事業であるといえる。


という前提を踏まえた上で、以下8つのアドバイスの紹介となる。
1)資金調達のアプローチを大規模ファンドから始めてはいけない。
Sequoia capitalKPCBのようなベンチャーファンド業界のトップファンドの影響力は大きく、他のところもその判断に追随してしまう。

2)パートナー以外からの突っ込んだ質問には対応してはいけない。
アソシエイトやアナリストは渉外として情報収集をしているに過ぎず、何の決定権もない。

3)交渉破断後のフィードバックは無視してよい。
投資を見送られた後のフィードバックは割り引いて受け止めたほうがいい。なぜなら彼らはThe Fundedなどで悪く言われるのを避けたいだけだから。

4)事前にプレゼン用資料を送ってはいけない。
どのVCも資料を送るよう要求してくるが、丁重にお断りしたほうがいい。この点については、両者の間に十分な信頼関係が築かれるまでは妥協してはいけない。彼らはその資料から得られた情報を二次活用してしまうからだ。

5)VCとアポが取れたくらいで興奮してはいけない。

6)VCから要求があっても、第三者と会ってはいけない。
VCは手持ちの企業や人材と一緒になることを勧めたりするが、その提案は断ったほうがいい。なぜなら、もっと情報を引き出そうとしている、当該企業の評価についてその第三者の意見を参考にしたいと思っている、そのアントレプレナーの能力を試そうとしていることなどが考えられるからである。

7)トップVCがシードステージでスーパーエンジェルに対抗するためにつくったファンドやインキュベーターのオファーを受ける場合は注意する必要がある。
そのVCだけで十分なくらいの支援を受けられないのであれば、次のラウンド(資金調達)で、何か問題があってそのVCが支援をしないのではないかとの疑念を持ち、潜在的な投資家にとって魅力的な案件でなくなってしまう。

8)いくつか連絡の取れる、友好的なファンドを確保し、定期的に事業状況を説明しておく。
事業についてアドバイスをもらったり、いざという時に支援をしてもらうためである。

2012年9月6日木曜日

米国経済が抱える問題(所得格差の拡大と雇用の流出)

David Leonhardtは、一連のレポートにおいて、米国経済が抱える問題について色々なテーマで解説している。今回は“A Slowdown in Growth, an Increase in Income Inequality”と”Globalization and the Income Slowdown”から、所得格差の拡大と雇用の流出について。


ここ十年ほどアメリカの所得は停滞しているが、主に経済成長の減速と所得格差の拡大によるものである。経済成長の減速については、“米国経済停滞の理由(人口動態の変化)”で取り上げたところであるが、所得格差については以下のグラフで一目瞭然となる。所得階層が上位にあるほど所得上昇率が高いことが分かる。



さらに所得再分配後でも同じ傾向にあることがCBOの”Trends in the Distribution of Household Income Between 1979 and 2007”からも分かる。



では、その原因とは何であるか、いくつか示されている。技術革新、低質な教育による人的資源の劣化、低所得層に大きく響いているヘルスケア関係費用の上昇などが識者の意見として挙げられている。


最も直接的なものとして、グローバリゼーションによる競争の激化、サプライチェーンの世界的拡がりによる産業の海外移転があり、その結果、アメリカ国内に残るのは地域に根差し、外に持ち出せない公共サービス、教育、医療などとなっている。経済学者のMichael Spenceによれば、雇用創出の97%以上はこうした移出できない分野によるものであるとのこと。また、これらの産業の労働者の所得水準は高くない。日本にも共通する課題である。


2012年9月5日水曜日

データを成果につなげるために必要なこと

Lara LeeとDaniel Sobolの”What Data Can’t Tell You About Customers”によれば、人間行動は微妙で複雑なものであり、データだけではその一部しかとらえることはできない。


データから新しい動きが発見できたりするが、何をすればいいかを指し示すことはできない。人々が何をするかではなく、なぜそれをするのかを理解することがイノベーションには欠かせない。例として、ブラジルで各家庭にテレビが普及した背景に、経済成長だけではなく、治安の悪い貧民街(favela)に住む親たちが、子供ができる限りストリートに出歩かないよう、家の娯楽を充実させようとしたこともあることが、突っ込んだフィールド調査で分かったことが挙げられている。


また、データによって裏付けられた消費者の環境志向の高まりの背景を、詳細なインタビュー等で掘り下げ、持続可能性と結びつけることで成功した、クリーニング用品のCloroxの取り組み(green works)を紹介している。


最後に、人の薬の処方状況を追跡し、補充が十分でない場合にお知らせするという顧客サービスが、逆に顧客に対して監視、介入されているという印象を与え、顧客との信頼関係の構築に寄与しなかった例を、データだけでは上手くいかない事例として挙げている。


ただ、別にデータ自体が悪いというわけではなく、データだけに頼り切らず、その背後または先にあるものを見ないとイノベーションは生み出せないということであると理解しておくこととする。

2012年9月4日火曜日

米国経済が抱える問題(人口動態の変化)

David Leonhardtは、一連のレポートにおいて、米国経済が抱える問題について解説している。今回は“Is Simple Demography Behind Weak Economy?”から、人口動態の変化について。


アメリカの年間経済成長率(10年平均)は上記グラフが示すように、1960年代、70年代は平均4%、1980年代から2000年代にかけては平均3%であった経済成長率がここに来て2%を割り込むところまで減少している。

Leonhardtは、構造的な原因の一つとして、アメリカの生産年齢人口比率は今後増加しないことが挙げられている。生産年齢人口とは教育を終える年齢に達しているが、退職するほど年老いてもいない、社会の生産活動に寄与する年齢層の人口を意味する。需要もそうだが、特に供給力という観点から、経済に大きな意味を持つ。アメリカでは、1967年から1997年にかけて25~64歳人口が全体人口に占める割合は44%から52%まで増加したが、2007年以降、53%程度で停滞している。*

また、労働力に占める女性比率は、1948年から1997年にかけて32%から60%まで増加したが、現在の57%まで低下し、これ以上の上昇は見込めない。つまり、生産年齢人口のうち、実際に生産に寄与する人間の数も増加しないということである。

Leonhardtの言うとおり、確かに生産年齢人口比率は増加しないかもしれないが、2012年版国連世界人口推計が示すように生産年齢人口自体は増加する見込みであることに注意が必要である。既に生産年齢人口自体が減少し、今後も減少し続ける日本に比べれば、良い状況であると言える。

* 一般的に生産年齢人口は15歳以上65歳未満の人口をいうが、ほとんどの人間が高校まで進学する現在、適切な設定かは議論がある。

2012年9月2日日曜日

アンケート調査は短く

Michael Schrageは、”Learn More By Asking Fewer Questions”において、各種アンケート調査の回答率を高めるための最も簡単で強力な方法として、質問を絞り込むことを掲げている(この人は5個と言っている。)。


「そんな誰でもわかりそうなことを」となってしまうところであるが、他にもプラスの面がある。質問が多いと回答率が低くなることはもちろんであるが、実は後半の質問への回答の精度が低下して、その部分があまり有用でなくなってしまうという問題がある。リサーチ料は、概ね質問数とサンプル数で決定されることを考えれば、コスト削減の観点からもあまり成果の望めない質問はカットしたほうが望ましいであろう。


ちなみに、この程度のことは個人向けに無料ネット調査を提供しているSurvey Monkeyが英語日本語で既にまとめていた。。。というわけで、”Learn More By Asking Fewer Questions”を読む時間があったら、”How Much Time are Respondents Willing to Spend on Your Survey?”を読むことをお勧めしておく。