2012年12月29日土曜日

大企業がイノベーションを不得意とする理由(戦略の組織適合)

2013年を迎える前に読むべき33のHBR Blog Postsから、“Why Big Companies Can't Innovate” by Maxwell Wessel (HBR Blog Network) の抄訳。戦略の組織適合の話。


大企業はイノベーションに不向きなように組織されており、実際に苦手である。
例えばベビー食品大手のGerberは、陰りの見えだした自社の潜在的成長力を踏まえ、大人向け食品市場に参入したが、失敗した。野菜、果物の選別、処理といった自社の強み、忙しく調理時間の確保できないアメリカの成人向けに健康な食事を提供するという意義(社会的ニーズ)があったにもかかわらず。彼らは”Gerber Singles”という新しいレーベルを立ち上げたが、独自のブランディング、流通戦略を採用せず、提供されるものは既存のものと大差なかった。

この背景には、顧客ニーズよりも大企業が追求しがちな効率性にフォーカスしてしまったことがある。顧客ニーズの充足よりも自社の既存資産の有効活用、社会的意義(社会的課題に対するソリューションの提供)よりも事業利益である。

ただ、この利益追求自体は企業として当然の行為であり、本当の問題はGerberの幹部が効率性を重視し、イノベーションを起こしにくいという大企業の特性を認識していなかったことにある。そうした習性から自由なグループをつくり、必要な権限委譲を行う必要があったのである。それができないのであれば、既存事業をしっかりと行い、株主に配当で還元するほうがいい。


(参考)
イノベーション・パフォーマンスの高め方」:
 戦略、組織両面でイノベーションに必要な要素を満たす。
カタリストを活用した大企業によるビジネスモデルイノベーション」:
 適切な人材配置により、大企業でもイノベーションを起こす。

2012年12月24日月曜日

イノベーションを阻害する、リーダーの行為

"The Innovator's Straitjacket" by Scott Anthony (HBR Blog Network)の抄訳。


18世紀、フランスで拘束衣が発明された。精神障がい者が自傷行為に及ぶのを防ぐためのものであったが、一方でその人から様々な可能性を奪ってしまうという側面がある。そして、同様のかたちで、リーダーがイノベーションを阻害してしまうことがある。

1.現在の実力をベースに物事を考え、限界を設けてしまう。
マーク・ザッカーバーグがそんなことを考えていたら、フェイスブックは生まれていなかっただろう。

2.カニバリゼーションを恐れて、腰が引けてしまう。
確かにアップルのiPadはノートブックやラップトップの売り上げをいくらか食ってしまったが、それ以上にタブレットという新市場を拡大させ、マイナス面を補って余りある価値を生み出している。

3.粗利益率が低下することを恐れて、立ち止まってしまう。
粗利益率を基準にして新しいアイデアの良し悪しを判断すると、将来的にはより魅力的なキャッシュフローを生み出す可能性を持った、ビジネスチャンスを見逃してしまう。30%の粗利益率を誇っていた新聞各社は、利益率の観点からオンラインモデルを軽視していたが、適切なビジネスモデルの構築により、しっかり利益が生み出されている。

4.ブランド足かせとなってしまう。
ブランドが損なわれるという理由で良さそうに見えるアイデアも捨てられてしまう。

5.現状のチャネルという罠にかかってしまう。
合理的な人間であれば、より確実に、そしてより多くの利益を生み出す(既存)事業を優先してしまう。破壊的成長を成し遂げたければ、新しいチャネルを考えないといけない。

2012年12月22日土曜日

動的価格設定 (Dynamic Pricing)

Why Online Retailers’ New Pricing Strategy Will Backfire” by Rafi Mohammed (HBR Blog Network) の抄訳。


アマゾンやベストバイといったオンライン小売業者の間では、動的価格設定(dynamic pricing:売り手が、同じような顧客に対して同じ商品・サービスを提供する際、価格を迅速に上下させ、異なる価格を提示すること。) が盛んになり、15~25%くらいの価格変動が一般的になっている。

そこには一定の理由があるが、長期的利益の喪失、消費者行動だけでなく、ブランドに与える影響について、理解しておく必要がある。

2007年、アップルは手痛い経験をした。アイフォン発売からたった69日で価格を$599から$399に引き下げたのだが、既に購入していた顧客はの激怒を買ってしまったのだ。アップルは謝罪するとともに、自社製品に使用できる$100のクレジットを提供して、事態を収拾した。一方、ネットフリックスは2011年、大幅な値上げを行い消費者の怒りを買ったが、何も対応しなかったところ、三か月の間に株価が1/3以下になるという経験をした。

動的価格設定にも同様のことが当てはまり、他人よりも多く支払わされている顧客たちが不公平だと訴えてくるのも時間の問題であり、それによってブランドの信用が失われてしまうという大きな問題が発生する。皮肉にも、何もしていなかったライバル企業が利益を得るということにもなってしまう。例えば、コストコは15%以上の値上げはしないと宣言している。

エアライン産業やホテル産業では動的価格設定が受け入れられてきているのに対して、小売業ではどうしてこのような状況にあるのであろうか。2つの重要なポイントとして商品・サービスの時間的消費制約と需要の不確実性が挙げられ、これに対応するためには、エアライン産業やホテル産業では動的価格設定を取り入れざるを得ないという事情がある。

また、オンライン小売業で動的価格設定を行っていると、顧客はオンラインショッピングサイトではなく、Orbitzなどのような各サイトの価格比較サイトをまず訪れるようになってしまう。

ただ、動的価格設定には需要に合わせた柔軟な価格設定というメリットもあり、ポイントはどのようにマネジメントするかという点にある。具体的には、動的価格設定を行っていることを正直に顧客に伝える、購入後に値段が下がっていることを発見した顧客には払い戻しを行う、変動させる価格帯に制限を設けるなどである。

2012年12月19日水曜日

トランス・ブランディング

HBR Blog Network ”Maintaining a Unified Brand in a Fragmented World” by Dae Ryun Chang and Don Ryun Changの抄訳。

ブランドマネージャーは、まずます断片化する市場においてどのようにしてブランドを運営し、ソーシャルメディアによって主導権を奪われた顧客へのアプローチをどのようにして取り戻すかを考えなければならない。

例えば、Gapのロゴ変更での失敗と、スターバックスのリブランディングと新しいセイレーンのロゴでの成功との間には、企業が、理念として、またマネジメントシステムとして、「トランス・ブランディング」を巧みに組み込んだかの違いがある。多様化した市場間を上手く結びつけ、効果的に展開していくためには以下の点が重要となる。

1)移行する
変化する市場環境に過度に適応しようとすると、既存の顧客の信頼を失いかねない(急進的にロゴ変更を行って失敗したGapの事例)。だが、企業の顧客、支援者を巻き込んで、時間をかけて統合していくことによりそのブランド再構築の取り組みは成功しやすくなる。一方、スターバックスはセイレーンを使い続けることにより既存顧客にその親しみを感じさせる店舗での体験が変わらないことを伝えるとともに、「Starbucks Coffee」という文字を削除することによりそのビジネスがコーヒー以外にも広がっていくことを伝えている。

2)異なる市場を超越する
詳細にセグメントされた、それぞれの需要に応えるのではなく、市場の差異を超越できるようなアピールを見つけることで、消費者を総体的に捉える取り組みが必要である。PsyのGangnam styleが事例として取り上げられている。

3)変態する
スマートフォンアプリのようなデジタルの領域が新しい戦場となっているが、ブランドの諸要素は動きのある小さい画面で目に付くものである必要がある。DC comicsの動きのあるロゴが紹介されている。

4)透明である
ドミノピザは顧客からの不満、品質上の問題を公開し、議論し、それをどのようにして乗り越えていくかというキャンペーンを行い、注目を集めた。ブランドの透明性は真摯に顧客からの不満に対応する際に重要となる。なぜなら不満を放置されたとき、それらはソーシャルネットワーク上で急速に拡散していくからである。企業はブランディングに影響を及ぼす他の要因(信頼、神秘性、物語性、驚き)との間で最適なバランスの中で透明性を追求していく必要がある。

2012年12月14日金曜日

中国、インドにおける投資としての教育

BCGの”Mr. Number 19 and the Race to Educate the Next Generation”の抄訳。


何年にも渡って週80~90時間の勉強を続け、高い教育水準を達成したNumber 19(インド工科大学入学試験で40万人中19番になったインド人男性)とHarvard Girl(困難な環境から飛躍を遂げた中国南西部出身の女性)という成功者の象徴を取り上げつつ、両国が進める将来に向けた成長基盤の構築とその影響をまとめている。

・10兆ドルのコンペ ($10 trillion prize)
2011年から2020年までの間に8300万人の中国人、5400万人のインド人が大学を卒業することとなり、そうした高い能力を持つ若い世代が大きく貢献して、2020年には両国合わせて10兆ドルという消費が生み出されるのである。

・BCG E4 index
以下の教育に係る四指標を均等にウエイトし、国際比較したもの。これによれば、アメリカがダントツのトップに君臨し、その後には英国、中国、インドが続いている。*
Enrollment:高等教育への進学者数
Expenditure:公共・民間部門からの教育投資額
Engineers:エンジニア系学位の所有者数
Elite Institutions:世界トップレベルの大学数


 インドでは初等教育の基盤確立による貧困のスパイラスの解消、中国では世界トップランクの高等教育機関の育成による人材の囲い込み(1972年から2009年の間に140万人の中国人が留学し、そのうち40万人しか帰国していない。)が課題となっている。

いずれにせよ両国は教育を公共事業などに代わる、次世代の投資と捉え、中長期計画に基づいて積極的に取り組んでいることだけは確かである。


* 中国、インドはその人口を反映して高等教育への進学者数で大きくポイントを稼いでいるが、この点をどう解釈するかは目的によってことなってくるであろう。なお、7位に位置する日本は教育投資額では大きなポイントを稼ぐ一方、エンジニア系学位の所有者数と世界トップレベルの大学数で大きく見劣りしており、これらの指標で捉えた限りでは投資効率の高くない日本の教育という印象になってしまう。ただ、主に科学技術系の教育に焦点を合わせており、いわゆる文系的な分野、ノーベル賞受賞者数等の成果という視点は含まれていないことに留意が必要。

2012年12月11日火曜日

ビジネスモデルイノベーションの持続的優位性

ビジネスモデルイノベーションについて、「イノベーションの浸透(技術とビジネスモデル)」ではその技術革新補完性が明らかにされたが、今回は技術革新との比較によりその持続的な競争上のアドバンテージを明らかにしている。

HBR Blog Networkの”Business Model Innovation is the Gift that Keeps on Giving” by Karan Girotra and Serguei Netessineの抄訳。

Zaraのビジネスモデル(ファストファッション)は今でこそ大きな注目を浴びているが、30年以上の間ノーマークだったおかげでInditex (Zaraの親会社) はゼロから20億ドルへと売り上げを伸ばすことができた。なぜすぐにマネされなかったのか。どのようにして持続的な成長が可能になっているのか。その答えはZaraのイノベーションがビジネスモデルで起こったことにある。

Zaraのモデルはファッショントレンドへの迅速な対応が可能なようにデザインされており、そのおかげで店舗の商品棚には常に最新の衣服が積み上げられている。このモデルがどう機能するかに関心が向かいがちであるが、そこから生み出される収益の持続可能性にも驚くべきものがある。

Zaraは1975年に設立され、その親会社Inditexは2001年に株式公開した。最初の5年間に、創業者のAmancio Ortegaは、アパレル業界においてはコストがかさんでも(流行、顧客ニーズへの)迅速な対応が競争のキーとなることを理解し、立地、配送システムに大きな投資を行った。近年Uniqlo, Mango, H&Mが同様のビジネスモデルを導入し成長しているが、20年以上もの間、Zaraのビジネスモデルが注目されず、また模倣されずにいたことに驚かざるを得ない。

逆に、大ヒットしたファイザーのヴァイアグラは、1996年に特許登録され、1998年から販売されるようになったが、5年も経つと、Cialis, Levitraという強力な競合が、90%以上もあったファイザーのシェア50%まで奪ってしまった。

他の例として、アップルは2007年のiPhoneの開発、投入により、スマートフォン市場に革命をもたらしたが、数か月のうちにサムスンから驚くほどに似たインターフェイス(タッチスクリーン)のスマートフォンが発売され、5年後の現在、アップルの革新的なインターフェイス、それに続くアプリケーションプラットフォームはスマートフォンの標準となっている。

では、どのようにしてZaraはそのビジネスモデルイノベーションからの利益を享受し続けることができているのであろうか。答えは以下のようなビジネスモデルのユニークな特徴にある。
  • ビジネスモデルイノベーションは、多くの場合、企業内プロセスで発生しており、外部からは直接捉えられない。 
  • ビジネスモデルイノベーションは、企業DNAに埋め込まれており(企業活動のコアとなるオペレーションロジック)、プロダクトデザインよりも模倣が困難である。
製品上、技術上のイノベーションが模倣されたとしても、ビジネスモデルにおいて差別化できている限り、利益を生み出し続けることができるのである。

2012年12月9日日曜日

イノベーションのマネジメント

HBR Blog Networkの”Start Building Your Growth Factory” by Scott Anthonyの抄訳。


David Duncanとの共著 (Building a Growth Factory) における中心テーマは、4つのマネジメントツールにより企業の成長創出能力を強化することである。成長の青写真、アイデアを成長事業に昇華させる生産システム、必要な資源の把握及び配分を可能にするコントロール、そして適切なリーダーシップ、人材、文化である。そして、より詳細な15の要素がある。ただ、そのすべてをすぐに実践しようとする必要はなく、まずその出発点として以下の3点について考えてほしい。

1. 共通言語
これはイノベーションによる成長をシステマティックに成し遂げる上で重要である。例えば、基本的な定義に加えて、自ら(自社、開発チームなど)にとって重要なイノベーションのタイプを特定することである。P&Gは商業、持続可能、変革、破壊、シティはコア、隣接、破壊を掲げ、共有している。あらゆる組織はそれぞれの成長タイプを持っており、大抵の場合少人数のリーダーたちによる午後のディスカッションで生み出される。

2. 詳細な調査
少人数のチームをつくり、イノベーションによる成長の最大の促進要因、阻害要因を特定するというタスクを課す。このチームではレバレッジを利かせられるポイント、取り組みを加速させる最大の潜在性がある分野を特定することが求められる。加えて、全体システムがどのように見えるかという青写真とそれに対応するロードマップ(いつ何が起こるか)の作り上げていく必要もある。経験的には、この作業に6~10週間の時間がかかる。

3. 実証プロジェクト
拡張的、破壊的アイデアに取り組むチームを組織内から探し出さなければならない。そうして立ち上げたチームと強く連携して取り組んでいく方法を見つけなければならない。これによって、現在の能力のうち、何が新たな成長に向けた取り組みを促進し、何が妨げるかが分かるようになる。

2012年12月6日木曜日

アントレプレナー支援政策のリバランス

HBR Blog Networkの”Focus Entrepreneurship Policy on Scale-Up, Not Start-Up” by Daniel Isenbergの抄訳。


Start-up Americaなど、スタートアップ向けに起業に係る様々なプログラムが世界中で生まれているが、起業家支援政策についてはそのポートフォリオを、起業促進から成長促進にシフトしていく必要がある。

アントレプレナーシップとスタートアップは一緒くたにされがちであるが、そのことが二つの誤解を生み出す。
 · 起業することが最も困難で重要なタスクである。
 · 起業の数がプログラムの成否を示す。

アントレプレナーシップが重要であったとしても、それを達成する方途としてはスタートアップ以外にも買収、事業目的の再設定、スピンオフ、未活用・低評価資産の再結合、「リスタート」(by George Foster)などがある。例えば、カスペルスキー(ロシアを本拠地とするPC、ネットワークのセキュリティ会社)は、先進的なアンチウイルスの会社を、経営難にあったロシアの機関からスピンオフで生み出した。他にもサーチファンド(事業アイデアを見つけるための資金を投資家から調達する仕組み)、家業、大企業、研究所、大学等などの仕組みがある。

しかし、起業後の成長がなければ、その大きな価値も発揮されない。そして、その過程には数々の困難が待ち受けている。それは、強力なセールス、マーケティングの確立、多様な人間を雇用し、統率することによる組織構築、資源調達に係るノウハウの取得などである。2000年代、デンマークで行われたスタートアップへの包括的支援はベンチャー企業を大きく増加させたが、数年後、そのほとんどは社員数名で成長が止まってしまい、成長企業と判断できるようなものは1%に満たなかった。

ベンチャー企業の成長にフォーカスするためには、以下の政策が必要である。
 · 政策評価の指標を、生き残っているベンチャー企業数ではなく、その成長とする。
 · 成功していないベンチャー企業の廃業を推進し、ベンチャー企業の入れ替えを活発にする。
 · スキル、マネジメントに長けた高度人材プールを構築する(ベンチャーには新たな経営者だけでなく、新たな従業員が必要なのである。)。

成長企業は(起業家、株主、従業員、そして政府に対して、)正の外部効果があり、その地域の起業文化に大きな影響を与える。スタートアップは、量から質へと、その求められるものが変わらなければならない。

2012年12月3日月曜日

説得6原則: Science of Persuasion

人を説得するための原則についてのアニメーション (Science Of Persuasion based on the research of Dr. Robert Cialdini, Professor Emeritus of Psychology and Marketing, Arizona State University.)の抄訳。



人は入手可能な全ての情報を元に判断を下していると考えられているが、それには大きなコストが伴うことから実際にはいくつかのショートカットを使っている。

1. 相互関係 (Reciprocity: Obligation to give when you receive)
相手が予想していない状況下で、個別に贈り物をすることが効果的。

レストランでのチップに係る実験
 ・食後に領収書とともに1個ミントを渡した場合、チップの額が3%増加した。
 ・食後に領収書とともに2個ミントを渡した場合、チップの額が14%増加した。
 ・食後、帰り際に「あなたはいいお客さんです。」と言って1個ミントを渡した場合、チップの額が23%増加した。  

2. 希少性 (Scarcity: People want more of those things there are less of)
プロモーションに当たっては便益だけではなく、その固有性、その機会を見逃した場合に失うものも提示したほうがいい。

航空会社での事例
2003年、ブリティッシュエアウェイズが採算性の問題から、コンコルド(ニューヨーク・ロンドン間)の一日2便運行を止めると発表したところ、値段、飛行時間等何も変わっていないのに、翌日の売り上げが大きく上昇した。 

3. 権威 (Authority: People will follow credible knowledgeable experts)
影響を与えようとする前に、信頼に値し、知識を有する、専門家というシグナルを発信することが重要。 

不動産会社での事例
それまで不動産販売員が直接電話対応をしていたところ、受付的役割を担う人間を経由させ、長い経験を有する販売員であること、かなりの知識を持った販売員であることを話した後、その販売員に繋ぐようにしたところ、予約件数が20%、成約件数が15%増加した。

4. 一貫性 (Consistency: People like to be consistent with the things they have previously said or done)
本命の依頼に先だって、小さな、受け入れやすいお願いをする。そして、自発的、積極的に行われた、公表済みのコミットメントが有効(ヘルスセンターにおいて患者の予約時に、日時を予約カードに書いてもらうようにしただけで、すっぽかしが18%減少した。)。

安全運転キャンペーンの事例
個人宅の庭に安全運転を呼び掛けるボードの設置をお願いしたところ、ほとんど誰も了承しなかった。別の地域で同様のことをしたところ、4倍も多くの家庭を説得することができた。実は後者においては、その一週間前に小さなステッカーを家の窓に貼ることをお願いして、多くの協力を得ていたのである。  

5. 好意 (Liking: People prefer to say “Yes” to those they like)
人が他人を好ましく思う際の3つの重要な要因
 a. 自分と似ている。  
 b. 感謝や賞賛を与えてくれる。
 c. 共通の目標に向かって協力してくれる。
 
MBAに通う二校の学生間でオンラインでの交渉実験
 ・第一集団には「時は金なり」といってビジネスライクな対応を指示したところ、合意に至ったのは55%であった。
 ・第二集団には交渉の前に、情報交換し、共通点を見つけるように指示したところ、合意に至ったのは90%に上昇した。

6. 多数意見 (Consensus: People will look to the actions of others to determine their own)
個人の責任感に頼るより、これまで他の多くの人達(同様の状況にある人々であるとより効果が高い。)がしてきた行動を示す方が説得には効果がある。

ホテル客室で同じタオルやリネンを繰り返し使うよう求めている事例 
 ・「再利用は環境保護の観点から望ましいことです。」というメッセージを出したところ、35%の宿泊客が順守した。
 ・ 調べたところ、4泊以上する宿泊客の75%がタオルなどを繰り返し利用していることが分かり、「(ある条件で)75%の宿泊客がタオルを繰り返し利用しています。どうぞ同じように行動してください。」というメッセージを出したところ、順守率は26%上昇した。
 ・「この部屋の宿泊客の75%が宿泊中、タオルを繰り返し利用しています。」というメッセージを出したところ、順守率は33%上昇した。

2012年12月1日土曜日

破壊的イノベーションから生き残る方法

HBR The Magazineの”Surviving Disruption” by Maxwell Wessel and Clayton M. Christensenの抄訳。

破壊的イノベーションは、ナップスター、アマゾン、アップルストアがタワーレコードやミュージックランドを潰したように、ターゲットとなった既存ビジネスに破壊的な影響をもたらすが、その新しい成長市場の可能性、自らの既存ビジネスの有効性をしっかり確認の上、必要であればレガシーとなった事業を自ら破壊することにより、ビジネスを拡大することができる。

しかし、レガシー事業が破壊的イノベーション後も利益を生み出すか否かについて、「破壊者のビジネスモデルの強み」、「自社の比較優位点」、「破壊者による自社優位性の剥奪に係る促進、抑制条件」といった観点から検討しておく必要がある。なぜならそれは時間をかけて発生するプロセス(path and pace)であり、戦略的対応が可能であるからである。


破壊者のもたらす影響を判断するための方法

1.どこにアドバンテージがあるか

ここでは、拡張可能なコア(extendable core)という新たな概念(破壊者がより多くの顧客を求めてハイエンド市場に進出していく際、その優位性の維持を可能にするビジネスモデルという側面)を用いる。
  • ハイエンド市場に進出する際、一般的にはその適応過程において、確立していた優位性も失ってしまう。例えばホリデーインがフォーシーズンの顧客を奪おうとする場合、設備、サービスの質を向上させなければならないが、それでは宿泊料も上げざるを得ず、優位性を確保できない。
  • 破壊的イノベーションが機能した事例としてPCがある。PCはそのコスト優位性を維持したままパワー、容量、機能を向上させることで、ミニコンピュータを駆逐した。この背景にはPCメーカーによる部品の標準化、部品メーカーによる絶え間ない品質、価格の改善があるが、顧客に合わせてカスタムメイドを行うミニコンピューターメーカーには取ることのできない手法であった。
  • だが、破壊的イノベーションの長所もその短所によって打ち消されてしまうことがよくある。例えば、高等教育へのイーラーニングの導入は低コストで高質の教育を提供することに成功したが、成績によって自らの能力を示したい人間や、新たな生活環境、コネクションなどの大学のもたらす社会的側面を重視する人間には十分な価値を提供できない。
  • 破壊的イノベーションがアピールできる層とそれ以外の層をしっかり切り分け、特定する必要がある。 

2.そのアドバンテージが重要となる局面

あなたの会社にはどんな仕事を行うことが求められているか、そして拡張可能なコアを利用して破壊者がよりうまくできる仕事は何かという点から、自社の比較優位性を明確化する。
  • 人々はある製品やサービスをある場面では欲するが、そうでない場面では欲しない。人々が何をする必要があると考えているか、それをどのようにしてより簡単に、便利に、利用可能な価格で達成できるかという二点を特定することで、破壊者はその製品、サービスを改善していくための気付きを得る。 
  • 一方、レガシーとなり得る既存事業を抱える側は、破壊的イノベーションの長所と短所を比較検討することにより、その進行速度と規模を予測し、対応することができる。 

3.そのアドバンテージが保たれる条件 

破壊者がその破壊を現実のものとするために乗り越えなければならないハードルは以下のとおりである。
  1. 慣性という障壁(顧客は現状に慣れきっている) 
  2. 技術導入の障壁(既存の技術でも達成することができる) 
  3. エコシステムの障壁(乗り越えなければならない、ビジネス環境の変化) 
  4. 新技術の障壁(競争環境を変化させるのに必要とある技術がまだ存在していない) 
  5. ビジネスモデルの障壁(破壊者は既存ビジネスの費用構造を受け入れなければならない) 

ここまでで言えることは、企業は顧客に提供する価値ではなく、その価値に対する顧客からの信任(売上と利益)にもっとフォーカスする必要があるということである。

また、値下げ、同様の製品の投入などによって、安易に破壊的イノベーションに対応すると、破壊者の本質的なアドバンテージや、自社のレガシー事業でも守ることのできたアドバンテージが見えなくなってしまう。

上記のアプローチの適用可能性を検証するため、ここからは現在進行形のイノベーションによる破壊について見ていく。

小売食料品店の破壊
近年、オンラインストアが伝統的なスタイルの小売りを破壊してきているが、それに対する最後の砦の一つは、食料品産業である。アメリカでは、たった1%の食品しかオンライン食料雑貨店から購入されていない。だが、上記アプローチに基づいて、配送時間の短縮、商品の選別、新たな機能の追加等が、破壊的イノベーションの浸透を促すと予想される。

「食料品産業においては、どの程度の破壊が起こるのか。」、「将来的に、伝統的な食料品店が果たすべき役割とは何か。」といことを既存事業者は考えておかなければならない。

オンライン食料雑貨店の拡張可能なコア
オンラインストアのアドバンテージは一見明らかなようであるが、イノベーションによる破壊の程度と影響を予測するには少し深く考えてみる必要がある。例えば、アマゾンは物理的な店舗を持たないことでコストを抑え、低価格というアドバンテージを実現していると考えられているが、他にも在庫品の代金を支払う前に顧客からの支払いが受けられる(キャッシュフロー)、全ての在庫を倉庫に集めることができるため余分な在庫が必要ない、大量購入で値引きをしてもらえる、販売員に係る人件費を抑えられる、また場合によっては倉庫を上手く配置することで州の売上税を回避できるといったアドバンテージもある。

しかし、オンラインストアの場合、各個人に宅配しないといけない、より複雑なロジスティクスを管理しないといけない、販売員がいないので顧客サービスに限界がある、店舗でモノに直接触れてもらうことができないといったマイナスもある。

伝統的な食料品店に求められること
顧客の行動、求めていることを観察することによって、破壊者の拡張可能なコアの長所、短所が持つ既存ビジネスへの影響を評価できるようになる。

例えば、アメリカの食品雑貨チェーン(クローガー)の一日の顧客パタン(午前中と午後の早い時間帯はセール品、時々急いで一つか二つのどうしても必要なもの、午後の遅い時間帯には夕食のため食材や加工済み食品が売れる。網羅的ではないが、顧客の大きな高度パタンを反映している。)


こうした分析は思われているほどしっかり行われていないが、最近は詳細なデータ入手可能であり、「誰が、何を、どれくらい、誰と一緒に、どんな時に購入するか」という観点から顧客をラベリングし、来店時の意図を理解することで、どんなイノベーションがその顧客にとって重要であるかを特定することができる。

2012年11月29日木曜日

ソーシャルメディアのROI_VOAL


HBR Blog Networkの”How to Calculate the Value of a Like” by Can Zarrellaの抄訳。


Email、検索、ディスプレイといったツールを用いたオンラインマーケティングでは数字、ROIなどに基づいた検討、検証が行われているが、フェイスブック、ツイッターなどのソーシャルメディアを使ったマーケティングについては、その点が忘れ去られている。

HubSpotインバウンドマーケティングソフト会社)では、各ソーシャルメディアでのつながりが企業の最終的な損益にもたらす影響の定量化を行っており、そのために”Value of a like” (VOAL) という算式を生み出した。


VOAL = (L/UpM) * (LpD*30) * (C/L) * CR * ACV

L (Total Likes): あなたのソーシャルメディアアカウントに繋がっている人達の数。フェイスブックでは「いいね!」の数であり、ツイッターではフォロワー数となる。

UpM (Unlikes-per-Month): 一ヶ月間にあなたのソーシャルメディアアカウントを好きではなくなった人達の平均数。フェイスブックでは「いいね!」の取り消し数、ツイッターではフォロー解除数となる。

LpD (Links-per-Day): 一日当たりあなたがリンクを投稿する平均数。フェイスブックではあなたのサイトに導くリンクの一日当たり投稿数であり、ツイッターではそうしたリンクを一日につぶやく回数である。

C (Average Clicks): あなたのソーシャルメディアアカウントのリンクからあなたのサイトに訪問した人達の数。

CR (Conversion Rate): あなたのサイトの訪問者が購買したり、見込み客(lead)となったりする平均的比率(転換率)。これはあなたのサイトを訪問した全ての人達の平均値であるが、あなたのソーシャルメディアアカウントからのトラフィックに絞ることで、より正確に測定することができる。

ACV (Average Conversion Value): あなたのサイトの訪問者が転換したこと(購買すること、見込み客となること)の平均的な金銭価値。CR同様に、あなたのソーシャルメディアアカウントからのトラフィックに絞ることで、より正確に測定することができる。


L/UpMは、個人ユーザーがあなたのソーシャルネットワークを購読してくれると推定される平均的期間を表している。そして、算式の残りの部分はその期間中にあなたのサイトリンクを見る回数と転換のもたらす価値ということになる。そしてこれらの計算を簡単に行うため、ValueofALike.comというサイトが作られている。

2012年11月28日水曜日

アウトカムとアウトプット


HBR Blog Networkの"It's Not Just Semantics: Managing Outcomes Vs. Outputs" by Deborah Mills-Scofieldをポイントのみ抄訳。


Outcomes are the difference made by the outputs.
アウトカム(成果)はアウトプット(結果)により生み出される。


高速道路建設の例で言えば、建設または補修された道路の距離はアウトプットにあたり、スムーズな交通の流れ、移動時間の短縮、交通事故の減少などがアウトカムとなる。


Outputs are important products, services, profits, and revenues: the What. Outcomes create meanings, relationships, and differences: the Why.
アウトプットは製品、サービス、利益、収入といったもの(the What)である一方、アウトカムは意味、関係、変化をもたらす(the Why)。


Business in the 21st century needs more focus on outcomes than outputs.
21世紀のビジネスはアウトプットよりもアウトカムが重要になる。

(アウトカムの事例)
  • 自動車の購買意欲はあるが、ディーラーまで行けないほど忙しい人に対して、ディーラーは自動車の販売から受け渡しまで行い、その顧客のスケジュールを全く邪魔しない。
  • 食品会社から品物を受け取り、パッケージする会社が、売れるパッケージの提供だけでなく、売り場でのポジショニングまで対応することで、消費者への見せ方を総合的に引き受ける。

ちなみに、これらの概念については、平成17年度科学技術振興調整費報告書 「研究開発のアウトカム・インパクト評価体系」がうまくまとめている。

2012年11月27日火曜日

戦略的ディスカウント

HBR Blog Networkの”Holiday Discounts Are a Dangerous Drug” by Marco Bertiniの抄訳。


アメリカの小売業において、11月下旬から1月上旬の年末商戦は年間売上高の30%を占めるほどに大きな影響がある。そして、小売業者は早さ、程度、期間という点で全面的な価格競争に入ることを選択してしまう。

しかし、プロモーションキャンペーンに失敗すると、売り上げの増加と同じくらい容易にそのブランド、ビジネスの基盤が損なわれてしまう。消費者がディスカウントに慣れてしまい、売り上げのテコ入れには更なる値下げが必要になってしまうのである。こうした事態を避けるため、どのようにそのプロモーションを行えばよいか、7つのポイントをまとめている。

· 顧客との会話のきっかけとする
ディスカウントを、顧客にとっての単なるインセンティブとせずに、集めた注目を新製品の特徴、企業の評判や価値観についての対話を始める契機として活用する。

· 対象顧客を選択するようにする
ディスカウントを差別的に提示することにより、望ましい顧客とそうではない顧客に線引きをし、それによって競争環境下でのポジショニングを確立する。

· 条件付きにする
ディスカウントを顧客に提案する際、コストを低減させるような行動(オンライン購入)、売り上げを増加させるような行動(2個セットでの購入)を行ってもらうよう依頼する。

· ブランド価値を高める
一般的にディスカウントはブランド価値を損なうものと考えられているが、そうなるのは顧客がその値下げをご褒美ではなく、販売のための説得手段として用いられていると認識した場合だけである。そのブランドの本質を表すような行動をとる顧客に対してディスカウントを行うのである。

· 差別化する
簡単には模倣できないように、プロモーションそれ自体のブランディングに取り組む。

· 様々な状況に対応できるようにする
ベースとなる売り上げの基準を設定し、パフォーマンス測定のために参照する。

· 計画的にj実施する
ディスカウントを行う前に、出口戦略を策定し(何をプロモーションの目標とするか。)、それにコミットしておく(その目標が達成できた時点で、そのプロモーションを終了する。)。

2012年11月26日月曜日

クリエイティビティの契機とその障壁への対応

HBR Blog Networkの”Fighting the Fears that Block Creativity” by Tom Kelley and David Kelleyの抄訳。


GEヘルスケアにおいてMRI装置を担当していたDoug Dietzは、病院を訪れた際、MRI装置に入るのに脅え、泣いている子を見て、「目立つ箇所、新機能、自分たちがどれだけ賢いかに捉われ過ぎて、全体像を見失っていた。」と気づき、それから小児患者のMRI経験の改善に取り組むようになった。

上司に相談したり、スタンフォード大学のd.schoolを受講したりした後、Dietzは子ども博物館の小児学習の専門家や地元小児病院のチャイルド・ライフ・スペシャリストを含むボランティアで、小さなチームを作り、子どもたちがどのようにMRIを体験しているか、総体的な検討が始まった。

そして、複雑な機械の内部には変更を加えずに、MRI室までをも含む外部全体を、宇宙への旅、海賊船の航海を連想させるようなカラフルなステッカーで飾るようにした。また、MRI室のオペレーターが子どもたちを誘えるように想像的な原稿も用意したりした。

これらの単純な変更が大きな変化をもたらし、小児患者への鎮静剤使用量の減少、家族の満足度の大幅な改善といった成果が上がった。また、この手法はCT、PAT、X線を使う際にも用いられ、同様の成果が上がった。そして、Dietzにとっての本当の成功の証は、また来たいという子どもの声を聴いた時であった。

Dietzの行動から見えてきた、クリエイティブになる上で恐れてはいけない四事項は以下のとおりである。
  • デスクを離れ、現場で直に気づきを得ていくことで、まだ整理されていない未知のものに挑戦する。 
  • 成功させるため再考したいと思った時も、上司の査定など周囲の評価を気にせずに取り組む。 
  • 社外人材巻き込むとき、コントロールが及ばなくなることを受け入れる。
  • 即座に第一歩を踏み出す。

2012年11月24日土曜日

イノベーション・パフォーマンスの高め方

HBR Blog Networkの”Solving Your Biggest Innovation Challenge” by Martia Capozzi and Ari Kellenによれば、競争環境を変えてしまうようなイノベーションは、顧客、従業員、株主の誰にとっても好ましいものであるが、大企業にとっては困難な課題である。そこで、代わりに"innovation at scale"(コアビジネスに立脚した上で、新たな製品、サービス、ビジネスモデルによる、反復可能で持続可能な有機的成長を成し遂げること)が推奨されている。

このアプローチも決して簡単なものではないが(調査では6%の企業しか継続的にこうした取組を行っていない。)、全く新しい市場を開拓するよりは手掛けやすいものである。"innovation at scale"を成し遂げるのに必要な要素は以下のとおりである。

1.戦略面
まずは、自己の保有する資産、能力、そして成功をもたらす要素を深く理解する必要がある。戦略が重要であるのは、それがイノベーションを促進するのに必要な構想や焦点を形成するからである。それによって、単にイノベーションに取り掛かるよりも(従業員が)積極的にリスクを取れるようになる。

2.組織面
· イノベーションは小事ではない。
イノベーションを戦略的な計画策定、予算付け、資源配分に統合している企業は、目標を達成しやすい。リーダーシップ(特に経営幹部のリーダーシップ)はイノベーションの成果と密接に関連している。

· オープンで居続ける。
顧客、従業員、その他の利害関係者のアイデアを活用するため、多くの企業がオープンイノベーションの考えを取り入れているが、取り組むべき諸アイデアが定まると、その取り組みは直線的なものとなってしまいがちである。市場動向に留意しつつ、迅速なイノベーションに臨むことで、アイデアをさらに洗練させていくことができる。

· 実行に適した体制を構築する。
組織設計(イノベーションセンター、インキュベーター、研究所)とイノベーションとの間にはっきりとした相関関係を見つけることが難しいが、少なくとも人材を結びつけ、資源を配分し、進捗を把握するという意味では有益である。

· 人材を厳選する。
ボランティアによるプロジェクトの成果は、役割に応じて選出された人材によるプロジェクトのそれを下回る傾向がある。意欲は重要であるが、それでは必要な専門知識と能力を代替できない。

"innovation at scale"
http://ecorner.stanford.edu/authorMaterialInfo.html?mid=2798

2012年11月22日木曜日

アメリカの子どもたちもアップルがお好き(ニールセンのアンケート結果)

米調査会社ニールセン (Nielsen)では、毎年クリスマス商戦が本格化する11月下旬に、子どもたち(6-12歳(小学生)と13歳以上(中高生))がこれから6か月の間に欲しいと思うエレクトロニクス製品(ゲーミング)のアンケート結果を発表している。今年も昨日発表され、相変わらずアップル製品が圧倒的に高い人気を誇っていることが明らかになった。







このアンケート結果を眺めていて気付いたことを残しておく。

1.調査結果からクリスマス商戦での各製品の成否を正確に予想することはできない。
各回答者の欲しいモノリスト内での順位づけは、少なくとも公表されているデータからは分からない。いくら欲しいと思っていても購入できる、または購入してもらえるのは1、2個であろうから(サンクスギビングとクリスマス)、実際の売り上げという観点からは予測が立てづらい。

2.低年齢層ほど欲しいと思う製品を絞り込めていない。
このアンケート調査は複数回答が可能となっているようであるが、6-12歳の方が13歳以上よりも興味を持つ製品を多く回答している。

3.直近3年間(2012年2011年2010年)の順位を見ると、以下のような傾向がある。
・6-12歳ではコンピュータの人気が大きく下がっている。
・13歳以上ではテレビの人気が大きく下がっている。
・言わずもがなであるが、ゲーム機市場はアップル製品(タブレット、スマートフォン)に飲み込まれてしまっている。

2012年11月21日水曜日

イノベーションの浸透(技術とビジネスモデル)

HBR Blog Networkの”When Business Models Trump Technology” by Karan Girota and Serguei Netessineでは、新技術を普及させるためには新しいビジネスモデルについても考える必要があることを点滴灌漑 (drip irrigation) の事例を用いて説明している。


過去50年の間に人口が倍増し、世界中の多くの地域において灌漑用水は農業生産にとって致命的な制約要因となってきている。こうした問題を解決する手段として点眼灌漑が注目されているが、それ自体は新しい技術ではなく、120年以上前からあったものである。最近注目されるようになったのは、イスラエルのNetafirmが、ビジネスイノベーションにより商業化に成功し、商業用小規模灌漑設備市場において1/3以上のシェアを誇るようになったからである。

だが、当初から上手くいったわけではない。Netafirmは点滴灌漑に近代的な電子制御技術を導入し、収穫量を3~5倍増加させることに成功したが、そのシステムが注目を浴びるようになるのは容易ではなかった。売り手と買い手の間での新技術に係る情報の非対称性、インセンティブの非対称性(Netafirmは売上の最大化、農家はROIの最大化。)が導入の障壁となったのである。

こうした課題を解決するため、Netafirmは”IrriWise Crop Management System”という新しい提案を始めた。それは、システムデザイン、必要な全てのハードウェア、備え付け、システムの定期運転を全て統合したものであり、最も重要なのはNetafirmが自らコストを負担して導入し、その分収量増加の配当をより多く受け取るようにしたことである。これにより、Netafirmの目標は収量を最大化することとなり、情報とインセンティブに係る問題が解決された(Netafirmの綱領も「顧客にとって最高の点滴灌漑設備を造る」から「より効率的に世界が成長することを手助けする」に変更された。)。実際、このビジネスモデルは成功し、大きな成果が双方にもたらされた。

この供給側が設備導入のリスクを引き受け、成果の配当を後回しにするモデルには以下のような利点があった。
  • 専門知識と最新の予測技術を持つNetafirmと農家の間にあったリスク認識の格差が解消された。 
  • 実際、規模と多様な市場基盤を有するNetafirmのほうがより上手くリスクをコントロールできた。

2012年11月20日火曜日

チームの規模とパフォーマンスとの関係

HBR Blog Networkの”Why Less Is More in Teams” by Mark de Rondでは、チームの人数とパフォーマンスとの関係についてまとめている。


100年前、フランス人エンジニア、マクシミリアン・リンゲルマン(Maximilien Ringelmann)による簡単な綱引きの実験において、人間の努力はチームが大きくなるほど急激に小さくなることが分かった(リンゲルマン効果)。実験では、8人で引っ張る力は4人で引っ張る力に及ばなかった。当時は、(目的を達成するために必要な)労力を調整することの難しさに起因するものであるとの理屈付けが行われた。

1970年代、これに素晴らしいひねりを加えたのが、アラン・イングハム(Alan Ingham)達である。以下の二つの実験結果の比較である(①上記と同様の単純な綱引き、②参加する他のメンバーには知らせずに、何人かの参加者にロープを引く振りだけするように指示した上での綱引き)。実験の結果、何も知らなかった参加者が示した労力は、どちらの場合でも変わることがなかった(社会的手抜き(social loafing):人数が多くなるほど、結果に対する責任感が小さくなり、労力を投入しなくなる)。

その後、様々な課題に係る同様の実験が行われたが、人々は4人、せいぜい5人のチームを好むことが分かった。それ以下の人数では効果的に取り組むには少なすぎると感じられ、それより多いと手が抜かれるのである。ただ、課題の困難性・複雑性については説明しきれない面もあり、仕事への適用可能性については留保が必要である。

チームの規模を変更することができない場合の対応策については以下の4つの選択肢がある(何もしないで手をこまねいていると、ハイパフォーマーは手を抜いているメンバーをそのままにしている組織に対して不信感を抱き、去っていくだろう。)。
  1. 複雑な課題を管理可能なように分割する(各メンバーが責任を負うべき領域を明確にする。 )
  2. 緊急的状況にあるという感覚を醸成する (自分自身のことよりも優先されるべき事項を与えるということになるが、継続的に行うのは難しい。) 
  3. パフォーマンスの低いメンバーがより多くの責任感を感じるようにする 
  4. フィードバックをオープンに行うことで透明性を高める(怠け者が隠れられないようにする。)

2012年11月15日木曜日

リベートから学ぶ差別的価格政策の重要性

HBR Blog Networkの”Why Rebates Encourage Tax Evasion” by Rafi Mohammedでは、リベートを例に、差別的価格政策の重要性について説明している。


典型的には、差別的価格政策(顧客ごとに異なる価格を課す戦略)の一形態として用いられる。目を引くような割引価格を、「リベート後」という小さな注意書き付きで大きく宣伝したりするのである。リベートを受け取るためには、応募し、手続きを待ち、リベートチェックを現金化するという作業(時間と労力の手間)が必要であり、価格に敏感な顧客を特定するのに役立つ。また、実際に換金するのは、平均的に対象者の50%に過ぎないというデータもあり、実施的に差別的価格政策としての役割を果たすこととなる。

これに加えて、節税・脱税といった観点から、リベートは購入者に好まれたりもする(小売業者としてそういった行為を推奨しないとしても)。たとえ最終的に負担する額が1ドルだとしても、リベートを受け取る前に5ドル支払っていれば、その額でレシートが発行されるため、法人税の申告に際して、容易に控除することができてしまう。特に、消耗品を継続的に大量購入するような企業に対して大きな意味を持ち得る。

全てのビジネスに共通する教訓は、異なるセグメントの顧客には異なる価格付けを行う必要があるということである。利益と成長を実現するためには、可能な限り詳細にセグメンテーションを行い、それに対応した価格付けを行うことが重要である。


差別価格については、経済学で独占的企業が国毎に異なる需要曲線を踏まえ、異なる価格設定を行い、利益を最大化するという話がすぐに思い浮かぶが、現在では、ネット経由の購買であれば、各人の選好を反映した価格付けや時間に応じて価格を変化させることも容易にできる。

ただ、リベートの利点は、必ずしも換金されないという点にある。換金に係る手間を考慮すると、確かにリベートが購買意思決定に及ぼす効果は値引きに比べて小さくなるが、50%という換金率は通常の値引きに比べて費用を半減させた上で、その効果を享受できるということを示しており、魅力的であることは間違いない。

2012年11月12日月曜日

カタリストを活用した大企業によるビジネスモデルイノベーション

HBR の2012年9月号の” The New Corporate Garage” by Scott D. Anthony によれば、アップルに代表されるように大企業でもパラダイムシフトをもたらすようなイノベーションを生み出せるようになってきている。具体的には、大企業の中にいるアントレプレナー(起業家精神を持った人材)やカタリスト(触媒的機能を果たす人材)が、会社の資源、規模、他にはできないようなやり方で地球的課題に対するソリューションを生み出す機敏さ、を活用してイノベーションを生み出すようになってきている。


イノベーションの歴史
  • イノベーターが個人として活躍した第一期(~1915年頃) 
  • イノベーションの複雑化、高コスト化により企業(研究所)主導の取組が主となる第二期(~1950年代) 
  • 企業が過度に大きくまた官僚的になったことに伴い、VCの支援を受けたスタートアップが隆盛する第三期(20世紀後半) 
  • これまでの技術的革新に加えてビジネスモデルのイノベーション(アマゾン、スターバックス、オートネーション(米国の自動車小売最大手で、ネットでの新車・中古車販売を行っている。))も含むようになった第四期(2000年くらい~) 
に分類され、現在、オンラインツールによりイノベーションに係るコストが著しく低下したことにより、起業が容易になる一方、その後の競争が激化、長期化している。


企業におけるカタリストの役割
企業は、戦略とイノベーションに係る活動を分権化、分散化するに連れて、その敏捷性が増し、カタリストにとって快適な環境となってきている。カタリストは、地球的規模の課題解決のような大きな野望によって動機づけられいる。そして、イノベーションを生み出すため、会社内部と外部との間にネットワーク若しくは連携を形成するといった役割を果たしており、以下のような事例がある。

メドトロニックの健康な心臓プラグラム
ビジネスモデルイノベーションの事例として、医療機器を製造販売するメドトロニックが、インドにペースメーカーを浸透させていく際に、地方における無線通信を活用した遠距離診断、地場のパートナーと連携による低所得者のためのファイナンスの開発、地元のドクターとの強い関係構築、ペースメーカーの認可等に総合的に取り組んだことが挙げられている(個々の項目としては模倣可能であるが、全体的に行うのは(少なくともスタートアップには)容易ではない。)。さらに、健康な心臓プログラムは、インドでのプレゼンスを増大させるビジネスモデルの構築を指示されたKeyne Monsonという同社のカタリスト(触媒として機能する人材)が、インド支社内の賛同者を見つけ、また外部の協力者(アショーカ財団)を初期の段階からプロセスに参画させ、協働することで成し遂げられた。

・ユニリーバの持続可能な生活計画
同計画の一つの取組として、発展途上国の人々に安全な水を届けるため、ユニリーバはYuri Jain副社長に世界の浄水ビジネスを任せることとした。彼は、全世界のユニリーバの研究者100人を動員し、品質を保ちながら低価格な家庭用浄水器ピュアイットを開発し、また学校や消費者にこの新技術を受け入れてもらうため、外部の協力をリストアップし、NGOをパートナーとするなどしている。

シンジェンタの生産的な農業
アグリビジネスを世界的に展開するシンジェンタは、それまで大規模農場に集中していたが、革新的な手法で飢餓に取り組むため、Nick Musyokaを全く分野の異なる消費財メーカーから招いた。彼はカタリストとして、1980年代に登場した小袋モデル、そして小売業者を通じた小規模農家の教育を通して世界中の小規模農場の生産性改善に取り組んだ。

・IBMのスマートシティ
IBMにおける発明の大家であり、カタリストでもあるColin Harrisonは、パルミサーノCEOに直接報告できる本社戦略チームにベンチャー的環境を形成するため、抜擢された。IBMは、研究開発からマーケティングまで、VCに支援されたスタートアップには望むべくもない、その多岐にわたる資源を有しながら、イノベーション第三期の間はその統合に苦労し、うまく活用できていなかった。具体的には、サービスに係る識見、ウェブの結合性、そして物理的センサー、作動装置、RFIDチップを用いた効率性の改善をどのように結び付ければよいかということであったが、Harrisonはアブダビの二酸化炭素中立、ゼロエミッションを目指す都市計画プロジェクトに出会い、そして個別のインテリジェンスを統合するスマートシティという発想に到達した。

こうしたカタリストが企業内で活躍できるよう、企業はオープンイノベーション、システマティックなイノベーション、意思決定メカニズムの簡素化・分権化、学習への集中、失敗に対する寛容を成し遂げる必要がある。そして、カタリストのような高度人材を惹きつけるには、経済的インセンティヴではなく、自己決定権、専門的追及への機会付与、目的意識の刷り込みが必要となる(Daniel H. Pink “DRiVE”)。


この論文では、各時代状況に応じたイノベーションの作法が検討され、現在はビジネスモデルイノベーションの時代であり、その担い手は大企業であるとしている。具体的には、大企業がその豊富な資産という強みを活かしつつ、柔軟性の欠如、視野の狭さといった弱みをカタリストを活用して克服していくというかたちが提唱されている。この点については全くそのとおりであるが、そもそもイノベーションとは多くの失敗の上に積み重ねられるものであり、必ずしも成功するものではないことを考えると、挑戦の数を増やしていくことも重要である。そうした観点からはカタリストとなるべき人材の育成、各従業員のカタリスト的要素の涵養により、組織全体でイノベーションを行うような仕組みづくりが必要であり、それはカタリストと協働した従業員が、その思考、経験を伝播していくことにより、可能となると思われる。

2012年11月9日金曜日

消費者の行動を変化させる(ユニリーバの取組)

HBR Blog Networkの”Change Consumer Behavior with These Five Levers” by Keith Weedによれば、 環境負荷を低減させようとしている消費財メーカーは、自らがコントロール可能なプロセス(生産、流通等)よりも多くのインパクトが、直接的にはコントロールできない、消費者の利用過程からもたらされているという課題に直面している。

そこで、ユニリーバによる持続可能な生活計画の成功をもとに、ブランドを活用して消費者の行動を変化させることにより、製品のライフサイクルを通じての環境貢献を果たす5つの手段についてまとめている。


1. 理解してもらう 
人々に自らの行動とその影響について気づき、受け入れてもらう。
ユニリーバは、手に付いている目に見えない細菌が自分たちの石けんを使用した後に無くなっている様子をCMで流している。

2. 容易にする
人々に促す行動について知ってもらい、それに自信を持ってもらい、そして自分の生活様式に適合していると理解してもらう。
ユニリーバは、手で洗濯を行う、水へのアクセスに限界がある人々に柔軟剤を普及させるため、すすぎがバケツ一杯の水で済むということを、実演やサンプルの配布で理解させていった。

3. 望ましいものにする
新しい行動が、人々の現実のまたは望むセルフイメージに適合するようにする。
幼児の死亡率を低下という観点で言えば、母親たちの良い母親になりたい、またはそのように見られたいという願望が、ユニリーバの石けんを利用することで満たされるようにした。

4. 報いられるようにする
正しい行動をとることが報いられることを知ってもらう。
ユニリーバは、シャンプーを泡立て、髪につけている間、シャワーを止めることで、光熱水費が節約できることを啓蒙している。

5. 習慣づける 
一度新しい行動を取ってもらったら、それを無意識に続けてもらうよう、再強化、再認識させていく。
ユニリーバは、その手洗いキャンペーンを少なくとも21日間以上実施している。 



ユニリーバの取組は、幼児の死亡率、人々の衛生管理等の社会的問題を事業を通じて、持続可能なかたちで解決できることを示している。ソーシャルアントレプレナーと同様のことは既存企業にも実施可能であり、それによってまたビジネスチャンスも広がり得るということである。そして、そのためにはブランドを活用して消費者の意識に働きかけることが万能ではないにせよ、効果的であるということである。

2012年11月6日火曜日

巨大かつ俊敏な組織のつくり方

HBR Blog Networkの”Can Bigger Be Faster?” by Mark Boncheck and Chris Fussellは、自然界においてはトレードオフの関係にある規模とスピードを、組織が同時に達成する方法についてまとめている。


Geoffery West: The surprising math of cities and corporations“に依拠しつつ、生物界と都市を対比させ、ネットワークにより規模とスピードを同時に達成することが可能となるとしている。都市、コミュニティ、フェイスブックやツイッターのようなバーチャルなコミュニティは脳と同様に、規模が大きくなるほど変化に富み、創造的になるという特徴を有している。


そして、残念ながら現代の企業はそのトレードオフから抜け出せていないが、組織をネットワークとして再認識することにより変化できるとして(お手本として、9.11を契機にネットワークに取り組んだアメリカ軍が挙げられている。)、そのための4つの戦略を提示している。

(1)関係の構築
通常、企業内の各個人はその上司、同僚、直属の部下といった関係しか形成していないが、まずはより多くの関係(特にこれまで組織間の繋がりがなかった部分において)を構築することから取り掛かる必要がある。

(2)目的の共有 
合意、そして目的を共有しているという意識を形成することにより、協働が可能となる。

(3)意識の共有 
現在地と目的地を認識し、また共有することで、迅速かつ効果的な行動をとることができる人間に情報が提供されるようになる。

(4)反対(多様性)の促進 
服従ではなく多様性に適合するにより、集団思考、イノベーション、組織的頑健性を生み出す。


この投稿では、フォーマルな組織の中でのネットワークがテーマとなっているが、定型的業務、組織的階層に基づく関係に比べて、より広範囲かつ関連性の薄いノード間でコネクションを構築、維持するにはかなりのコストがかかる。そのため、現実のところ、その多くはインフォーマルな関係として成り立っているのではないだろうか。

2012年11月4日日曜日

マーケットリサーチを最大限に活かす

HBR Blog Networkの”Using Market Research Just for Marketing Is a Missed Opportunity” by Werner Reinartz によれば、ほとんどの企業がカスタマーインテリジェンス(顧客データの収集と分析)を顧客との関係構築、改善に利用している。顧客の購買サイクルを知ることでより効果的にプロモーションできるようになるということである。しかしながら、そうした情報をイノベーションに利用できている企業は少ない。


まず、既存顧客から集めたデータを新製品や新サービスの開発に結び付けることができる。フォークリフトを製造しているFenwickでは、センサーとRFIDを使って各フォークリフトの利用状況に係る情報を集め、遠隔監視、イントラネットの開発、運転手への講習といったサービスを開発し、そうしたサービスからの収入が売り上げの半分を占めるまでに成長しているという。

また、インターネットに係るカスタマーインテリジェンスについて、購買プロセスの簡易化、購買履歴、輸送状況の追跡、製品への感想といった既存顧客に係る情報だけでなく、潜在的顧客がネットに発信している情報を分析することで、その可能性をより広く捉えることができる。

例えば、ドイツ最大のヘアケア製品会社であるSchwarzkopfでは、自社サイトのパフォーマンス(トラフィックやセールス)を向上させるため、数百万人がブログにポストしたヘアケアに係る情報の分析を行った。その結果、顧客がブランドや製品の特性よりもそれぞれのヘアケアの問題を気にかけていることに気付いた。そして、ブランドや製品のリストに代えて、髪の特徴にフォーカスして自社サイトを再構築することによって、そのトラフィックを3倍にすることに成功した。

こうした情報を入手するための課題は、自らにとって最良のデータが存在するオンラインの場所や集団を特定することにある。



なお、Schwarzkopfの事例については、パフォーマンスの向上が主にトラフィックの増加によるものであるという点に注意が必要であるように思われる。サイトを確認してもらえれば分かることであるが、髪に係る情報は豊富に提供されているが、個別製品に係る情報はあまりなく、また目立つようにも配置されていない。おそらくウェブではヘアケア市場におけるブランドの強化、新規の見込み客の呼び込みにのみ注力し、直接的な売上アップは店頭やCM等、別のポイントで行おうと考えているのであろう。

2012年10月31日水曜日

イノベーションを起こす3つのアプローチ

HBR Blog Networkの”The Less-is-Best Approach to Innovation” by Matthew E. Mayは、余分なものをそぎ落とす引き算の発想により、イノベーションに至る3つのアプローチを紹介している。

機能を絞り込む 
今ではフェイスブックに買収されるほどに成長したインスタグラムであるが、その成功はユーザーに提供する価値を明確化し、ユーザーが使いやすいように機能を絞り込んだことにあった。

手綱を緩める 
· 役職のないフラットな、チームワーク重視の企業、Gore-Tex。
· 上司のいないビデオゲーム会社、Valve。
· 自分のスキルを元に、その追求すべきタスクを自ら発掘することを求めるトヨタ。
· 社長や上司のためではなく、顧客のために仕事をしろと言って、全ての管理部門を廃止したフランスの自動車部品会社(従業員数600人)、FAVI。

神経を落ち着かせる
例えば、瞑想することにより、意識を高め、集中力を上げ、そして創造的な閃きが生まれる。瞑想は実際、グーグル大学でも2007年からコースの一つとして取り上げられている。


単に思いついたものを書き連ねているという感じで、正直使いづらいが、備忘録として。

コンテンツマーケティングの効果測定方法

Content Marketing Instituteの”Measuring Marketing Effectiveness: 6 Metrics You Need to Track” by Kevin Cainでは、コンテンツマーケティング顧客が必要とする情報を理解し、それを適切にコンテンツとして提供することで、購買につながる行動を引き起こす手法)を改善していくにはまず効果測定が必要だとして、フォローすべき6つの指標を紹介している。


1. ウェブサイト訪問者数 (Unique visitors):
会社規模、産業、コンテンツ供給量によって大きく異なる。

2. ページ閲覧数 (Page views):
ウェブサイト訪問者に訴求するコンテンツを、どの程度供給できているかを示す。

3. サーチエンジン経由数 (Search engine traffic):
検索エンジン最適化 (Search Engine Optimization) が効果的に行われているかを示す。

4. 直帰率 (Bounce rate):
一つのページを見ただけでそのウェブサイトを去っていく閲覧者の割合。40%以下であれば良いとされる。

5. 顧客転換率 (Conversion rate):
ウェブサイト訪問者のうち、その促そうとした行動を取った訪問者の割合。産業によって大きく異なるが、平均的には2~3%となる。5%くらいを目指すのが良い。

6. インバウンドリンク数 (Inbound links):
ネット閲覧者を(自社)ウェブサイトに誘導してくれる外部リンクの数。


当然、上記指標を活用する前に、コンテンツマーケティングを理解しておく必要があるわけであるが、以下のインフォグラフィックが参考になる。

2012年10月27日土曜日

マネジメントの簡単な秘訣

Inc..comのGeoffrey Jamesによる”World’s Simplest Management Secret”では、世界で最も簡単なマネジメントの秘訣を紹介している。


人間を集合的にマネジメントすることはできない。マネジメントできるのは個々の人間のみである。

みんなの前で称賛されることで成長する者もいれば、そうしたことを不快に感じる人間もいる。
金銭的報酬が全ての人もいれば、課題に挑戦することで駆り立てられる人もいる。
メンターが必要な人もいれば、そうでない人もいる。

ポイントは個々人をその望むようにマネジメントすることであり、そのためには個人個人に尋ねてみるしかない。「どのようにマネジメントされたいか。」、「あなたの成長、成功を支援するために自分に何ができるか。」、「どのようにマネジメントされるのは嫌か。」等、しっかり聞き取り、可能な限り、コーチング、モチベーション、報酬を各個人に合わせて調節する必要がある。 



各個人に適合した個々のマネジメント手法も重要であるが、そうした手法を採用するに至る過程で各個人の意向を汲み取る仕組みがあるということも納得感の醸成に繋がると思われる。

また、このような個々の社員にコミットできる仕組みを、それに見合ったコストの範囲内で構築できるかどうかが組織としての成否の分かれ目になるのだと思われる。

2012年10月22日月曜日

ビッグデータの初歩

HBR Blog NetworkのAlex “Sandy” Pentlandによる”Predicting Customers’ (Unedited) Behavior”と”Big Data’s Biggest Obstacles”から、ビッグデータについてまとめます。


まずビッグデータとは、人々の行動結果について、フェイスブックへの投稿、グーグルサーチの結果、携帯電話からのGPS情報、RFID (Radio Frequency Identification) の商品管理情報等、網羅性、客観性を兼ね備えた大量の一次情報を解釈して提供するものである。


人々の行動は社会的文脈によってかなり決定づけられ、またそれはかなり予測できるものであるということから、ビッグデータを活用して人々の行動と結果との間の関係性を発見するという分析がかなり進んできている。これまでは複雑性の科学やウェブサイエンス・エンジニアリングという領域で研究されてきたが、政府、企業をはじめとするあらゆる社会的文脈を組み込み、人間とアルゴリズムをまとめて扱うものとなっている。


ただ、それらを有効利用するためには、データのサイズやスピードではなく、データの関係性をどのように分析し、新たなシステムを生み出すかという点に取り組む必要があり、以下に掲げるような問題をクリアしていかなければならない。

相関性の問題
データが大量であるほど、統計的に有意な結果が得られやすいが、ビッグデータの場合、本当なのか、因果関係はあるのか、単なるエラーなのではないか等の疑問が発生するような、利用価値のない結果が出ることが多く、実世界で因果関係を検証するような仕組みが必要となってくる。

人間知性の問題
ビッグデータで得られた分析結果をどう解釈するかということである。最近、マシンラーニングの領域で発見された結果のうち70~80%は誤っている可能性が高いという推計が発表された。取得したデータに係る統計結果が、人間の直観や因果関係という観点から分析されておらず、使えないということだ。

情報の出所の問題
分析に必要なビッグデータを使用可能な状態で収集しきれないことがある。そうした場合は企業内の情報共有方法の見直し、顧客や他の企業との連携といった対応が必要である。

プライバシーの問題
経済産業省の委託研究として野村総研が行った「平成23年度我が国情報経済社会における基盤整備」の104ページ以降に記述があるので参照されたい。また、アメリカのホワイトハウスがまとめた”Consumer Data Privacy in a Networked World”も消費者データに係る考え方や取り扱い方についてまとめている。

2012年10月18日木曜日

神経科学の知見を活用した組織改革

HBR Blog Networkの”This is Your Brain on Organizational Change” by Walter McFarlandによれば、激化する競争、グローバリゼーション、技術革新、金融不安、政治的不安定、そして変化する労働力構成などがよりスピーディに、またこれまでとは違う形での組織変化を求めているのに対し、学問的にも、実践的にも十分な発展が見られていない。


いくつもの課題のうち、重要なものの一つとして、従業員をうまく関与させられていないということが指摘されている。組織改革より新規の組織設立のほうが楽だと言われるくらいに。具体的には、「人間の持つ変化への抵抗」が大きな障害となっているわけであるが、どのようにすれば、従業員の支援と創造力(組織改革の際に最も重要な属性)を効果的に引き出すことができるのであろうか。


神経科学、特に脳に係る研究(社会、認知、情動)が、現実に応用可能な知見を提供している。2012NeuroLeadership Summitにおいて、神経科学と組織改革の繋がりについて以下のような点が議論されている。

・現在進行形
変化は常に従業員を恐れさせ、また驚かせる。

・火事場の演出の必要性
従業員を駆り立てるために、明示的、黙示的に恐れが利用されている。

・トップダウンの組織改革
ごく少数の人間によって改革が主導され、コミュニケーション不足やその失敗が見られる。

例えば、「火事場の演出の必要性」について、神経科学の見地からは、従業員をプラスの方向に導くというよりは不快にさせるものであるということが分かっている。また、「トップダウンの組織改革」については、恐怖を引き起こすに過ぎない。


職場における社会的側面をより良くマネジメントしていくには、ステータス、確実性、自律性、関係性、公平性といったニーズが満たされる必要がある(SCARF model)。こういった点を考慮し、以下のように変化をこれまでと違った観点から捉える必要がある。まずは、人間というものをモノではなく、競争力の源泉として捉える。つまり、組織改革を常在する危機としてではなく、組織をより良くマネジメントするために必要な準備をするためのものと捉えるということになる。


SCARF model(スカーフモデル)



人間の脳の統制原理は危機の最小化と報酬の最大化に集約され、リーダーやマネジャーが影響力を発揮するにはこの点を念頭に置かなければならない。具体的には以下の5つの要素を考慮する必要がある。

Status(ステータス) 周囲の人間との関係において自分がどこに位置しているか、どれだけ重要であるか。

Certainty(確実性) どれだけ未来を予測できるか。人間の脳は常に安定性を求め、あいまいな物事を予測しようと働いている。

Autonomy(自律性) 人間は自ら統制できない、選択できない状況に対してストレスを感じる。

Relatedness(関係性) 敵よりも味方といるときのほうが安全と感じること。知らない人間の中に投げ込まれたときに、たとえば会社においてバーチャルなチーム、多様な出自を持つ人間によって構成されるチームで活動する際に、人間はストレスを感じる。

Fairness(公平性) 人々の間で等価交換が行われているという認識。評価の透明性、客観性が重要となる。

2012年10月13日土曜日

マクドナルドから学ぶ現地化のポイント

HBR Blog Networkの”McDonald's' Local Strategy, from El McPollo to Le McWrap Chèvre”by Nataly Kellyでは、各地域に合わせたメニューを提供することでグロバールに成功しているマクドナルドから現地化のポイントを抽出している。


1. ブランドと商品を混同しないこと
マクドナルドというブランドがハンバーガーと強く結びついていることは確かであるが、各地域のメニューに必ずしもハンバーガーがなければいけないというわけではない。実際、マクドナルドはインドでベジタリアンのための店舗を導入している。

2. どの商品が国際的な訴求力を持っているか理解すること
(ここでいう国際的な訴求力とは、地域を選ばず受け入れられ、また魅力的であることを意味している。)
どの企業にもそういった商品はあるものであり、マクドナルドで言えば、フライドポテトとシェイクがこれに当たり、世界中のほとんどの地域で通用する。

3. 新たなブランド属性を築くチャンスという観点から新興市場を捉えること
マクドナルドはアメリカで誰もが食べに行くところとして考えられているが、中間所得層が増大している多くの新興国ではマクドナルドで食事をすることがステータスシンボルとなっている。対象とする市場によってブランドの持つ意味が変わりうるということである。

4. 未来を見据えて、潜在性を持つ多くの小さい市場に目配りすること
多くの企業が現在の主要な市場に目を奪われるという過ちを犯している。マクドナルドの売り上げのうち、70%はオーストラリア、カナダ、中国、フランス、ドイツ、日本、イギリス、そしてアメリカから上がっているが(年間売上200億ドル程度)、残りの30%にも注意を払っている。後者の国々の購買力が上昇するにつれてその全体売り上げに占める割合も上昇していくであろう。

5. 顧客にその思うところを伝えてもらうようにすること
マクドナルドは各地域の顧客の行動を詳細に観察し、彼らにとって慣れ親しみを感じるようなメニューを提供することで、消費者に受け入れられている。

だが、マクドナルドでさえもこれらのことを実行することを忘れてしまうことがある。お茶を愛する、ミネソタ州のミャオ族(中国から移住してきた少数民族)に無理をしてコーヒーを売り込んでいることが悪い例として挙げられている。

2012年10月12日金曜日

都市から攻める新興国市場


McKinsey Quarterlyのレポート”Unlocking the potential of emerging-market cities”によれば、大抵の企業は国・地域単位で資源配分を行っているが、より速く成長するには都市に焦点を変えたほうがいい。


現在、巨大な都市化の波が新興国の成長を強力に後押ししている。2025年には40億人を超える強力な消費者層が世界に生まれるが(1990年時点では10億人程度であった。)、そのうちの半分は新興国の都市が占め、消費、モノへの投資併せて25兆ドルの経済活動が発生することとなる。


2010年現在の世界のGDP(60兆ドル)のうち、先進国の大都市が36%を占め、抜きん出ているが、2025年までの経済成長に対する寄与度としては、新興国の上位443都市で47%、新興国のそれ以外の地域で27%、先進国で26%となっており、新興国の大都市に大きな成長の可能性が広がっていることが分かる。


しかし、成長戦略を構築する際に、都市の持つ重要性を十分に理解しているビジネスリーダーはほとんどいない。また、既存の確度の高い案件から将来を見据えた案件に予算を回すことも容易ではない。だが、そこで先行企業(early-mover)になることで、人口動態や所得のトレンド、消費の特徴等、各都市に応じたレンズ(モノの見方)を持つことができる。分野ごと(65歳以上の高所得層、低所得の若者、洗濯用品への消費支出、商業売り場面積への需要、水の需要)に2025年までに最も増加率の高い都市をランキングしている。

・高齢者向けのヘルスケア製品を取り扱っている企業であれば、購買力平価ベースで2万ドルの所得を持つ高齢者が増加し、最も多くなる上海、北京が重要な市場となることが分かるであろう。先進国で同様の状態となるのは東京、大阪くらいしかない。

・幼児用食料品の市場として、子どもを持つ世帯数についてはアフリカが有望となってくる。アフリカにおけるそうした世帯の所得は購買力平価ベースで7500ドルから2万ドル程度となっている。

・洗濯用製品市場として、サンパウロ、北京、リオデジャネイロ、上海は最も有望であるが、それは世界的な消費動向の一部でしかなく、新興国都市部の消費者はさらに年間14兆ドルを消費すると見込まれている。

・世界中の都市は2025年まで少なくとも10兆ドルを物理的なインフラに投資しなければならない。うち不動産投資の増加のうち、40%は中国の都市が占めることとなる。

・都市部の水関係インフラの整備には、2025年までに4,800億ドルが必要となり、うち80%はムンバイ、デリーなど、新興国の都市が占めることとなる。 

同じ国の中でも、都市毎にその選好が異なることから消費行動(自社製品の選択率)に違いが出てくる(地域ごとの家計の所得水準の差を調整した後でも同様の結果)。


グローバルな経済活動の中心は既に新興国に移っているのはもちろんであるが、さらにその諸都市への着目が求められる段階まで競争のレベルが上がってきているということであろう。

2012年10月9日火曜日

顧客満足度・リピーター・推薦者 (ESQi*NPS)


2012年6月に発表されたBain&Companyのリサーチレポート「日本の消費者市場の潜在可能性を喚起する新たな視点とは」では、日本の国内市場の持つ可能性を肯定的に捉えつつ、既存企業が消費者に十分な価値を提供できていないとし、4つの対応策を提言している。
  1. 国内市場構造の変化に対応したビジネスモデルの再設計 
  2. ソフトイノベーションを通じた豊かな顧客体験の創造 
  3. ロイヤルティリーダーとなるための事業設計 
  4. 真実の瞬間(Moment Of Truth)をブランドに織り込む 

このうち、ロイヤルティリーダーとなるための事業設計の中で、彼らの開発したツールNet Promoter Score (NPS)が紹介されているが、以前このブログで紹介したEnterprise Service Quality index (ESQi)を精緻化したものであると言える。簡単にまとめると、以下のとおりとなる。


ESQi NPS

比較検討
回答方法 5段階評価 11段階評価
精緻な分析が可能となっているが、詳細に過ぎ、回答の正確性に疑問がある。
算出方法 最上位評価が全体の回答に占める割合 最上位評価(9-10)-平均以下評価(0-6)
企業の評判を貶めるおそれのある消費者にも目配りされている。


個人的な結論としては、ESQiとNPSの中間が最も実用的な指標ではないかと思われる。過度に精緻化された指標では、消費者の回答の正確性、従業員のサービス改善における実感を伴った参照可能性に問題があると考えられるからである。

・5段階評価
「大変満足した」、「満足した」、「ふつう」、「満足していない」、「不満である」
・指標
最上位評価(「大変満足した」)-平均以下評価(「ふつう」、「満足していない」、「不満である」)

2012年10月7日日曜日

ビジネスプランの意味とポイント

HBR Blog Network の“Heart, Smarts, Guts, and Luck”で紹介されている、成功したアントレプレナーへのアンケート結果によれば、その70%が、起業時にビジネスプランを作成していなかったという。彼らのビジネスは文書ではなく、感覚的なものから始まっている。


このことは、文書が全てダメだと言っている訳ではなく、完璧なビジネスプランを書こうとすることによって、「概ね正しい」というよりは「微妙に間違っている」ようになってしまうという背景がある。これは、一般的にビジネスプランで詳細に語られる内容(潜在的な巨大市場など)が、事業を行う上で現実的に対応すべきことと乖離しているからである。


創業当初は資源も限られており、ビジネスプランにとって最も重要なのは事業コンセプトが正しいか否かを継続的に観察できる現実のデータとなる。そして、これはスタートアップだけではなく、どんなビジネスにも戦略的な観点から必要なことである。これはヘンリー・ミンツバーグの創発的戦略(emergent strategy:まず戦略があってそれが実行されるという一般的な考え方と異なり、ミッション、目標、客観的指標などを意図せずに実行され、それから結果として実現される戦略という捉え方)に共通するものである。


ビジネスプランに過度に捉われる必要はないが、自らの思考を方向付け、有望な投資家を引き寄せ、チームを上手く連携させていくには、以下のポイントを設計時に考えておく必要がある。

(1)自分の思いと目的を特定し、明確に述べる。

(2)どんなビジネスアイデアやプランよりもチームが重要である。

(3)大きく考え、小さく始め、速く成功若しくは失敗する。

(4)市場をそのまま捉えるのではなく、しっかりと定義づけしたセグメントやニッチに集中する。

(5)自らのビジネスモデルを理解する。

2012年10月5日金曜日

都市化と所得水準

経済発展による社会の変化については通常、産業の高度化とともに、工業、サービス業といった産業が発展し、都市部に雇用が生み出され、その所得水準も向上していくという流れが考えられるが、アフリカ諸国はそうなっていないようだ。

世界銀行が公表した"World Bank. 2012. World Development Report 2013 Overview: Jobs.Washington, DC: World Bank. License: Creative Commons Attribution CC BY 3.0"(日本語のレポートもあります。)の中に、1985年と2010年時点における都市化率と一人当たりGDPの変化をプロットした表があるが、両者に正の相関関係が見られるアジア諸国に比べて、アフリカ諸国ではエチオピアなどを除きそうした関係は見られず、概ね都市化率のみが上昇している。

























おそらくアジア諸国では経済成長というプル要因で都市化が進んだのに対して、アフリカ諸国では農業の効率化というプッシュ要因で都市化が進んだことが原因かと思われる。この世界開発報告では、雇用が経済と社会の発展にもたらす意味について詳細に分析している。

2012年10月1日月曜日

M&A成功のための4つのポイント

Bain & Companyの”Asia discovers its M&A potential”by Satish Shankarによれば、力強い経済成長、好調な企業収益、そして政府の規制緩和を受けて、アジア太平洋におけるM&A市場が回復しており、全世界の24%の案件を占めるまでになっている。クロスボーダー案件の急激な増加が顕著であるが、リターンの大きさに付随するリスクを大きさもあるとし、これまでの事例からM&A成功のための4つの特性を抽出し、紹介している。


1.企業の成長戦略に適合したM&A戦略
シンガポールを本拠地とするOlam Internationalは、世界的な農産物、食料品のサプライヤーとしての地位を確立するため、企業買収を進めてきた。その特徴として、既存ビジネスにおける主導的地位の確保、隣接するビジネスへの進出、新規市場における参入障壁の突破、新たな能力の獲得、価格支配力の強化等が挙げられる。また、M&Aの頻度、規模、タイミング、支配権について、ガイドラインも定めている。例えば、新聞の一面を飾るような大規模のM&Aではなく、一つの案件を自らの時価総額の10%以内に限定する、一年間に達成する案件も自らの時価総額の15%に抑えている(「一連の真珠」アプローチ)。

同様の事例として、インドの家庭用品、介護用品メーカーGodrej Consumer Productsは、M&Aに乗り出すまでに2年間の準備期間をおき、M&Aチームを設け、詳細な統合マニュアル、M&A候補抽出のためのスクリーニングプロセスなどの戦略を策定している。具体的には、自社の3つのコアカテゴリ、新興国市場、当該市場の有力企業といった案件に限定するなどしている。


2.統制され、また自社の能力を踏まえた、反復可能なM&Aモデル
例えばOlam Internationalでは、6名のコアメンバーからなるM&Aチームが、各ビジネスユニットによる企業買収の全工程を、ガイドラインや企業戦略に沿って支援している。


3.価値創出、プロセス統制、人的課題の迅速な解決に集中した、企業統合 
東南アジアのある小売企業は、それまで赤字企業を買収し、統合により即座に価値を生み出そうとしていたが、新経営陣がほとんどの儲けの出ない業務を切り捨て、シンガポールとマレーシアの2つの中核市場に集中するようになった。地域を絞り込んだ統合により、サプライヤーに対する購買力が増し、大幅なコスト削減に成功した。また、具体的取組の紹介はないが、人事関係の課題を特定し、解決することで、統合から三年後も成長を続けているとしている。


4.粘り強さ(経験の蓄積) 
ベインによる調査の結果、M&Aは頻繁に行っている会社ほど、M&Aから大きなリターンを挙げている(経験曲線)。具体的には、頻繁にM&Aを行っている会社は、たまにM&Aを行う会社に比べて1.4倍、M&Aに積極的でない会社の2倍以上のリターンを挙げている。

2012年9月29日土曜日

インド経済

前回の投稿で「インドの経済改革」を取り上げたが、ウォールストリートジャーナルの記事によれば、その背景には経済問題(直近10年間で最低レベルの経済成長率(6%以下)、財政・貿易赤字)があった。そこで、今回はインド経済について、”India: Losing its way”(Global Economic Outlook, 3rd quarter 2012, Deloitte) by Pralhad Burliを簡単にまとめておく。


〇インド経済低迷の背景には、世界的なマクロ経済情勢のみならず、市場に非友好的な経済政策、政治の停滞、意思決定を回避しようとする官僚機構の問題がある。


〇経済に勢いがなくなってきるのは以下のデータ、経済構造から明らかである。
・2011年度の実質GDP成長率は6.5%

・2011年度第4四半期の実質GDP成長率は5.3%(2012年度第1四半期は5.5%)



Data from World Bank


・農業が圧倒的に大きな雇用吸収先となっているが、2011年度第4四半期には1.7%しか成長していない。インドでは地方の消費がGDP成長の最大貢献者になっているが、この農業セクターの停滞が消費を抑制し、国家経済に影響を与えている。

"The World Fact Book" CIA

産業別GDP貢献割合(2011):農業(17.2%)、工業(26.4%)、サービス業(56.4%)
産業別雇用割合(2009):農業(52%)、工業(14%)、サービス業(34%)


・加えて、第二次・第三次産業の成長も期待を下回っている。2011年度第4四半期、両者はそれぞれ1.7%、7.9%の成長であったが、前年同期のそれぞれ7.0%、10.6%に比べると減速は否めない。また、輸出セクターも不調である。


〇一方、金利水準は高く、借り入れコストは高止まりしており、投資の足を引っ張っている。しかし、インド準備銀行(RBI)は、高い成長率であった2003年-2008年間に比べて実質的な貸出金利は低い水準にあるとレポートし、6月の金融政策会合でも現在の金融政策を維持するとしている。その根拠には、4月に既に市場予想を上回る大きな金利引き下げ(8.5%→8.0%)を行っていること、現在の経済情勢では金利が投資にもたらす影響は限定的であることが挙げられている(9月17日の金融政策会合でも8.0%に据え置き(ロイター))。つまり、インド準備銀行は、経済成長よりもインフレを気にしていると言える。



Data from World Bank

直近のインフレ率(Bloomberg Businessweek


〇また、インドルピー(INR)は、(対米ドルで)急落してはゆっくり回復するというボラティリティの高い動きとなっており、BRIC諸国の中で最も悪いパフォーマンスを示している。不調な世界マクロ経済を反映して、資金が安全資産にシフトしており、インドから資金が引き揚げられている。また、欧州の銀行がレバレッジを解消する動きも継続している。インドは財政・貿易赤字を抱え、外資を必要としているが、欧州金融危機と中国経済の失速が投資心理を冷え込ませている。


格付け機関もインドの経済見通しを引き下げ、また信用格付けもジャンクに引き下げられようとする状況になっているとしている。インド経済は巨額の補助金による財政赤字、増加する輸入による貿易赤字、高止まりするインフレ率という問題を抱え、金融政策のみでなく、抜本的な経済構造改革が必要な状況となっている。

2012年9月27日木曜日

小売市場を中心としたインドの経済改革

HBR Blog Networkの”Open India: considerations for Retailers” by Vijay Govindarajan, Javed Matin, and Christian Sarkarによれば、インドのマンモハン・シン首相による「強い経済こそが善政である(Good economics is good politics)」との考えの下、1991年7月の市場開放以来、最も重要な経済改革を進め出した。対象としては、小売、航空機、放送そして発電産業が含まれている。


小売産業における外資規制緩和
ウォールマート、イケア、テスコなど、複数のブランドを取り扱う小売業者(Multi Brand Retail: MBR)には出資比率51%までの直接投資が認められることとなる。しかし、人口100万以上の都市でしか営業できない、最低投資額が1億USドル以上、直接投資額の少なくとも50%以上は三年以内にバックエンド・インフラに行うことといった制約も付いている。


この更なる経済自由化への動きを踏まえ、ビジネスとしてどのように対応すべきか
上記開放政策の発表後、弱者切り捨てではないか等の反対が出てきている。インド進出戦略の立案に当たっては以下の点を検討しておく必要がある。

市場の選択
・どの州で小売りを展開していくか。(インドではビジネスに係る権限は州政府が有している。)
・どのようなインフラ需要があり、何を自ら建設する必要があるか。
・競争相手はどのように計画しているか。(ウォールマートは2年以内に進出することを計画中との記事がある。)
・どの地元パートナーと提携すべきか。
・どのようにして信頼を勝ち得るか。

包摂
・人種、宗教、性別などの違いを包摂していけるか。
・家族経営の雑貨商(kirana)にどのような影響が生じるか。
・kiranaを自らの流通ルートに組み込んでいく方策はあるか。
・地域コミュニティはどうか。
・進出にあたって他の新興国市場から学んでおくべきことはないか。

現状破壊
・進出により、最も影響を受けるのは誰か。
・チェンジマネジメントに何を利用するか。
・地元の政治情勢をどのようにフォローし、理解し、そして関係を形成していくか。
・サプライヤーや地元パートナーのビジネス、消費者の生活をどのようにして改善していけるか。

ビジネスモデルの革新
・利便性を保ちつつ購買における規模の経済と効率的なサプライチェーンを活かして低価格商品を消費者に届けるため、どのようにして小規模店舗を使ったビジネスモデルを発展させていくか。
・地元の顧客は何に価値を見出すのか。
・必要とされる製品やサービスへのアクセスをどのように顧客に提供するか。
・搾取せずに責任をもって販売するにはどうすればいいか。
・自分たちのビジネスモデルに対してどのように信頼を構築していくか。

ブランドの構築・維持
・どのようにして消費者教育をしていくか。
・サプライチェーンを管理するために何ができるか。
・(米国企業を念頭において)どのようにしてパートナー企業やサプライヤーと共に海外腐敗行為防止法、児童労働法を順守するか。

文化的認識
・どのようにして植民地的発想を回避するか。
・地元指導者との協働に際して、どのような影響を行使できるか。
・自らの価値観を守りつつ、どのようにして地域の伝統を尊重していけるか。


なお、ウォールストリートジャーナルとヘリテージ財団が公表している経済自由度指標(Index of Economic Freedom)において、インドは179か国中123番目(ほとんど自由でない(Mostly Unfree))に位置付けられている(2012年時点)。

2012年9月26日水曜日

新興国市場におけるブランド構築とシェア拡大の作法

以前、Bain&Companyの“What Chinese shoppers really do but will nevertell you”をもとに中国消費者の購買行動を紹介したが、McKinsey Quarterlyの”Building brands in emerging markets”by Yuval Atsmon, Jean-Frederic Kuentz, and Jeongmin Seongでは中国を中心とする新興国市場の消費者の購買行動を分析している。そして、口コミ効果を活用し、小売店頭で自社のブランドを目立たせ(in-store execution)、買い物客の短い購買検討リストに入り込んだ企業が、新興国市場において顧客のロイヤリティを獲得するのに成功しやすいとしている。


世界中の2万人を対象とした調査で、最近のその意思決定は過去に考えられていたような直線的な収束モデル(traditional metaphor of a “funnel”)ではなく、多くのフィードバックを伴う曲がりくねった過程(Consumer Decision Journey)として捉えられるようになってきている。そんな中、マーケターが対応すべき四つの段階がある。

1.最初の検討(Initial Consideration)
消費者が何らかの製品・サービスを購入することを決め、対象となるブランドをリストアップする段階

2.積極的評価(Active Evaluation)
消費者が購入するブランドをリサーチする段階

3.閉鎖(Closure)
消費者が購入するブランドを決定する段階

4.購入後(Postpurchase)
消費者が購入した商品やサービスを体験する段階


新興国市場の成長とともに、その消費者も先進国のそれと同様に複雑、そして変化のテンポが早くなっており、上記のモデルが概ね適用できるところであるが、新興国の消費者の多くは消費経験が不足し、これから「初めての」車、テレビなどを購入しようとする段階にあることが指摘され、先進国の消費者と比べて以下の三項目がより重要となる。

1.口コミ効果

一般的に、消費経験が不足しているほど、知人の保有・使用状況を参考にすることで自らの消費決定に自信と安心を得ることができる。食品・飲料品の消費者に対する調査で、アメリカとイギリスのおよそ30%から40%の回答者が購入前に友人や家族からの推奨があったとする一方、アジアとアフリカの回答者はより高い割合がそのように回答している(中国(71%)、エジプト(92%))。

また、新興国の人達は距離的、心理的に近いところで生活しており、オンラインよりも実際の口コミが機能している。このことは国全体や大都市を対象にするよりも地域を限定してマーケティングを行うほうがより効果が高いことを意味する。近接する都市群で一定のシェアを取ることで、正のサイクルが回転し始める(市場シェア10~15%が転換点。)。中国のミネラルウォーター市場において、南部地域からを基盤としてシェアを拡大している華潤創業有限公司(China Resources Enterprise, Limited)の「怡宝(C'estbon)」や、インドの生理用ナプキン市場において、思春期の少女に教育やサンプルを提供することでブランドの浸透に成功したP&Gが紹介されている。


2.最初に検討されるブランドリストに入ること
 
新興国の消費者はより少数のブランドリストの中から選択を行うことが多く、またその中からより頻繁に購入する傾向にある。自らのブランドをそのリストに加えさせるため、まずはテレビ等のメディアの活用する必要がある。この際、新興国の消費者はローカルなテレビや新聞を見ていることが多いことに注意が必要である。加えて、ローカル市場の選好、懸念に沿ったメッセージを届け、消費者の信頼を獲得する必要がある。ここでは、耐久性やエンターテイメントといった要素を重視する中国のPC市場において、高コストパフォーマンスを売りにして失敗した台湾Acerが、シンプルさや高生産性から信頼性に強調するメッセージを変更して成功した例が挙げられている。


3.小売店の店頭において製品をアピールすること 

新興国の消費者は、製品の調査、セールスパーソンからの情報収集、価格交渉により多くの時間をかける。典型的な中国人は電化製品の購入までに少なくとも2か月をかける。そして、アメリカ人(245)の倍近い中国人84559がセールススタッフとのやりとりなどを通して、来店前の予定と異なるブランドの製品を購入している。いくつかの卸段階を経て製品は小売店の店頭に辿り着くため、メーカーは自らの製品がどのように消費者に届いているか十分に把握できていない。インセンティヴの付与、卸業者との連携、小売店の管理を通じて、改善を図る必要がある。インド市場で150万店舗をカバーしているユニリーバが営業社員に携帯端末を配備し、迅速かつ効率的な商品補充をしている事例や、コカ・コーラがインドネシア市場において、直接商品を配送していない小規模小売店に対して無料の冷却器を配ったり、トレーニングを提供したりしている事例が挙げられている。


今回の記事において注意すべき点としては、多少強引に新興国を一括りにしている点が挙げられる。”アジア市場の攻略”でも説明したとおり、共通点を有しつつもやはりアジアは多様性に富んでおり、国ごと、そしてさらに小さい地域ごとに分けて考えていく必要がある。口コミ効果の説明箇所で、アジアでは購入前に友人や家族からの推奨があったとする率が高いとの指摘があったが、インドネシアは欧米並みの44%となっていることなどはその証左である。

2012年9月24日月曜日

ツイッターのプロフィール画面を活用したブランディング

ツイッターはそのプロフィール画面を、フェイスブックのタイムラインのように活用できるように改良を加えた。これを受けて、 T.J. Crawfordの”How brands can utilize the Twitter header photo”では、企業が取り組むべきポイントを以下のとおりまとめている。


1.ヘッダーの画像を意味あるものに
自社のプロフィール画面に意味のあるヘッダーの画像を用いることにより、訪問者に自らそしてその体現しようとしているイメージを伝えることができる。上手い活用事例として、Oxfam AmericaというボストンのNPOが最新の活動状況を画像で確認できるようにしている。なお、代表的な消費財メーカー(GAP、Uniqlo、P&G、Shiseido、Kao)のツイッターアカウントを確認してみたが、十分に対応していると言える日本企業はなかった。

2.イメージを覆す
多くの団体にとって、このレイアウトの変更は自らに対する凝り固まった先入観を払しょくするのに活用できる。New York Cityが背景画像にニューヨークの雰囲気を表す画像を用いることで、公的機関としての威厳を保ちつつ、退屈なイメージを覆すのに成功していることが成功事例として取り上げられている。ちなみに、日本でソーシャルメディア先進自治体の代表例として取り上げられる武雄市でもそこまでは取り組みが進んでいない。また、東京にはツイッターのアカウント自体ないようだ。

3.自らのビジネスを明確に伝える
背景イメージはコミュニケーション手段として、ヘッダーは自らのビジネスをクリアに伝えるものとして使い分けることが重要である。

4.クリエイティブになる良い機会として(項目のみ)

5.個人にとっても自らをブランディングする機会となる(項目のみ)


と、ここまでブランディングという観点から、ツイッターのプロフィール画面の活用について紹介してきた訳であるが、企業間の比較をしていて思ったことは、中途半端にやっていると逆にブランド価値を損なうということ。そもそもコミュニケーションが取れていない相手と、繋がってはいるが不十分なコミュニケーションしか取れない相手、どちらがいいかということです。ただ、ブランディング、ソーシャルの持つ意味が大きくなっている昨今、ツイッターも避けては通れない一つのツールであり、プロフェッショナルにしっかりとやることが重要。

2012年9月23日日曜日

アジア市場の攻略

BCGのLarry Kamener, Ross Love, Jim MinifieとTom von Oertzenの“Asia’s Century: Where and How to Win in Asia”では、アジアにおけるチャンスをどのようにしたら域外の企業が手にすることができるかについて、アジアで成功しているオーストラリア企業(資源セクターを除く。以下同じ。)からの知見をまとめている。


まず、今後のアジア経済について、2030年までにその実質GDPは67兆ドルと現在の倍以上となり、ヨーロッパとアメリカのGDP合計額を抜くと予測されている。そうした経済成長の要因として、(1)インフラ、住宅、産業そして人的資源への大きな投資(2030年には22兆ドルと予想。)、(2)アジア経済の成熟・統合(域内貿易額は2000年から3倍にも増加している。)、(3)世帯所得の上昇に伴う消費財への高い需要(2030年には45兆ドルと予想。)、が挙げられている。


文化、経済、人口動態、商慣習の異なるアジア全体に共通した市場攻略方法は存在しない。また、同じ国の中でも地方によって異なる。だが、成功したオーストラリア企業の共通点として、高度な技術・サービスセクター、地政学的な長所、天然資源に価値を付加する能力といった自らの長所をアジアの成長と上手くマッチングすることで、その成長を取り込んでいることが分かる(下図参照)。



実際にそれらの企業がどのようにして成功したかについて、各ポイント(顧客に提供できる価値の定義づけ、成長戦略、オペレーションモデル)に対応する、アジアの現実(地域間の相違と長所、関係や信頼の重要性、変化に富んだ市場)と、企業の対応策(現地化、関係構築、適応的モデルの構築)が以下のとおりまとめられている。


顧客に提供できる価値の定義づけ
アジアの消費者の趣向は、所得階層や人口動態とともに国や文化で異なる。BtoBにおいても、その経済発展段階、成長のスピード、商慣習や規制で異なる。だが、一般的に評判や(アジア地域における当該企業の)規模が重要視される。つまり、ネットワークや規模の経済が複数のアジア市場において有効であるということであり、カスタマイズと企業規模のバランスが重要となる。 

成長戦略
アジアにも競争力のある地元企業があり、どの市場にどういった強みを生かして切り込んでいくか検討、優先順位づけが必要である。また、クライアントや顧客と関係を構築し、信頼を得るには、ちょっとした困難に直面したくらいでは退出しないことなどを示す必要がある。

オペレーションモデル
アジアの多様性、変化の激しさに対応していくには、現地化(地域の文化、社会、商慣習に係る従業員教育、現地従業員の職責の明確化)、適応性(目的の共有、チャレンジの促進と失敗への寛容、学習する組織)が重要となる。


と、当然のことが書いてあるわけであり、アジア進出済みの多国籍企業を除いた、欧米企業のアジア進出の進展具合の程が読み取れるわけであるが、実務的なレベルでこれらを実行するにはかなりの労力が必要であり、これからアジアに進出しようとする日本企業も考えておくべき点が含まれているであろう。

2012年9月21日金曜日

米国経済が抱える問題(所得税の限界税率と経済成長、そして所得不平等の関係)

何度か米国経済が抱える問題について取り上げたが、今回は今月14日にCongressional Research Service(米国連邦議会図書館が、党派中立的な立場から米国議会に政策的・法的提言を行うもの。)が公表した”Taxes and the Economy: An Economic Analysis of the Top Tax Rates Since 1945”を簡単にまとめておく。なお、レポートにコピーガードがかかっているため、図表は直接参照願います。


まず、数字の確認であるが、アメリカにおける最高所得層に対する限界税率はほぼ一貫して下がり続けている(1940・50年代の90%から現在の35%への低下)。また、キャピタルゲイン課税についても1970年代を除き、低下している(1950・60年代の35%から現在の15%への低下)。一方、実質経済成長率及び一人当たり実質経済成長率は、それぞれ1950年代の4.2%、2.4%から、2000年代の1.7%、1%弱への低下している。


ここから、分析に入るわけであるが、まずは限界税率を引き下げることによって経済成長が促進されるとする論者の根拠として、税引き後所得の増加、貯蓄と投資の増加、労働供給の増加、生産性の向上が挙げられている。しかし、総合的には、そうはならないとの反論を行っている。

・労働供給の増加についてはデータ上そのような行動が見られない。

・私的経済主体についてはデータ上、限界税率の増加に伴う貯蓄率の上昇が見られるが、統計的に有意とは言えない程度のものである一方、公的経済主体は税率低下による税収減に伴い貯蓄を減少させており、全体として限界税率の低下が貯蓄を減少させている。

・租税が一般的に内包する所得効果と代替効果に加えて、キャピタルゲイン課税にはリスクテイク効果がある。つまり、税率が高まるほど、投資の成否の影響(リスク)が抑えられ、投資が活発になるということである。そして、データ上最高税率と投資量の間には負の相関関係が見られるが、統計的に有意と言えるほどではなく、大きな関係はないとしている。

・税率低下が投資、技術革新、労働者の質や起業家意識の向上、競争の激化を通じて生産性を上昇させるという見方がある。実際のところ、最高所得限界税率と生産性の間には弱い正の相関関係、最高キャピタルゲイン税率と生産性の間には弱い負の相関関係があるが、結局どちらも統計的には有意ではないとしている。

・一人当たり実質経済成長率と税率との関係は弱く、また大規模減税と経済成長との間にもそれほどの正の影響は見られず、高所得層に係る税率の変化が経済に与える影響は無視できる程度のものであるとしている。


なお、そもそもの所得格差のデータとして、1945年に比べて全体としての所得は2.16倍になったが、同期間に上位1%所得層が2.65倍、上位0.1%所得層の所得が約5倍、上位0.001%所得層の所得が約8倍になったとし、所得不平等が主に上位1%所得層の影響によるものであると分析している。そもそも所得不平等解消の是非については、社会全体の厚生、社会的紐帯の維持といった観点から賛成の立場、技術革新やアントレプレナーシップ(リスクを取ることへのインセンティブ付与)といった観点から反対の立場とがあるが、多くは前者の立場にある。


つまり、米国経済は、継続して所得に係る限界税率を低下してきたものの、明確なほど経済成長を促進するには至らず、所得不平等は拡大するという状況にあったことが分かる。


最後に、財務省のHPによれば、2012年1月現在の、日本、アメリカ、イギリスの所得税の税率の推移は以下のとおりとなっている。


2012年9月20日木曜日

続・消費者にシンプルに伝える

前回紹介した”What Do Customers Really Want?”の続編、Karen Freeman, Patrick Spenner と Anna Bird の“If Customers Ask for More Choice, Don’t Listen”では、Barry Schwartzの”The Paradox of Choice”を引用しつつ、消費者は多くの選択肢を持つことにより、何かを選択することで他の選択肢を失う代償を恐れ、そしてそれが不安、分析麻痺、後悔を引き起こすとしている。


だが、全世界7,000人の消費者調査では解釈が必要な結果が出ている。ほとんどの回答者は「丁度良い量の情報」、「丁度良い数の選択肢」を持っていると回答している一方、多くの消費者が実際には迷いながら意思決定し、その後もその行動を振り返ったり、後悔したりしている。つまり、この記事の表題のとおり、消費者には言行不一致が見られ、言うとおりに情報を提供し続けると、購買に係る消費者の意思決定を妨げ、販売のチャンスを逃すこととなる。


ということで、記事では消費者に提供する選択肢を上手に絞り込むという解決策が一例として示されている訳であるが、もう一つ解決策はあると思われる。全体としての選択肢の数はそのままに、ポートフォリオを上手く調整し、異なるタイプの消費者にそのうちの一部がクローズアップして届くように上手く誘導すればいい。ただ、実際のところ、多くの企業がこのように行動し、失敗しているからこそシンプルに提示することが求められているのであろう。

また、ここまでの話はあくまでその企業がコントロールできる自社のポートフォリオの話であり、他社も含めた選択肢を考えると、どうなるか。。。玄人しか理解できないような中度半端な差別化では意味はなく、消費者が認識できる程度・形での差別化、そしてそれをシンプルに訴えることが重要であることがわかる。○×○ピクセルのモニターとかではなく、「あー、他よりきれいな画面。」というレベルである。

2012年9月19日水曜日

消費者にシンプルに伝える

Karen Freeman, Patrick Spenner そして Anna Bird の“What Do Consumers Really Want? Simplicity”によれば、昨今の消費者はいわゆるAIDAの流れで選択肢を徐々に絞り込んでいくような購買行動(purchase funnel model)は取っていない。


調査によれば、そうしたアプローチを取る消費者は全体の三分の一に過ぎず、その主な理由として認知荷重(congnitive overload)が挙げられている。情報過多で処理が追いついていないということだ。

他の約30%の消費者は開放的な購買行動を取っている。継続的に情報収集し、購入するブランドの入れ替えを行う。

そして、残りの30%はトンネルという購買行動を取っている。これは、深く考えることをやめ、単純に一つのブランドを選択することを意味する。当然、これはブランドロイヤリティに基づく行動ではない。ということで、これらのグループにアプローチするには、シンプルに製品・サービスを消費者に届けるということが重要になる。


結局、企業がどのように消費者とコミュニケーションを取っていくかという問題となる訳だが、失敗している企業はあらゆる潜在的顧客に丁寧に詳細な情報を伝えようとして、逆に上手くコミュニケーションできないでいる。取りうる手段は二つで、以前紹介したように、信用足りうる第三者としてBrand Advocatesがその咀嚼した情報をソーシャルメディアや口コミ(WOM)を介して伝播してくれるようにする仕組みを作り上げること、そして今回のようにそもそもシンプルな情報を流していくこととなる。平凡な結論ではあるが、(相互排他的ではない)両者をどう上手く組み合わせていくかということになるのだろう。

2012年9月17日月曜日

戦略的に戦略を決める

Martin Reeves、Claire Love、Philipp Tillmannsの”Your Strategy Needs a Strategy”によれば、予測可能性と影響力行使可能性といった観点から、環境を四分類し、分析した上でなければ、適切な戦略を選択することはできない。
〇環境の分類軸

・環境の予測可能性(Predictability):需要、企業業績、競争の変動、市場の期待をどれだけ先まで、どれだけ正確に、自信を持って予測できるか。

・環境への影響力行使可能性(Malleability):自社、競合他社がどの程度、上記の要素に対して影響を行使できるか。


〇分類された、各環境に対応する戦略

(1)典型的対応 (Classical)
石油産業など、環境は予測できるが、企業がそれを変化させられない産業。長期的観点からの戦略策定が重要であり、また可能であるため、時間をかけて分析的、量的なアプローチをすることとなる。

(2)適応的対応 (Adaptive)
ファッション産業など、グローバルな競争、技術革新、社会との相互影響などにより、環境変化の予測が困難であり、かつ企業がそれを変化させられない産業。ラフな仮説に基づいた小規模の試みをオペレーションと密接に結び付いた形で短いサイクルで繰り返し、最小の情報的・時間的ロスで変化のシグナルを捉えることとなる。

(3)形成的対応 (Shaping)
情報ソフトウェア産業など、市場が若くて成長率が高い、参入障壁が低い、イノベーションが盛んに起こる、環境変化の予測が困難だが、企業がその状況に影響を及ぼすことも可能な産業。マーケティングやパートナーシップなどにより、自らにとって有利な環境を形成することとなる。Facebookがそのプラットフォームを公開し、サードバーティーによるアプリを増強することでMySpaceを駆逐した例が挙げられている。

(4)先見的対応 (Visionary)
環境変化の予測が可能であり、影響を与えることも可能な産業。新産業創出、新たなビジョンでの自社の再活性化などの対象となるものである。インドのタタによる超低価格の自動車、「グローバルなイーコマースを可能にする者」という新たな自己認識を確立し、オンラインリテールの隆盛で出現した配送需要を取り込んだUPS(アメリカの物流会社)の例が挙げられている。


上記の分類に際して犯しがちな誤りとして、予測可能性と影響力行使可能性の過剰評価、企業文化と戦略の不適合、地域間や企業の成長フェーズでの相違の見誤りが指摘されている。

2012年9月13日木曜日

どこでもエアバッグ Hövdingは化ける(気がする)

既に和訳されている情報もあるが、気になった製品があったので、思ったことを簡単に書いておく。
The Invisible Bike Helmet: An Airbag On The Go (TechCrunch)
上記記事の日本語版
The invisible airbag helmet Hövding (David Report)


TechCrunchの説明を読めば分かるように、これはスウェーデンの工業デザインを専攻していた女性2人が生み出した、Hövdingという首に巻きつけるエアバッグである。



よくヘルメットを被らずに自転車に乗っている人を見かけるが、そんな人たちにも使ってもらえるように、ヘルメットの代替物として研究開発された。加速度計とジャイロ・センサーを活用して事故を感知し、作動するとのことである。市販も始まったが、600ドルという価格と一度きりしか使用できない欠点もある。


ただ、ちょっと考えてみると、Hövdingの持つ機能は、自転車に乗っている人を保護するに留まらないと思うようになった。別に歩行者が着けていてもいいのではないか、と。外出する子どもに着けさせてもいいかもしれない。注意力不足な子どものほうが外で事故に遭う可能性は高く、着けさせたいと思う親は相当数いると考えられる。


であれば、普通のヘルメットを被らせておけばいいと思うかもしれないが、大きな違いとして、Hövdingは首から上を完全にガードすることができるということだ。さすがにフルフェイスヘルメットを被るわけにはいかないだろう。


また、感知する設定を調整すれば、単に自分で転倒した場合にも使えるようになり、ご年配の方々にも使ってもらえるかもしれない。そういう方々にはお尻から腰にかけての部分を保護するエアバッグを売り出してもいいかもしれない。


発表されてから2年間くらい経過しているようであるが、そんな使い方は考えていないようだ。

2012年9月10日月曜日

問題解決の前に正しい問題設定を

アインシュタイン曰く、地球を救うために1時間与えられたら、私は59分を問題設定に充て、残りの1分でそれを解く。
“If I were given one hour to save the planet, I would spend 59 minutes defining the problem and one minute resolving it.”


Dwayne Spradlinは、”Are You Solving the Right Problem?”において、問題の解き方や回答よりも、どう問題設定するかが重要であることを述べ、彼が用いている問題設定のプロセス(challenge-driven innovation)を披露している。なお、記事の中では、発展途上国においてきれいな水へのアクセスを確保することにより、経済発展を支援するNPO、 ”EnterpriseWorks/VITA”(VITA: Volunteers In Technical Assistance)の例を用いて具体的な方法を示している。


問題設定のプロセス

ステップ1:ソリューションに対するニーズを確立する

・「簡潔に、根本的なニーズは何か。」
問題の核心を突く。

・「質的・量的に求められている結果は何か。」
顧客、受益者の視点を理解する。

・「誰がなぜ利益を得るか。」
全ての潜在的な顧客、受益者を特定する。


ステップ2:ニーズの正当性を明らかにする

・「その行為は組織の戦略に沿っているか。 」
そのニーズを満たすことがその組織の戦略的目標の達成に合致しているか。

・「会社にとっての利益とは何であり、またそれをどのようにして測定するか。 」

・「どのようにしてソリューションが実行可能であることを確かなものとするのか。」
どんな資源がどれだけ必要であるかを組織内の高いレベルで議論を始める。特に認識が大きく異なる場合は概算見積りを共有しておく必要がある。


ステップ3:問題を文脈の中に落とし込む

・「どんな方法を試してきたか。」
経験から学ぶことにより、改善を加えたり、失敗を回避したりする。

・「競合相手等、他の人たちはどのような方法を試してきたか。」

・「ソリューションを実行に移す上での内的・外的制約条件はどうなっているか。 」
組織内での合意形成と資源調達、法律や規制などのクリアは大丈夫か。


ステップ4:問題と満たすべき条件を詳細に書き表す
内外の合意や協力を得るという観点からも、解決すべき課題をしっかりまとめておくことは重要である。 

・「書き起こされた問題(problem statement)の中には複数の問題が含まれていないか。 」
複雑な問題は各要素に分割したほうが対処しやすい。

・「ソリューションが満たさなければならない要求は何か。 」
絶対的に満たすべき要求と満たしたほうがいい要求を分別する。

・「どのような専門家や組織(「解決策提案者」)を問題解決に引き込んでいくべきか。 」

・「問題にはどんな情報を含め、どんな言葉を使うか。」
より多くの協力を得るには、具体的、しかし不必要にテクニカルではない程度に問題を記述する。業界特有の専門用語や前提知識を避ける。過去のソリューションを簡単に説明する。

・「解決策提案者は何をアウトプットする必要があるか。 」
仮説的なアプローチを提示してもらうだけで足りるか。本格的な試作品も提供してもらう必要があるか。

・「解決策提案者はどんなインセンティブを必要としているか。 」

・「ソリューションはどのように評価され、また成功はどのようにして測定されるのか。」

2012年9月8日土曜日

ベンチャーの資金調達のためのアドバイス

Michael Fertikは、”Practical Advice for Raising Early Stage Venture Capital”において、アーリーステージでVCから資金調達するためのアドバイスを披露している。


まず、そもそも以下の理由から可能な限り自己資金で事業を進めていったほうがいい。ただし、対象としているビジネスの動きの速かったり、利益が大きかったり、巨大市場で会ったりする場合を除く。
1)会社の支配権を維持する
2)それによって生のビジネス(の厳しさ)を経験し、学習することができる。
3)小さい代償で事業から撤退することができる。
4)外部資本なしで会社をつくり上げることができれば、それはより自立した事業であるといえる。


という前提を踏まえた上で、以下8つのアドバイスの紹介となる。
1)資金調達のアプローチを大規模ファンドから始めてはいけない。
Sequoia capitalKPCBのようなベンチャーファンド業界のトップファンドの影響力は大きく、他のところもその判断に追随してしまう。

2)パートナー以外からの突っ込んだ質問には対応してはいけない。
アソシエイトやアナリストは渉外として情報収集をしているに過ぎず、何の決定権もない。

3)交渉破断後のフィードバックは無視してよい。
投資を見送られた後のフィードバックは割り引いて受け止めたほうがいい。なぜなら彼らはThe Fundedなどで悪く言われるのを避けたいだけだから。

4)事前にプレゼン用資料を送ってはいけない。
どのVCも資料を送るよう要求してくるが、丁重にお断りしたほうがいい。この点については、両者の間に十分な信頼関係が築かれるまでは妥協してはいけない。彼らはその資料から得られた情報を二次活用してしまうからだ。

5)VCとアポが取れたくらいで興奮してはいけない。

6)VCから要求があっても、第三者と会ってはいけない。
VCは手持ちの企業や人材と一緒になることを勧めたりするが、その提案は断ったほうがいい。なぜなら、もっと情報を引き出そうとしている、当該企業の評価についてその第三者の意見を参考にしたいと思っている、そのアントレプレナーの能力を試そうとしていることなどが考えられるからである。

7)トップVCがシードステージでスーパーエンジェルに対抗するためにつくったファンドやインキュベーターのオファーを受ける場合は注意する必要がある。
そのVCだけで十分なくらいの支援を受けられないのであれば、次のラウンド(資金調達)で、何か問題があってそのVCが支援をしないのではないかとの疑念を持ち、潜在的な投資家にとって魅力的な案件でなくなってしまう。

8)いくつか連絡の取れる、友好的なファンドを確保し、定期的に事業状況を説明しておく。
事業についてアドバイスをもらったり、いざという時に支援をしてもらうためである。

2012年9月6日木曜日

米国経済が抱える問題(所得格差の拡大と雇用の流出)

David Leonhardtは、一連のレポートにおいて、米国経済が抱える問題について色々なテーマで解説している。今回は“A Slowdown in Growth, an Increase in Income Inequality”と”Globalization and the Income Slowdown”から、所得格差の拡大と雇用の流出について。


ここ十年ほどアメリカの所得は停滞しているが、主に経済成長の減速と所得格差の拡大によるものである。経済成長の減速については、“米国経済停滞の理由(人口動態の変化)”で取り上げたところであるが、所得格差については以下のグラフで一目瞭然となる。所得階層が上位にあるほど所得上昇率が高いことが分かる。



さらに所得再分配後でも同じ傾向にあることがCBOの”Trends in the Distribution of Household Income Between 1979 and 2007”からも分かる。



では、その原因とは何であるか、いくつか示されている。技術革新、低質な教育による人的資源の劣化、低所得層に大きく響いているヘルスケア関係費用の上昇などが識者の意見として挙げられている。


最も直接的なものとして、グローバリゼーションによる競争の激化、サプライチェーンの世界的拡がりによる産業の海外移転があり、その結果、アメリカ国内に残るのは地域に根差し、外に持ち出せない公共サービス、教育、医療などとなっている。経済学者のMichael Spenceによれば、雇用創出の97%以上はこうした移出できない分野によるものであるとのこと。また、これらの産業の労働者の所得水準は高くない。日本にも共通する課題である。